Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

進行・再興性感染症について(2)

 今日は前節の続きです。

(3) 新興の性的感染が可能な病原体

① Neisseria meningitidis

 N. meningitidisは、健康成人約10 %の鼻咽頭に定着しており、子宮頸部, 尿道, 直腸といった他の粘膜にも稀ながら定着している。この病原体は、以下の2つの異なる臨床像が新興したことでますます認知されることとなった。

1. 尿道

 2015年以来、米国内ではN. meningitidisによる症候性尿道炎の報告が増加している。現在までに、本疾患は異性愛の男性で主に発症しており, 挿入を伴うオーラルセックス(口腔-性器感染)が最も多く報告されている。

 細菌の米国内のclusterから分離したN. meningitidisの全ゲノム配列解析・分析は、高毒性配列 type 11 clonal complex(CC11)内の別個の単系統群の存在を示した。侵襲性髄膜炎感染症と関連するN. meningitidisと違い、尿道炎を起こすものは莢膜遺伝子が欠失しているために莢膜が無く, N. gonorrhoeaeと類似した表現型を示す。

 オハイオで発生したclusterの場合、大半の症例はCDCが推奨する淋菌への治療法( 250mgのセフトリアキソン筋注 単回投与, 及び 1gのアジスロマイシン内服 単回投与)で治療に成功した。

2. 侵襲性髄膜炎感染症

 米国や欧州の都市部のMSM間でclusterが発生した。Clusterと関連した症例の多くが 1. 出会い系アプリorサイトの使用2. 匿名 もしくは 複数のセックスパートナー を自己申告しており、別個のsocial networkingにおける濃厚接触感染が示唆される。

 遺伝子解析では、MSM集団にて世界中でclusterを形成した本疾患の原因は高毒性CC11系統由来のserogroup Cであると判明した。Clusterごとに分子学的profileは異なるものの、このデータはCC11系統の国際的な拡散と, それに続く地域内での拡大を示唆している。今日に至るまで、MSM内での本疾患cluster発生に関連したrisk factorは明らかになっていないが、HIV感染は本疾患の特発症例発生と関連するrisk factorである。

 感染制御は主に、四価髄膜炎菌結合ワクチン(quadrivalent meningococcal conjugate [MenACWY] vaccine)の接種に焦点を当てている。CDCの予防接種諮問委員会(the CDC Advisary Committee on Immunization Practices)は全てのMSMヘのルーチンMenACWYワクチン接種を推奨していないが、HIV陽性で生後2ヶ月以上の人へのルーチン接種は推奨されている。

② リンパ肉芽腫 (lymphogranuloma venereum [LGV])

 LGVはChlamydia trachomatis 血清型 L1, L2, もしくは L3が原因である。一般的にLGVはリンパ系を介して局所リンパ節へ感染することで鼠径部リンパ節炎を来す。LGVの直腸感染は直腸痛, 直腸分泌液を伴う直腸炎を来すことがあり、炎症性腸疾患に似た症候を伴って重症化する場合もある。C. trachomatisのgenotyping使用の増加により、LGV直腸感染の約半数が無症状, ないし 軽症であることが分かっている(非LGVクラミジア感染症と類似)。

 2003年以来、LGVはMSM間で再興しており、主に性器よりも直腸に感染している。多くの高所得国でLGVアウトブレイクの発生が報告されている。MSMにおける直腸LGV感染は、1. コンドームを使用しない感受性の強いアナルセックス や, 2. 拳の挿入を伴うセックス, と言ったリスクが高い性行為と関連しており、HIVとの重複感染が多い。

 LGVの診断は、臨床検体より血清型に特異的なC. trachomatisの核酸を検出によることが理想である。これには次の2段階プロセスが推奨されている。

 1. 最初に、核酸増幅検査を使用してC. trachomatisを検出する。

 2. 次に、genotyping(e.g. PCR genotyping)によってLGVの血清型と非LGVの血清型を鑑別する。

しかし、2.のようなgenotypingは多くの国・地域で利用できる訳ではない。男性とのセックスを申告し, 尚且つ重症の直腸炎を呈している男性は、C. trachomatis陽性となる or genotypeの結果が判明する 前に治療が必要であり, また直腸炎を来す他の性感染症(Table 1)の検査と治療が行われるべきである。

 LVGへ推奨された治療法は21日間のドキシサイクリン投与であった。しかし近年のevidenceは、7日間のドキシサイクリンでも効果が十分である可能性を示唆している。慢性直腸結腸炎 or 横痃形成を伴うような重症例に対しては、最低21日間のドキシサイクリン治療が必要となる。LGV患者に対しては、他のSTIs ー 特にHIV感染 ー の検査も行われるべきである。

③ Mycoplasma genitalium

 M. genitaliumは1981年に初めてSTIsとして記述された(2人の男性から分離された非淋菌性尿道炎の原因菌)。M. genitaliumは通常の培養では成長しないので、診断には分子学的検査を用いる。核酸増幅検査利用の増加によってM. genitalium感染症の診断が増加し、同菌が 1. 男性における非淋菌性尿道と, 2. 女性における骨盤内炎症疾患 の原因だと証明している。また欧州のガイドラインでは、1. 症状がある患者への検査 と, 2. M. genitalium感染症の確定診断がなされた患者のパートナーへの検査(再感染を防ぐため) のみを推奨しており、無症候性の人への検査は推奨されていない。

 M. genitaliumにおいては、アジスロマイシンやモキシフロキサシンを含む抗菌薬に対する耐性が増加している。伝えられるところによると、マクロライド耐性は地域によって30~100 %にわたっており、MSMから採取した検体では最も耐性化率が高かった。非淋菌性尿道炎の治療ガイドラインにて、アジスロマイシン単回投与を第一選択とする方針を撤回した。マクロライド・フルオロキノロン双方への耐性の報告が出現するに連れて、M. genitaliumの治療regimenは変化している。