こんにちは。現役救急医です。昨年末から、ウクライナとロシアの間での緊張がまた高まっています。最近ではロシア-ウクライナ国境, ベラルーシ-ウクライナ国境, クリミア半島へロシア軍部隊が配備されており、ウクライナ国内はもちろんのこと、米国をはじめとする欧米諸国も警戒を強めています。
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ご存知の方もいると思いますが、『ウクライナ vs ロシア』の対立は最近始まったものではありません。私が昨年読んだ書籍『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』(廣瀬陽子 著, 講談社現代新書)には、こうした緊張の背景について幾らかの解説があり、非常に参考になります。以下、同書に記載のある範疇で, 時系列順に綴ってみようと思います。
- 〜15世紀中期: 逃亡農奴・遊牧民をルーツに持つ共同体『コサック』が、ウクライナのドニエプル川流域(当時はポーランド領)に形成される。コサックは乗馬を得意とし、略奪・交易・牧畜・狩猟以外にも, 傭兵となることで生計を立てていた。他にもドン川下流域にもコサックが居た。
- 16世紀後半〜: コサックがポーランド・ロシアなど周辺諸国により軍事力として利用されるようになる。同時に、自治権は制限を受けるようになった。
- 1648年: ウクライナのコサックがポーランドに対し反乱を起こし、自治権を奪回。ポーランドに代わり、ロシアがウクライナへ介入し始める。
- 1722年: ウクライナコサックの政府が廃止され、ウクライナはロシアの支配下に入る。
- ロシア帝国皇帝エカテリーナ2世の命令により、クリミア南部のセヴァストポリに黒海艦隊が創設される(18世紀後期)。
- 1948年: セヴァストポリがソ連の特別市に指定される。
- 1954年: ソ連共産党第1書記のフルシチョフが、クリミアをウクライナに割譲。
- 1991年: ソ連崩壊に伴ってウクライナが独立。
- 反ロシア・親欧米派のウクライナ大統領ユーシチェンコ(在任期間: 2005~10年)が、ロシアのセヴァストポリ貸借権契約の延長(2017年に切れる予定だった)を否定。
- 2010年〜: 親ロシア派のヤヌコーヴィチがウクライナ大統領に就任し、ロシアはセヴァストポリ貸借権契約の2043年までの延長を達成。
- 2013年11月〜: ウクライナで反政府運動『ユーロマイダン』が発生。
- 2014年2月後半: ヤヌコーヴィチが失脚。政権交代の混乱に乗じ、2/27~28の間に正体を隠蔽したロシア側の特殊部隊がクリミアを制圧。
- 同年3月: クリミアで住民投票が行われ、ロシアへの併合が賛成多数となった。その結果を受けてロシアはクリミア編入を実施。同月後半からはウクライナ東部で分離独立運動が発生し、ウクライナ政府軍との武力衝突へ発展。
- 同年8月: ウクライナ東部の親ロシア派がウクライナ政府軍に対し逆転。その後、停戦→破棄→停戦を繰り返した。
- 2015年2月〜: ウクライナ東部の停戦は一応成立している。
ロシアがウクライナに対してここまで露骨に悪質な行為に及ぶ理由は、一言でまとめると「旧ソ連構成諸国, ないし 冷戦中の旧東側陣営諸国が、これ以上西側の影響下に置かれないようにする為」です。対ウクライナに限った話ではないそうですが、ロシア当局は干渉する対象となる国・地域へ、親ロシア派が力を持つように工作する人間を派遣する等して、親ロシア的な風潮がその地域・国の中で形成されるようにしているとのこと。そして軍事力を行使する際などには、各政府機関が管轄する特殊部隊『スペツナズ』のみならず、コサックや, 民間軍事会社(PMC[private military company]とも。雑に言えば傭兵)を動員しています。特にPMCは、あくまで民間企業であるので政府の直接的な関与を否定しやすいこと, 人件費が浮くといった利点もあるそうです。また、ウクライナでの武力衝突の際には、ウクライナ軍の無線通信・GPSへの電波妨害が行われ、ウクライナ軍の作戦行動にかなりの支障が出たそうです。
特定の目的(ロシアの場合は、自国の勢力圏維持と, 仮想敵国の同盟の弱体化)の為に、経済的な手段やサイバー攻撃, ゲリラ・テロ集団・傭兵, プロパガンダや偽情報といった多様な手段を用いた攻撃を行うことを、専門用語で『ハイブリッド戦争』と呼ぶそうです。上記『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』には、対ウクライナ政策だけでなく、ロシアの対日戦略, 中国との関係性, 中東・アフリカにおける戦略など様々な事例が紹介され、分析がなされています。日本にとっても対岸の火事とは到底言えない内容です。興味を持たれ方は是非ご一読下さい。
また、同じテーマでYouTube動画を作成・公開しています。内容は一部、上記内容と重複していますが、是非ご視聴の上、高評価もお願いします。