Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

視点を切り替え、前を向く - 埼玉県医師殺害事件で私の思ったこと 其の二 -

 こんばんは。現役救急医です。昨日同様、今日も埼玉県の訪問診療医殺害事件について思ったことを綴っていきたいと思います。Twitter上では、医療従事者の様々な感情・意見が飛び交っていました。皆相当な衝撃を受けていることは一目瞭然で、なんというか、負の感情が渦巻いています。私も当初、「こんな奴、どうせまた『死刑になってもいい』と言い出すんだろ?こんな奴に毎回死刑判決を出さねばならないなんて、そろそろ司法制度も見直す頃では?」なんて思っていました。

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立てこもり11時間、投げ入れられた閃光弾 事件前日には怒鳴り声:朝日新聞デジタル

しかし、Twitter上で空き時間に他の医療従事者とやりとりするうちに、考えが変わってきました。「こんな奴のことばっか見ていても、キリがないだろう。注目すればするほど、こちらが不愉快になるだけだ」と思い始めました。私は、もうこんな殺人犯のことなんか関知しません。取り調べや法廷で、好きなだけ持論を展開すればいいのです。その分、裁判官の判決・量刑として跳ね返ってくるだけですから。

 

 それよりも私が今一番、世間の皆様へ問いたいことは、「どうしてみんな、いとも簡単に人へ暴力を振るい, 殺すのか?」ということです。「人を殺傷してはならない」というのは、万国共通の普遍的な社会的通念の筈です。でも何故、日本国内だけでこんなにも児童虐待やいじめが絡む自殺, 配偶者による暴力, 痴漢, 暴行事件, パワハラが絡んだ自殺, 殺人事件が発生するのでしょうか?以下は私の勝手な想像というか感想です。

 幼少時から私たちは家庭・地域内や学校で、「上長(親, 上司, 教員など)や共同体(地域・学校・部活動・職場など)への忠誠心・貢献」や, 「目標実現・自己超越のための努力」こそが美徳であると、しつけや教育といった形で刷り込まれます。ですが、「人には皆人権がある」・「他人の身体や財産・所有物, 自由を犯してはならない」ということを強調して教わる機会はあったでしょうか?私の記憶では、公民の授業以外そうゆうものが無かったように思われます。

 世間のあらゆる人間 − 特に今親として子供を養育している皆様, 教育者の皆様, 信徒に教義だの戒律だのを説く宗教者の皆様 - は今こそ、自分の胸に手を当てて、自問自答すべきです。「自分らのやり方は本当に妥当なのか?」と。

 

 他に私が心配しているのは、事件に巻き込まれて負傷した医療従事者の皆様や, 現場で人質救助に努めた警察官や救急隊員の皆様の精神面です。自然災害等の凄惨な出来事に直面し, 家族などを亡くした方々の中には、「自分だけが生き残ってしまった」という罪悪感に苛まれることがあると私は聞いたことがあります。流血を伴い, 人が死ぬという尋常ならざる事態に直面したのであり、後になって心的外傷後ストレス障害を発症するようなことがあっても不思議ではないと私は思います。

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事件に巻き込まれた皆様と, 現場で事態解決に尽力された皆様へ、十分に精神的なケアが成されることを切に願うばかりです。

 私の思い, 感想は以上です。どうか全人類が1日でも早く、暴力を放棄することを願って。