Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ただただ痛ましい - 埼玉県の医師殺害・立てこもり事件の報道で思ったこと -

 2022年1/28午前、衝撃的なニュースが日本中を駆け巡りました。60歳代の男が、猟銃を持って, 訪問診療の医師を人質に自宅に立て篭ったというのです。しかも、医師に同伴していたスタッフ2名も銃で撃たれて負傷していたとのこと。警察が出動し事態解決に努めましたが、残念ながら医師は亡くなられたとのことです。本当に、本当に残念です。ご冥福をお祈りします。

【続報】“猟銃”立てこもり事件 人質の医師が死亡 容疑者は66歳の男 埼玉・ふじみ野市(FNNプライムオンライン) - Yahoo!ニュース

報道曰く「容疑者の母親が最近死亡した」・「医師・看護師・介護士は容疑者宅へ弔問に訪れていた」そうです。SNS上では、医療従事者の愚痴?やら, 「医師らが医療ミスをしたのでは」という憶測やらが早速流れているようですが、下手な憶測は私の好むところではありません。いずれ警察が捜査で判明した情報を公開すると思われますが、そうした情報が出る前に決めつけを行うことは賢明でなく、反ワクチン・QAnonのような陰謀論と同様の愚行だと私は思います。また、捜査上の機密のみならず、被害者の方々と容疑者にも基本的人権があるのです(≒個人情報は守られるべきです)。これまで過去に何度も見られた、被害者・加害者の親族までも追いかけ色々掘り返すような報道は、「住人が1人でも罪を犯したら、その区域一帯の住民も処罰を受ける」とか, 「罪を犯した者が1人であっても、一族が皆処罰を受ける」といった中世に行われた『連座制』に似たメンタリティすら感じてしまいます。報道機関の皆様には、良識に則った行動をお願いしたいものです。

 医療は、人様の健康・身体機能・生命を託されるシビアな仕事です。大多数の医療従事者は、各々の責務を十分自覚した上で患者とその家族に向き合っています。それでも、医療従事者も患者も家族も人間です。医療従事者-患者間の合意形成・意思疎通の過程で何らかの誤解が生じたり, 医療従事者の手違いで事故が発生したり, ということは減らせますが、0にはできません。私も診療業務の中で、怒ったり暴力を振るったりする患者や家族を何度も見たことがあります。酩酊状態であったり、医師の提示した診断や治療方針の受け入れを拒否したり、精神疾患のため健常人のような意思疎通や理解が不能であったりと、暴言・暴力・クレームの背景も様々です。

 そうした背景も理解して頂いた上で、私が皆様に分かって頂きたいことがあります。仮にあなたが「相手から加害された」・「相手が自分の肉親を死なせた」などと思っても、それは、あなたが相手を殺傷する正当な理由とは絶対になり得ません。室町時代や戦国時代などには、外出先で集落の住民1名が乱闘に関連して死亡した報復として、集落の構成員がその外出先へ武力攻撃を仕掛けるといった『自力救済』的行為が認められていたフシはありますが、今は21世紀の令和です。人は皆人権を有し、裁判所が法律に則って有罪・無罪や量刑・責任の所在等を裁定し、国会が法律等を制定し、国会議員は国民の投票により選出され、憲法に反する法律は施行できません。人様にも人権があるということをどうかご理解下さい。殺人と暴力は人の身体と心を害するのみで、結局何も生みません。あなたが何を感じようが考えようが自由ですが、人を殴ったり, 刺したり, 銃で撃ったり, いきなり陰部や胸を触ったり, 声を荒げ罵倒するようなことはしないで下さい。無意味です。