Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

デルタ株流行後にCOVID-19患者の重症度は変化したか? − 米国の知見 −

 こんばんは。現役救急医です。今日もCOVID-19に関係した論文を紹介してみます。今回の参考文献は、今年10/22に'Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)'(米国CDC[Centers for Disease Control and Prevention]が発行している専門誌)へ発表されたものです。

 

 

 2021年6月中旬に、米国ではデルタ株(B.1.671.2)が最も流行しているSARS-CoV-2変異型となった。同年7月までにデルタ株は、米国のSARS-CoV-2新規感染のほぼ全例に関与していた。デルタ株は過去の変異株よりも強い感染力を有していた; しかし、成人においてより重症化するかどうかは不明であった。そこで、COVID-19関連入院へのsurveillaneを行うシステムであるCOVID-NET(the CDC COVID-19-Associated Hospitalization Surveillance Network)のデータを使用し, COVID-19により入院した18歳以上の成人において、2021年1月〜6月(=デルタ株流行同年6月~8月(=デルタ株流行中の期間で重症化の傾向を検証した。

 

 COVID-NETは14州99郡で、COVID-19関連入院に関する人口ベースのsurveillanceを行っている。2021年1月〜8月の間に、18歳以上の全成人において、未調整・年齢特異的な月別人口入院率(単位: /100,000人)を、

[COVID-19入院患者総数]÷[各年齢集団内の推定人口(or人口推計)]

という公式で求めた。また2021年1月~8月の期間において、年齢や, 入院した施設 別に階層化した入院成人患者の代表的サンプル臨床的転帰に関するデータを収集した。妊婦は除外された。重症転帰は、ICU入室, 人工呼吸器使用, 入院中の死亡で評価した。そしてデルタ株流行前の期間とデルタ株流行中の期間で、重症転帰を比較した。コロナワクチンが臨床的転帰に影響を与える可能性があり, またワクチン接種率が研究対象期間中に変化したことから、これらの結果は参加者全体にて, 並びに ワクチン接種状況により階層化して解析した。

 2021年1/1~8/31の期間中の全成人におけるCOVID-19による入院87,879件のデータによると、デルタ株流行の時期にはCOVID-19関連入院の月別人口入院率は全年齢集団で減少した(Figure 1)。その後7~8月において月別人口入院率は増加し, 65歳以上の月別人口入院率は最高・18~49歳では最低であった。月別のICU入室率・人工呼吸器使用率・院内死亡率も同様のパターンを示した(65歳以上で最高・18~49歳で最低)

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Figure 1: デルタ株流行期における18歳以上成人の月別のCOVID-19関連入院率(単位: /100,000人)

 2021年1月~8月の期間における代表的サンプルであるCOVID-19入院7,615件内では、デルタ株流行期に入院した患者の71.8%がワクチン接種だった。ワクチン接種COVID-19入院患者において、18~49歳が占める平均月別割合は、

  • デルタ株流行:  26.9%
  • デルタ株流行期:  43.6%

と有意に増加していたワクチン完全接種済COVID-19入院患者において、この若年層の割合は

  • デルタ株流行:  10.6%
  • デルタ株流行期:  10.8%

であり、有意差はなかったCOVID-19入院患者サンプル内では、性別, 人種またはICU入室率・人工呼吸器使用率・入院中死亡率は、全体で推計, 及び 年齢やワクチン接種状況で階層化して推計した場合であっても、デルタ株流行デルタ株流行期の間で統計学的な有意差は見られなかった

 2021年1〜8月の期間では、デルタ株流行期中、50歳以上のCOVID-19入院患者においてICU入室者の割合, または 入院中に死亡した人の割合の上昇傾向が見られ(Figure 2), 65歳以上において入院中死亡者数の増加が最大であったものの、統計学的有意差は認められなかった。2021年1~8月の期間で、COVID-19入院患者内の月別の人工呼吸器使用の割合も有意差が見られなかった

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Figure 2: デルタ株流行期中の成人COVID-19入院患者内のICU入室者・院内死亡者の割合

 

 デルタ株流行開始後、COVID-19関連入院率は増加した。しかしこの期間において、18歳以上のCOVID-19入院患者におけるICU入室率, 人工呼吸器使用率, ないし 入院中死亡率に有意な変化は認めなかった。コロナワクチン接種入院患者, もしくは 完全接種済の入院患者において、デルタ株流行デルタ株流行期の間で重症度に有意差は見られなかった。しかし、デルタ株流行期において、18~49歳成人はデルタ株流行前よりも入院患者に占める割合が多かった。この年齢層にワクチン未接種入院患者が多かったことが原因である。

 2020年3~12月に同様の転帰を検証した研究では、ICU入室率, 人工呼吸器使用率, 入院中死亡率が成人入院率と同様の傾向となったことが示された。これらの知見は、過去の小児・思春期青少年に対する解析(デルタ株流行前と流行期の間で、重症転帰に有意差無しと示された)と類似している。デルタ株の感染率が増えるにつれて、他の研究もCOVID-19による入院のリスクが増加することを示し, カナダの大規模研究では、デルタ株に感染した集団においてICU入室と死亡のリスクが増加することが示された。しかし、これらの研究は既に入院した患者へ限定したものではなかった。50歳以上の成人における入院増加傾向(と, それによるICU入室または院内死亡率増加傾向)は統計学的有意でなかったものの、これらの転帰の傾向は継続的に検証されるであろう。

 コロナワクチン未接種入院患者内では、デルタ株流行期にて18~49歳成人の割合は増加し, それに反して65歳以上の割合は減少したが、全研究対象期間において、完全接種済入院患者における年齢分布はずっと安定していた。2021年8/31時点で、コロナワクチン完全接種済の人の割合は、18~64歳(58.6%)よりも65歳以上(81.7%)で遥かに高率だった。年齢集団間で異なるワクチン接種率が、デルタ株流行期における入院患者の年齢分布の割合の偏りに寄与した可能性がある。