Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

米国ではどうなのか? − ファイザー製ワクチンの有効性低下について

 みなさんこんばんは。現役救急医です。過日、私はこのブログで「カタールの全国規模調査で、ファイザー製コロナワクチンのSARS-CoV-2感染に対する有効性が、2回目接種後1ヶ月以降から6ヶ月後にかけて減少し続けている(但し重症化に対する有効性は維持されている)ことが示唆された」という論文を紹介しましたが、今度は同じ話題で書かれた米国の論文も紹介してみます。この論文は今年10/4に、Lancetへonline発表となったものです(Lancet 2021;398: 1407-16. https://doi.org/10.1016/S140-6736(21)02183-8 )。

(1) Introduction

 ファイザー製コロナワクチンBNT162b2 mRNAワクチンは、アルファ株流行下でも、SARS-CoV-2への感染や, 入院, 死亡を減少させる効果が認められていた。

 今日まで、ファイザー製ワクチンは全ての懸念すべき変異株に対して十分量の中和抗体を産生させることが示されている。また、同ワクチン2回接種は特に、アルファ・ベータ・デルタ株による重症化に対して高い有効性があることが示されている。

 2021年6~7月以降にデルタ株が世界的に流行して以来、ファイザー製を含む各種コロナワクチンの有効性低下の報告が現れている。

 しかしながら、デルタ株の流行が感染への有効性低下・ブレークスルー感染(≒定められた通りの回数のコロナワクチンを接種した後のSARS-CoV-2への感染)率上昇の主たる要因でない可能性がある。イスラエル・米国・カタールでは、優先接種された人たちが2回目接種後6ヶ月に達した時期にデルタ株が拡散していた。つまり、ワクチンが誘導した免疫の減弱は、有効性低下の報告に関して考慮しておくべき重要な要素である。

 デルタ株流行下でのワクチン有効性の研究は、免疫減弱の可能性と, デルタ株の影響を十分に差別化できていない。この差別化は、3回目接種の必要性を周知させ, また将来的にワクチンに使用する抗原をどうするか決定する為に不可欠である。この研究は、ファイザー製ワクチンの感染・COVID-19による入院に対する全体的な有効性と, 変異株別の有効性を、時間経過を追って評価したものである。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究は後方視的コホート研究であり、Kaiser Permanente Southern California(KPSC) health-care system(病院グループ?)の電子医療記録を解析することで行った。

 KPSCは470万人を超えるメンバー(契約者?)を抱えており、社会経済的背景, 人種的背景も多様である。

② 参加者について

 12歳以上のKPSC契約者全員が対象となった。この研究の対象期間は、KPSC契約者へのファイザー製ワクチン1回目接種が開始された期日に相当する。1年以上KPSCと契約している契約者であれば、この研究に参加可能であった。臨床研究参加除外を求める記載がある患者は除外された。KPSCの枠外でコロナワクチンを接種した参加者のデータは、カリフォルニア州の接種記録から取得した。

③ ワクチン接種について

 カリフォルニア州では、コロナワクチン接種を行う者は、24時間毎に接種したコロナワクチンの量を報告するように法律上義務付けられている。KPSCはカリフォルニア州の方針に従ってワクチン接種を開始し, まず2020年12月に医療従事者へ接種を開始した。その後ワクチン接種は高齢者, 基礎疾患のある人, essential workerへ対象を拡大した2021年4月までに、16歳以上の全員が接種を受けることが可能となった。5月には12~15歳にも接種可能となった。

 Primary exposure(主要な曝露)は、ファイザー製ワクチン2回目接種から7日以上経過した完全接種済(full vaccination)であった。1回目接種14日以上で2回目は接種, もしくは 2回目接種後から7日以内の場合は部分接種済(partially vaccinated)とみなされた。ファイザー製ワクチン1回目接種をまだ受けていない, もしくは KPSの契約を解除した, 死亡した or 別種のコロナワクチンを接種された人は未接種とみなされた。

④ Outcome

 Outcome(転帰)の評価はSARS-CoV-2感染, 及び COVID-19関連入院で行った。

 2021年3/4~7/21の間に採取されたPCR陽性検体へ全ゲノム配列解析と, ウイルス系統の同定が行われた2021年3/4より前に収集された検体(148個)も含まれた。

統計学的解析

 完全接種済・部分接済集団と未接種集団の間のSARS-CoV-2感染率, 及び COVID-19関連入院率を比較したhazard ratio(HR)(や95%信頼区間[95%CI])を推計した。ファイザー製ワクチン接種状況は、時間経過によって分類された。KPSCとの契約解除, 死亡, 別種のコロナワクチンまたはファイザーワクチン以外の予防薬を投与された, もしくは ファイザー製ワクチンの2回目を超す接種を受けた時点でフォローアップは中止された。効果持続を評価する為に、ワクチン有効性は完全接種済の参加者にて毎月推計された。

 調整後HRと95%CIは、全ての共変量(性別, 年齢, 人種など)を用いて, Cox modelという方法で推計した。ワクチン有効性は、1-HRという公式で算出した。

 

(3) Result

 この研究の対象期間は2020年12/14〜2021年8/8であった。2020年12/14までに、4,920,549名のうち3,436,957名のKPSC契約者(12歳以上・1年以上KPSCと契約)が参加登録基準を満たした。参加者の特徴は以下の通りであった。

  • 年齢中央値:  45歳
  • 性別:  女性: 1,799,395名(52.4%), 男性: 1,637,394名(47.6%)
  • 人種:  ヒスパニック: 1,390,587名(40.5%), 白人: 1,108,456名(32.3%), アジア系・太平洋諸島系: 399,186名(11.6%), 黒人: 276,199名(8.0%)

 研究期間中、3,436,957名中184,041名(5.4%)がSARS-CoV-2に感染し, さらにそのうち12,130名(6.6%)が入院した。SARS-CoV-2感染者では、非感染者よりも若年者, ヒスパニック系, 肥満(BMI>30)の割合が多かった。SARS-CoV-2感染者の中では、入院した人において、高齢者, 男性, 併存疾患あり, 医療機関利用歴が濃厚な人の割合が、入院していない人よりも多かった。

 全配列解析を行われた9,147検体中、236個が解析より除外された。よって、8,911検体が解析対象となり, このうち5,008個(56.2%)で配列が決定された。2021年3/4以降、PCR陽性検体が提出された; しかし提出された検体の合計(8,911個)は、SARS-CoV-2陽性症例(184,041名)の4.8%であった。5,008検体中、1,422個(28.4%)はデルタ株だった。デルタ株が検出される割合は、2021年4月の0.6%から, 7月の86.2%にまで増加した(Figure 1)

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Figure 1

 2021年8/8までに、3,436,957名中1,146,768名(33.4%)がファイザー製ワクチン接種を1回以上受けていた。このうち、

  • ファイザー製ワクチン完全接種済:  1,043,289/1,146,768名(91.0%)
  • ファイザー製ワクチン部分接種済:  76,205/1,146,768名(6.6%)

であった。完全接種済となってからの経過時間の平均値は3.4ヶ月だった; 完全接種済集団1,043,289名のうち、752,562名(72.1%)は少なくとも3ヶ月前には完全接種を完了していた。

 研究対象期間全般を通じて、完全接種済の人においては

  • SARS-CoV-2感染に対するワクチン有効性:  73% (95%CI 72~74)
  • COVID-19関連入院に対する有効性:  90% (95%CI 89~92)

であった。年齢別に階層化すると、完全接種済の人における感染に対するワクチン有効性は

  • 12~15歳の有効性:  91% (95%CI 88~93)
  • 65歳以上の有効性:  61% (95%CI 57~65)

だった。

 完全接種済の人の感染に対する有効性は、接種後時間が経つにつれて減少した。(Figure 2A)

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Figure 2 A and B
  • 完全接種後最初の1ヶ月の有効性:  88% (95%CI 86~89)
  • 5ヶ月後の有効性:  47% (95%CI 43~51)
  • p<0.0001

65歳以上の人では完全接種後1ヶ月以内の有効性80% (95%CI 73~85)だったものが、5ヶ月時点では43% (95%CI 30~54; p<0.001)へ減少していた(Figure 2A)完全接種済の人では全年齢において、

  • 完全接種後1ヶ月以内のCOVID-19関連入院に対する有効性:  87% (95%CI 82~91)
  • 5ヶ月後のCOVID-19関連入院に対する有効性:  88% (95%CI 82~92)

 であり、有意な減少は認めなかった(p=0.80) (Figure 2B)

 完全接種済の人における、デルタ株による感染に対する合計した有効性は75% (95%CI 71~78)だったが、他の変異株に対するそれは91% (95%CI 88~92)だった。完全接種後1ヶ月以内の有効性は、

  • デルタ株:  93% (95%CI 85~97)
  • 他の変異株:  97% (95%CI 95~99)
  • p=0.29

高値だった。4ヶ月後には、

  • デルタ株感染への有効性:  53% (95%CI 39~65)
  • 他の変異株の感染への有効性:  67% (95%CI 45~80)
  • p=0.25

低下した。デルタ株と他の変異株の間のワクチン有効性の低下速度に有意差は無かった(p=0.30)配列が決定できなかった検体に関しては、

  • 完全接種後1ヶ月未満の有効性:  84% (95%CI 78~88)
  • 4ヶ月後の有効性:  47% (95%CI 30~59)

であった(Figure 3)。完全接種済の人における入院に対する有効性は、

  • デルタ株:  93% (95%CI 84~96)
  • 他の変異株:  95% (95%CI 90~98)
  • 配列が決定できなかった検体:  77% (95% 67~85)

であった。

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Figure 3

 

(4) Discussion

 完全接種済の人では、完全接種済になってから平均3.4ヶ月後において、SARS-CoV-2感染に対する合計した有効性は73%で, COVID-19関連入院に対するそれは90%だった。6ヶ月の間において、SARS-CoV-2感染に対する有効性は減少した。全年齢集団において、入院に対する有効性の経時的減少は見られなかったこれらの知見は、イスラエル保健省の報告や, 米国CDCの報告と一致する。但し2021年8月のイスラエルからの報告では、65歳以上で入院に対する有効性が、ファイザー製ワクチン接種から約6ヶ月後において低下いることが示された。つまり、重症outcomeに対する長期の有効性は、継続的にモニタリングされるべきである。

 デルタ株感染に対するファイザー製ワクチンの有効性は、全研究期間を通して75%だった。デルタ株感染に対する有効性は、完全接種後1ヶ月後では93%で, 5ヶ月後の時点で53%へ低下した。他の変異株に対する有効性は、完全接種後1ヶ月以内では97%で, その後5ヶ月までに67%へ低下した。デルタ株による入院に対する有効性は全研究期間を通して高値であり、他の変異株による入院に対する有効性と類似していた。これらの知見は、米国やカタールからの報告と一致する。今回の変異株に特異的な解析により、時間経過によるワクチン有効性低下は、ワクチンの防御効果をデルタ株が回避したというよりも、主にワクチン有効性が減少したことによるものである可能性がある。変異株の間で、有効性減少の格差は認めなかった; しかしながら変異株別の解析では、3~4ヶ月後のイベント発生数は少なかった。そのため、デルタ株とその他変異株の間で有効性減少の程度を評価するための長期フォローアップと, その解析が必要である英国やカナダの研究では、ファイザー製ワクチンの1回目と2回目接種の間隔を2~3ヶ月に伸ばすことで、デルタ株による症候性COVID-19に対する有効性が高くなったと示されている但し1回目しか接種していない場合の有効性は低いので、2回目接種の延期はリスクがないとは言えない。

 今回の結果は、ファイザー製ワクチン接種がCOVID-19予防 − 特にCOVID-19関連入院の予防 − に当たって不可欠な手段であり続けていることを改めて示した。今回の結果は、2回目接種後数ヶ月かけて、感染に対する有効性が徐々に減少することを示唆している。

 

 米国でもカタール同様、2回目接種から数ヶ月をかけてSARS-CoV-2感染に対するファイザー製ワクチンの有効性が低下していき, その一方で、COVID-19重症化(入院や死亡など)に対する有効性は高く保たれるということが判明しました。SARS-CoV-2に感染してしまうこと自体を問題視するなら、3回目接種は必要かもしれません。一方、2回接種をして一定期間(だいたい2週間)経過しさえすれば、SARS-CoV-2感染リスクは残るものの、重症化を避けることは十分可能という事実は念頭に置いておくべきでしょう。思えばSARS-CoV-2が公式にアウトブレイクしたとされてから1年くらいでコロナワクチンが世に出た訳です(天然痘が人類社会でアウトブレイクしてから、種痘開発, そして根絶まで何世紀かかったのでしょうか?)。現代の科学技術の発展速度には凄まじいものがあるので、そのうちSARS-CoV-2に対するより(より強力な)終生免疫を獲得させるようなワクチンが世に出るかもしれません。