こんばんは。今日は、2021年5月13日現在、各国で製造され実用化されている(注: 臨床試験が始まっていないのものは除く)COVID-19ワクチンについて調べてみた結果をまとめてみたいと思います。今回は、"UpToDate"を利用しました。
(1) 作用機序による分類
現在実用化されているCOVID-19のワクチンを、製造方法or作用機序によって分類した場合、次の5種類に分けられます。
① 不活化ワクチン: SARS-CoV-2を細胞培地で増殖させた後、化学的に不活化する。不活化したウイルスは大抵、ミョウバン等のアジュバント(免疫反応を刺激する成分)と混合されている。
② 組換えタンパクワクチン(recombinant protein caccine): 昆虫や哺乳類の細胞, 酵母細胞, 植物が発現するウイルスタンパク質。このウイルスタンパク質にはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質, 受容体結合ドメイン, ウイルス様粒子が含まれる。
④ ベクターワクチン: 現在実用化に至っているのは、生体内で自己複製をする能力を失ったベクターウイルスにSARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現させたもの。
⑤ mRNAワクチン: SARS-CoV-2ウイルスタンパク質の情報を含むmRNA。mRNAは細胞質内に入り(核には入らない)、そこでmRNAが翻訳されることでウイルスタンパク質が合成される。
(2) 商品名/製造業者による分類(+有効性など)
まず有名どころ(?)のmRNAワクチンから行きましょう。mRNAワクチンは以下の2種類が現在使用されています。
① BNT162b2
1. 製造業者: ファイザー, BioNTech
2. 投与方法: 3週間の間隔を置いて、2回筋注する。
3. 承認している国: 米国, 英国, EU, カナダ等
4. 第3臨床試験の結果: 16歳以上の被験者36,000名を接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、ワクチン群で8名・プラセボ群で162名COVID-19罹患が確認されており、2回目接種後7日以降の有効性は95%であった。
5. 各国のデータ
- イスラエルでは、SARS-CoV-2感染の予防効果; 92%, 症候性COVID-19の予防効果; 97%, COVID-19による入院の予防効果; 97%, COVID-19による死亡の予防効果; 97%という結果(いずれも2回目接種から7日以降に評価)が出ている。
- 英国でB.1.1.7 variant(所謂『英国変異株』)が流行していた時期に行われた、23,000名の医療従事者対象の試験では、1回目接種から21日以降で70%, 2回目接種から7日以降で85%の有効性だった。
- B.1.351 variant(所謂『南アフリカ変異株』)とB.1.1.7が優勢であったカタールにおける265,000名を対象にした試験では、B.1.1.7に対する有効性は90%, B.1.351に対する有効性は75%であり, 両variantによる重症・超重症・死亡に対する有効性は100%だった。
② mRNA-1273
1. 製造業者: モデルナ
2. 投与方法: 28日の間隔を置いて2回筋注
3. 承認している国: 米国, EU等
4. 第3相臨床試験の結果: 18歳以上の被験者約30,000名を2回目接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、COVID-19罹患はワクチン群で11名・プラセボ群で185名であり、2回目接種後14日以降の効果は94.1%であった。
5. 各国のデータ: COVID-19に合致する症状で入院した65歳以上の患者489名を対象にした米国の研究では、SARS-CoV-2の検査で陽性となった1名(0.5%)のみが2回の接種を受けており, それに対して18名(8%)がSARS-CoV-2陰性であった。COVID-19による入院の予防効果は94%と推定された。
次に、ベクターワクチンを紹介します。
③ Ad26.COV2.S
これに関しては、脳静脈洞血栓症と血小板減少症の合併1例が若い女性被験者1名にて報告され、その後使用が拡大するにつれて同様の合併症が報告されています(稀な合併症ですが)。
1. 製造業者: ヤンゼン/ジョンソンアンドジョンソン
2. 投与方法: 1回投与, 筋注
3. 承認している国: 米国
4. 第3相臨床試験の結果: 18歳以上の被験者40,000名を接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、ワクチン群で116名・プラセボ群で348名が中等症〜重症のCOVID-19に罹患しており、接種14日以降の予防効果は66.9%であった。接種28日以降の結果も類似していた。
5. 各国のデータ
- 米国; 有効性は74%
- ブラジル; P.2 variant(所謂『ブラジル変異株』のこと?)が優勢だが、有効性は66%だった。
- 南アフリカ(B.1.351が流行); 有効性は52%だった。
④ ChAdOx1 nCoV-19/AZD1222
こちらも、ごく稀ながら血小板減少症を伴う血栓症のリスクと関連性があるとされています。
1. 製造業者: オックスフォード大学, アストラゼネカ, インド血清研究所
2. 投与方法: 筋注。WHOは8~12週間間隔で2回投与を推奨。
3. 承認している国: EU, 英国, カナダ, インド
4. 第3相臨床試験の結果: 11,000名を接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、ワクチン群で30名・コントロール群で101名COVID-19と診断されており、2回目接種14日以降の有効性は70.4%であった。
5. 各国のデータ: 南アフリカでの第1/2相臨床試験のpreliminary resultによると、アストラゼネカ製ワクチンは軽症〜中等症の割合を減らさなかったが、この試験の期間中B.1.351が蔓延していた。B.1.1.7による症候性COVID-19への効果は、他の変異ウイルスと比較しても統計的に有意な差はなかった。
⑤ Ad5-based COVID-19 vaccine
1. 製造業者: CanSino Biologics
2. 投与方法: 筋注で単回投与。
3. 承認している国: 中国, メキシコ, パキスタンなど
4. 臨床試験データなど: Press releaseでは75%の有効性と発表されたものの、検証に必要な詳細な臨床試験のデータがまだ公表されていない。
⑥ Gam-COVID-Vac/Sputnik V
1. 製造業者: Gamaleya Institute
2. 投与方法: 1回目はadenovirus 26ベクターを筋注し、2回目は21日〜3ヶ月後にadenovirus 5ベクターを筋注する。
3. 承認している国: ロシア, メキシコなど
4. 第3相臨床試験の結果: 14,964名のワクチン群の中で16名・2902名のプラセボ群の中で62名がCOVID-19に罹患した。症候性COVID-19の発症防止の効果は92.6%であった。
続いて、組み替えタンパクワクチンに移ります。こらは今のところ、次の1種類のみのようです。
⑦ NVX-CoV2373
1. 製造業者: Novavax
2. 投与方法: 21日間間隔を空けて2回筋注。
3. 承認している国: 不詳(UpToDateで言及なし)
4. 第3相臨床試験の結果: 18〜84歳の被験者15,000名を追跡し、ワクチン群で6名・プラセボ群で52名のCOVID-19症例が出たinterim analysisの結果より、症候性COVID-19を予防する効果は89.3%だった。
最後は不活化ワクチンです。次の3つが含まれます。
⑧ BBIP-CorV
1. 製造業者: Sinopharm
2. 投与方法: 28日間間隔を空けて2回筋注
4. 臨床試験のデータなど: Press releaseでは79~86%の有効性と発表されたが、検証に必要な詳細なデータが公表されていない。なお、B.1.351への中和活性が低いとの報告がある。
⑨ CoronaVac
1. 製造業者: Sinovac
2. 投与方法: ⑧に同じく
3. 承認している国: 中国, ブラジル, チリ, インドネシア, メキシコ, トルコ等
4. 臨床試験のデータなど: Press releaseでは50~91%の有効性と発表されているが、詳細なデータが公表されていない。B.1.351への中和活性は低いとの報告あり。
⑩ Covaxin
1. 製造業者: Bharat Biotech/Indian Council of Medical Research
2. 投与方法: 29日間の間隔を空けて2回筋注。
3. 承認している国: インド