Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

本の紹介(18); アフリカについて学べた本を2冊紹介します

 今回は、最近読んだ本の中から、特に印象に残ったものを紹介します。今日のお題はズバリ、アフリカ情勢です。

(1) 『喰い尽くされるアフリカ 欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取る日』著者; トム・バージェス, 集英社

 思い返せば日本で近年アフリカのニュースが話題になったのは、2014年に発生したボコ・ハラムによる女子生徒集団誘拐事件と西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大, バッタの大量発生, COVID-19パンデミックくらいではないでしょうか。実はアフリカ諸国は様々な天然資源を埋蔵しており、2010年に輸出された燃料と鉱物資源の総額は330億ドルに上るそうです。特に2000年代に入ってから、中国, インド等の新興国でも需要が増えたため天然資源の価格が一時期上昇し、アフリカ諸国にもその影響が及んでいたそうです。

 しかしながら、そのようにして得られた収入が、アフリカ諸国において遍く国民へ還元されているかというと、話は違います。この本の冒頭の記述を引用してみましょう:

世界銀行によれば、1日2.5ドル未満で暮らす貧困者の割合は、ナイジェリアで68 %, アンゴラで43 %に達している。ちなみに、アフリカの石油・天然ガス生産量の第一位がナイジェリア、第二位がアンゴラである。」

外国企業に対して天然資源の採掘許可を出すのはそれらの国々の政府です。そして採掘によって生み出された収益は大抵政府の上層部の懐に入り、その収益を好き勝手な用途(e.g. 軍事予算, 自身の支持層の買収など)へ振り分けてしまうのです。中には、天然資源による収入が膨大なので政府は国民からの徴税が不要となり、各々の政策について国民の同意を取り付ける必要性すら無くなってしまう場合すらあります。独占的に富を蓄えた政府は独裁的になり、教育・水道・電気等のインフラへ予算を振り向けるよりも、自分たちの私利私欲の為に使用するようになっているのです。

 そのような瑕疵があるにも関わらず、依然として十分に改善されることなくこれらの取引が続いている背景には、西洋の植民地時代に形成された収奪システムがそれらの国々の強権的な指導者たちにそのまま利用されていること, 様々な多国籍企業(e.g. BP[英], ロイヤル・ダッチ・シェル[英蘭], シェブロン[米])に加え、近年では中国企業(e.g. 中国石油化工業)が取引相手である政府の『素性』の如何にお構いなく取引を続けていること等が挙げられます。更に、この本ではジャーナリストによる追及に対してお茶を濁す各国政府や各企業の首脳・代表者の言葉や、多国籍企業が現地で上げた収益を租税回避地へ巧妙に移転する実態, 天然資源の分け前を巡る紛争が民族・宗教間の対立に利用されている様などが綴られています。

 自分たちが普段、当然のように使用しているガソリン, 電気製品(レアメタルを含有), ダイヤモンド(これは高級品で、結婚式ぐらいしか用途はないが)といった製品の影にこうゆう側面があることは知っておいて損はないと思います。

 

(2) ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』著者; 白戸圭一, 新潮社

 ボコ・ハラムは冒頭でも述べたように、2014年4月に起こした女子生徒集団誘拐事件で知られるようになりましたが、この本はそのボコ・ハラムの起源や, 彼らの暴虐行為の動機などについて解説した本です。

 現ナイジェリアの北部には14世紀にイスラム教が伝来し、ハウサ人の王国7つがそれを受容。18世紀後半になるとイスラムの教義に厳格な勢力が登場し、7つの王国を滅ぼし統一国家ソコト・カリフ国』を成立させました。他方、南部の沿岸地域では15世紀からポルトガル人が到達し始め、キリスト教も並行して布教。19世紀に入るとそれに英国が取って代わり、同世紀末期には北部へ侵攻してムスリムのテリトリーを併合した結果、1914年に『英領ナイジェリア』が成立しました。英国の植民地統治政策はいわゆる『間接統治方式』というもので、植民地政府は英国本土より派遣された総督が主導・司法体系は近代法であるものの、北部に関してはソコト・カリフ国』時代の統治 ー 首長らがシャリーアに則って統治 ー を継続させたのです。

 そして1960年、英領ナイジェリアは『ナイジェリア』として独立を果たすのですが、北部・南部の差や天然資源がその後の経過に影を落としました。ナイジェリアの南北の差は宗教・民族だけではありません。既述のようにナイジェリアはアフリカ随一の産油国なのですが、油田は南部に集中しています(南部の方が羽振りがいい)。それに加え、独立以来ナイジェリアの指導者たちが権力闘争を繰り広げて連立政権が瓦解したり, クーデターが何度も発生したりと政府は混乱(なお、ナイジェリアは1998年に民政移管を果たしている)。他にも、ナイジェリア北部社会内部での軋轢や, 歴代軍事政権・現政権幹部による天然資源収入の寡占 ーつまり汚職 ー といった事情が重なった結果、過激な思想が誕生したのです。

 他にも、ボコ・ハラムと他のイスラム過激派(e.g. アルカイダ, ISIL)との関係性や, 日本を含めた国際社会への影響なども解説されており、大いに勉強になりました。

 

 いずれの本も、日本から地理的に遠いせいか、アジア・米国の情勢と比べれば関心を持たれにくく、報道も少なめなアフリカの近年の情勢が(一部ながら)分かるものであり、一度購読されることをお勧めします。