Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

せっかくなんで新型コロナウイルスに関する論文を読んでみた。Part1

 ダイヤモンドプリンセスの次は、内閣の休校勧告で日本中が騒がしいですね。そのようなご時世ですが、私は新型コロナウイルスに関する論文を読んで、知識をアップデートすることにしました。少々お付き合い下さいませ。

 まず、今回はNew England Journal of Medicineへ今年1月24日に掲載された"A Novel Coronavirus from Patients with Pneumonia in China, 2019"(Zhu N, Zheng D et al.)を紹介します。

 

(1) Method

 2019年12月21日以降に診断され、尚且つ発症する時期の近辺でHuanan Seafood Marketに居たことのある原因不明の肺炎の患者から4つの下気道検体を採取した。他に、対照群として北京の病院で原因が判明している肺炎患者から採取された気管肺胞洗浄液検体7つが集められた。

 これら検体から核酸を抽出し、PCRを行った。これらサンプルを22の病原体(18種のウイルスと4種の細菌)について分析したほか、これらの方法で検出できない病原体の配列を探すために"unbiased, high-throughput sequencing"を行った。また"consensus RdRp region of Pan β-CoV"を検出するためにRT-PCRを行った。

 気管肺胞洗浄液サンプルは滅菌カップに集められ、遠心分離後に上澄みをヒト気道上皮細胞に接種した。その上皮細胞をプラスチック基板に展開してpassage-1 cells(第一世代?)とし、その後空気と液体の界面(air-liquid interface)で細胞の培養を行った。

 なお、感染させる前にヒト気道上皮細胞の表面をリン酸バッファー化生理食塩水で3回洗浄した。その後、150 μLの気管肺胞洗浄液を接種した。そして37 ℃で2時間置いた後、500 μLのリン酸バッファー化生理食塩水で10分間洗浄して、結合していないウイルスを洗い流した。上皮細胞は5 %二酸化炭素・37 ℃のair-liquid interfaceで保存され、48時間ごとに150 μLのバッファー化生理食塩水で洗浄後、37 ℃で10分間培養してサンプルを採取するという作業を繰り返した。細胞表面サンプルは、新しい細胞を作るために1:3の比率で希釈された瓶入りストックへ受け継がれた(Apical samples were passaged in a 1:3 diluted vial stock to new cell)。細胞は顕微鏡やRT-PCRで毎日モニターした。3世代培養した後、ヒト気道上皮細胞表面のサンプルを透過型電子顕微鏡で観察した。
 気管肺胞洗浄液と培養上澄み液から抽出したRNAは、ゲノムのクローニングと配列決定のテンプレートとして使用した。ウイルスのゲノムの特性を決定するために"Illumina sequencing"と"nanopore sequencing"の両者を組み合わせ使用した。また配列は、専用のソフトウェアを用いて"contig map"(重複するDNA断片の組み合わせ)へと組み立てられた。

 

(2) Result

 2019年12月27日に、武漢の病院で3人の重症肺炎の成人患者が入院した。

Patient 1: 49歳女性, 海鮮市場の小売業者

 基礎疾患なし。12/23から発熱あり。4日後から咳嗽と胸部の不快感が悪化したが解熱。CTで肺炎と診断。その後改善し2020年1/16に退院。

Patient 2: 61歳男性, 海鮮市場を頻回に訪問していた。

 12/20に発熱と咳で発症。7日後に呼吸不全発症、その次の2日間で悪化したため人工呼吸器管理になった。2020年1/9に死亡し、生検は行われていない。

Patient 3: 32歳男性

 改善し2020年1/16に退院。

 

 2020年12月30日に、武漢のJinyintan Hospitalで3つの検体が採取された。特定の病原体は検出されず、気管肺胞洗浄液から抽出したRNAをテンプレートにして、ゲノムのクローニングと配列決定が行われた。各検体から2000 read以上のウイルスが得られ、大半の"contig"はベータコロナウイルス属のB系統(linage B of the genus betacoronavirus)と一致した。85 %以上がbat(コウモリ) SARS-like CoVと一致した。"Consensus RdRp region of pan β-CoV"を標的としたreal-time RT-PCR assayでも陽性反応が得られた。ヒト気道上皮細胞とVero E6細胞, Huh-7細胞系統を用いて、臨床の検体からのウイルス単離が行われた。ウイルスは"2019-nCoV"命名された。

 ウイルス培養を行なっていたヒト気道上皮細胞では、接種後96時間で細胞変性効果が出現した。なおVero E6やHuh-7では、接種から6日経過しても特定の細胞変性効果が見られなかった。

 電子顕微鏡による観察では、2019-nCoVのウイルス粒子は多形な球形で、直径は60~140 nmと差があり、9~12 nmの特徴的なスパイクを伴っていた(太陽のコロナに見える)。

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 更なるウイルスの特性の理解のため、"Illumina sequencing"と"nanopore sequencing"によって、気管肺胞洗浄液とヒト気道上皮細胞からde novo配列が得られた。その結果、新種のコロナウイルスが3人の患者全員から検出された。2つは気管肺胞洗浄液から得られたほぼ全長のコロナウイルス配列であり、1つは患者から分離したコロナウイルス配列全長であった。これら3つの新種コロナウイルスの完全配列をGISAIDへ提出し、86.9 %の拡散配列がbat SARS-like CoVと一致した。2019-nCoVの3つのゲノムはsarbecovirus亜属に集中しており、これはベータコロナウイルスの典型的な集団であることを示している。

 2019-nCoVはコウモリで発見されたベータコロナウイルスに類似しているが、SARS-CoVやMERS-CoVとは異なる。中国南西部から採取されたヒト由来のSARS-CoV系統と、コウモリ由来で遺伝的に類似するSARS-likeコロナウイルスは、sarbecovirus亜属内で別種のグループを形成する。2019-nCoVは、コロナウイルス属sarbecovirus亜属に属する新種のベータコロナウイルスである。

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 なお、コロナウイルスはヒト, 他の哺乳類, 鳥類へ広く分布するウイルスであり、229E, OC43, NL63, HKU1は免疫が正常なヒトでも風邪症状を起こすコロナウイルスとして知られています。また上記で言及されているSARS, MERSの病原体も同じコロナウイルスです。

 SARSやMERSはそれぞれ、ハクビシンラクダが元々宿主で、ヒトが何らかの形で感染し、ヒト・ヒト感染の形で伝播していきました。またコロナウイルスとは別種のウイルスになりますが、エボラウイルスもフルーツコウモリが元々の宿主だったことが判明しています。また、ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原体・鉄』では、伝染病の病原体の多くは元々家畜由来であり、ヒトが集住するようになってより伝播しやすくなったと指摘されています(ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』でも同様の記述があります)。家畜・動物は我々の生活に不可欠な存在ですが、今後とも慎重な取り扱いが必要ですね。