Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

本の紹介(11); 『世にも危険な医療の世界史』

 今回も書評を書きます。今回は『医療×歴史』のコンビネーションで面白い本を紹介します。

『世にも危険な医療の世界史』(リディア・ケイン, ネイト・ピーダーセン著 文藝春秋

古代や中世はまだしも、20世紀に入っても、現代人(の医療者)の我々からみて「はあ!?マジで!?!?!?」となるような治療法, 医薬品が存在した歴史を暴露する本です。

 幾つか例を挙げてみましょう。

  • 水銀: 有名なエピソードは始皇帝。不老長寿の秘薬と信じて摂取を継続。その結果、49歳で死去。なお西洋でも水銀は治療薬だと信じ込まれており、水銀摂取後に出現する下痢, 唾液分泌増加により「胆汁が排泄される(ガレノス, ヒポクラテスは、『胆汁を沢山排出すれば体と4体液[血液, 黄胆汁, 黒胆汁, 粘液]のバランスが整う』と提唱しており、黒い大便は体外に排出された胆汁だと考えられていた)」とされていた。
  • アヘン: 20世紀初頭まで、子供の夜泣きの治療薬として使用。便秘, 吐き気のみならず、呼吸抑制のような重篤な副作用を呈するので当然ながら死亡する症例もあった。19世紀にはアヘンからモルヒネが単離された。南北戦争の時、傷病兵の治療にアヘン・モルヒネを大量に使用した結果、兵士は続々と依存症に陥った。
  • コカイン: 紀元前3000年頃から、南米アンデス山脈に住む先住民はコカノキの葉を噛んで刺激を得ていた。19世紀に入り、ヨーロッパ人がコカノキの葉を本土に持ち帰りコカインを単離。やがて多くの人(ex. ジークムント・フロイト, その他作家, 知識人)がコカインを多用するようになった。乳癌への根治的乳房切除術の開発者たるウィリアム・ハルステッドは、コカインを眼科手術局所麻酔に用いた眼科医の論文に触発され、大学院生を実験台にしてコカイン局所麻酔による歯科治療を行なった。そして自分にコカインを静注して作用を試験した結果、依存症になった。
  • 瀉血: 紀元前1500年頃のエジプトが発祥。なお後世のヒポクラテスは既述のように「血液, 粘液, 黄胆汁, 黒胆汁のバランスが乱れて病気になる」と提唱していたことから、「過剰な血液を排除する為」に瀉血が励行される結果となった。米国初代大統領のジョージ・ワシントンの場合、風邪を引いた(呼吸苦があったので喉頭蓋炎であったと思われる)際に医師によって糖蜜・酢・バターの『内服』や下剤, 加熱による水疱形成とその後の排膿といった治療に加え、度重なる瀉血(合計2.4〜4リットル)を行われた後、死去。

 読者の皆様は「なんじゃこりゃ?」と思われたかもしれませんが、いずれも史実です。特に20世紀までコカインのような依存性と刺激性が強い薬剤が、処方薬として販売され多量に流通していた事は衝撃的だったのではないでしょうか。しかし、上に挙げたのはまだまだほんの一部です。もっと詳細を知りたい場合は、上記の本を入手し読んでみることを強く勧めます。