今回は、学生・研修医が今後しばしば直面するであろう低Na血症の補正について述べます。なお、低Naの原因の鑑別方法や病態生理に関しては、様々な成書で記載があるので今回は省略します。参考文献は前回の投稿同様、'UpToDate'です。
(1) 治療開始時に重要なこと ー 急性か否か?Na濃度は?症状はあるのか?
まず、補正速度等を決定するに当たって重要な項目が3つあります。
① 急性か?慢性か?
発症48時間以内であれば急性, 発症から48時間超過していれば慢性と分類します。
② 血中Na濃度(以下、[Na]と記載)は?
[Na]<120: 重症(severe)
120≦[Na]≦129: 中等症(moderate)
130≦[Na]≦134: 軽症(mild)
③ 症状はあるか?
詳細は成書に譲りますが、意識障害, 痙攣等の多彩な症状を呈します。基本的に、[Na]<130で意識障害等があれば、低Naの症状ありと考えて良いとされます。
(2) まず、治療の目標を
- 最初の24時間で[Na]を4〜6上昇させる
※但し、急性低Na or 症状が重篤(e.g. 昏睡, 痙攣)な低Naの場合は、最初の6時間で[Na]を4~6上昇させる
- 但し、24時間での[Na]上昇は8を超えない
以下で詳述するように、ケースバイケースで時間や目標値が変わってきますが、特にことわりが無い限りは蒸気が治療の目標となります。
(3) 急性低Na血症の治療
① 症状が無い場合
[Na]<130であれば、3%生理食塩水50mLをボーラス投与します。但し、1. 原因が可逆的, 2. 尿量が増加した, 3. 尿浸透圧<200 の場合は、利尿によって自力で[Na]が補正可能と考えられ、3%生食は不要です。
② 症状がある場合
1. [Na]<130の場合
3%生食100mLを10分かけてボーラス投与します。これで症状が改善しなければ、同量の3%生食を同じく10分かけて投与し、初回も含め3回まで繰り返し可能です。
治療の目標は、「2~3時間で[Na]4~6上昇」です。
2. 130≦[Na]≦134の場合
本来症状はない[Na]なので、高張生食は不要です。
③治療中のモニタリング
[Na]の計測は、[Na]が4~6上昇するまで1時間ごとに行います。
(4) 慢性低Na血症の治療
① 130≦[Na]≦134の場合
高張食塩水は不要です。原因を検索し、それの治療を行います。
② [Na]<130の場合
1. 症状が重篤(e.g. 昏睡, 痙攣)or 頭蓋内に病変がある(e.g. 頭部外傷, クモ膜下出血)場合
3%生食100mLを10分かけてボーラス投与。症状持続時は、同量の3%生食を同じく10分かけ投与。初回投与も含めて3回まで繰り返し可能です。
なお治療目標は「2~3時間で[Na]4~6上昇」です。
2. 症状が無い場合
1) 120≦[Na]≦129の場合
入院は必要なく、原因精査とこれの補正が中心になります。
2) [Na]<120の場合
3%生食を15~30mL/hで投与。しかし、注意点があります。
急速に補正されてしまうリスクがある場合
- 血管内volume減少による低Na
- 副腎不全によるもの
- SIADH(e.g. 術後, 薬剤性)
浸透圧性脱髄症候群(Osmotic Demyelination Syndorome: ODS)のリスクが高い
- [Na]≦105
- [K]上昇あり
- アルコール依存症
- 肝疾患
- 栄養不良
これらの因子がある場合、デスモプレッシン(1~2 mcgを6~8時間ごとに静注or皮下注)を併用する事が推奨されています。開始及び中止のタイミングは以下の通りです。
- ODSが怖いので普通の生食で補正した場合: [Na]が4~6上昇した後から併用開始。
- 3%生食を使用した場合: 最初から併用し、24~48時間経過した or [Na]125になった時点で、併用を中止。
③治療中のモニタリング
4時間ごとに[Na]を計測します。また、尿量も注意が必要です。
尿量増加を認めた場合、尿浸透圧, 尿中[Na], 尿中[K]の計測が必要です。尿量増加に尿中陽イオン(Na, K)低下を伴う場合、補正速度が過剰だと考えられます。
また、補正過剰リスクが低くても、[Na]が130に到るまでは12時間ごとに[Na]確認が必要です。