Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

川崎殺傷事件の報道を聞いて思ったことなど。

 今週頭に起きた川崎市の児童殺傷事件。犯人の動機は不明とはいえ、このような形でいきなり命を奪われたり、心の傷を負うのは余りにも理不尽でしょう。世間に与えた衝撃は余りにも大きく、メディア, インターネットを介して感情的なコメントが飛び交うのはある程度仕方のないことかもしれません。

 なお、これまで日本国内で、一人の加害者が突然多数の市民に斬りかかる事件は何度か起きています。下記のWikipedia記事内に、日本で起きた大量殺人の一覧がありますが、それらの事件のうち、特に『附属池田小事件』以降に発生した事件は 1.加害者と被害者が親類ないし同居している, 2.加害者と被害者が近所同士, 3.加害者と被害者が金銭的トラブルを抱えていた, という特徴が無い事件が目立つように思われます。何らかの利害関係を共有していない不特定多数を突然襲撃しているのです。

大量殺人 - Wikipedia

 そのうち相模原の障害者施設で起きた事件は、その施設の元職員が犯行に及び、その思想背景に『安楽死』 ー 言い方を考えれば優生思想 ー があったようですが、それ以外では特に思想的背景といったものが無く、何らかの負の感情を発散させる為に犯行に及んだと思しき事件ばかりです。

通り魔 - Wikipedia

 最近でも、メディア等を介して「日本は外国より治安がいい」といった言説が流布されていますが、率直なところ、かくの如き言説を自信を持って力説できないような雲行きではないでしょうか。1.銃規制が厳格, 2.アフガニスタン・メキシコ等と比べると政府機関内で法令遵守の意識が高い(反社会勢力と取引をしない etc.), 3.警察の捜査能力が高い(e.g. 捜査対象への徹底的な張り込み)から、我々日本国民が何とか許容できる範囲内で治安の水準が保たれているというのが実情なのでしょう。

 しかし、私は今後もこのような事件が続くのでは、と心配しています。ここからは私の勝手な解釈となってしまいますが、これまで人間の活動の基本は、家庭/一族, 村/ご近所 や 職場 といった共同体でした。「万が一、自分が犯罪等のタブーを犯せば、自分自身はまだしも家族までこうした共同体から『村八分』を喰らって、二度と戻れなくなるのではないか」 ー そういった抑止力が従来は働いていたのではないでしょうか。

 しかし、経済成長に伴って都市化が進むと、都市部・郊外の団地の住人はお互い別の地方から来た『他人』同士となってしまい人間関係は希薄化していきました。更に、バブル崩壊後の就職氷河期・いわゆる『雇用の流動化』によって、職場の共同体としての立ち位置は弱まってしまったのではないでしょうか。そうすると各個人はより孤立した存在となり、『タブー』を犯すことに対する抑止効果が下がっているのではないでしょうか。

 また、上記のように日本で起きた大量殺人は今の所、何らかの思想背景があったのは相模原の事件だけですが、いずれニュージランド クライストチャーチの事件や2011年のノルウェーの事件のように、過激な思想背景による大量殺人が起きるのは時間の問題ではないかと思います。

クライストチャーチモスク銃乱射事件 - Wikipedia

ノルウェー連続テロ事件 - Wikipedia

なぜなら、最近の日本では1.在日コリアン排斥等の排外主義を主張する団体が公然とデモをやり、SNS上でも共鳴する人が結構居る, 2.一部メディア・著名人もそのような『雰囲気』を擁護している, 3.気に入らない個人・集団/人種を徹底的に叩くことを許容する『雰囲気』が往往にして見られる, からです。あえて例えるならば、幕末の日本でしょうか。尊皇と佐幕・開国と攘夷で世論が二分され、特に長州・水戸等の過激な攘夷派浪士は暗殺・破壊行為に手を染め、肝心の孝明天皇から忌避されるまでに至っています。私は、現代の日本社会全体が当時の攘夷過激派に近づきつつあるのではないかと私は感じています。いずれ『攘夷』・『愛国』を騙って特定の個人や集団を襲撃する者が現れるのではないか、と危惧します。

グダグダし過ぎだ、日韓レーダー照射問題 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

我々は、ブラジルに日本の未来を見ているのかもしれない - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 加えて、今後も川崎市秋葉原のような大量殺人・通り魔事件が発生した場合、「市民に自己防衛の手段を!」と銃規制緩和を求める団体や政治家, 芸能人が現れるかもしれません。また、そのような日本国内の情勢を見た海外の銃器メーカーが『商機』を狙ってSNS等を通じた巧妙な『新規市場開拓』戦略を展開した結果、世論ないし永田町・霞ヶ関で銃器規制緩和を認める意見が優勢となる可能性すらあり得ます。そうなったら、日本の治安は絶望的な状況に陥ることは間違いありません。