『白い巨塔』がまたドラマとしてリメイクされテレビ朝日系列で放映中です。原作は1960年代に発表されていますが、これまで1966(映画), 1967, 1968, 1978, 1990, 2003(いずれもテレビドラマ), 2007(韓国でテレビドラマ化)そして今回と、何回もリメイクされています。
私は原作を読んでいないし、過去放映されたドラマも見ていないので良く分からないのですが、時代の変化を反映し1.主人公 財前五郎の専門は、原作では胃噴門部癌の開腹手術→2019年版では膵癌の腹腔鏡下手術, 2.原作では教授陣が男性ばっかし→2019年版では、1名女性になっている, そうです。また、Twitterを見ていると「『2003年版は唐沢寿明でハマり役だった。今回はなんで岡田准一なんだ』と言っている人がいる。多分、今の世代も10年後くらいに『2019年版は岡田准一がハマり役だった。20XX年版はなんで寺田心なんだ』と言い出すだろう」という趣旨のツイートが流れてきました。
そのような話題を受け、今回私は約10~20年後にまた『白い巨塔』がドラマ(或いは映画)でリメイクされる場合、どうなるのか大胆に予想してみたいと思います。一部アホで下らない妄想も含まれていると思いますが、何卒ご容赦ください。
① 主人公 財前が女性に?
昨年、東京医大などで女性受験者の点数に意図的にハンデを付けて足切りしていた問題が発覚し、問題になりました。東京医大だけに関して言えば、その反動で女子受験者の合格率が上がったそうですが、他の大学に関して言えば、そこまでの変化は無かった様子です(下記リンク参照)。
しかし、いずれ『医師の働き方改革』が進んで(あくまで希望的観測ですが)、女性が働きやすい環境が整えば、医療現場で女性医師がより前面に出てくる機会は増えるでしょう。それを反映し、これまで男だった主人公 財前が、女性医師になる可能性もあると考えました。
学生時代からの友人、里見脩二に関して言えば、同性(女性)という設定になるかもしれません。もしくは、大学の同期で部活も同じだった男友達, 或いは元カレなんて設定も有り得るかもしれませんね。教授という地位によって豹変していく財前(女性)と、昔から抱いていた恋愛感情を捨てきれないまま、そんな財前を傍らで見守る里見(男性)の人間ドラマも意外と面白いかもしれません。
② 胃癌(開腹手術)→膵癌(腹腔鏡手術)→???
冒頭でも触れましたが、財前の専門は、1960年代に書かれた原作では胃噴門部の開腹手術でした。しかし下に引用したツイートのように、現代では胃癌・大腸癌の腹腔鏡下手術(つまり、手術の低侵襲化)がかなり普及しており、原作の設定のように「◯◯の世界的権威」というキャラクターにする為に、まだ標準化に至っていない膵臓領域の腹腔鏡下手術(まだ開腹手術が主)を持ち出したようです。
原作は50年以上前が舞台で、財前は胃の入り口、噴門部癌の手術を得意としていた。当時この部位の癌は手術が難しく、財前の腕は世界的に知られているという設定。
— 外科医けいゆう (@keiyou30) 2019年5月22日
今では噴門部癌の手術を腹腔鏡で行う施設は多いし、現代版財前を「腹腔鏡の名手」にする以上、胃癌の専門ではないだろうとは思っていた。
ドラマ中でもあったように「一般的に膵臓がんへの腹腔鏡手術は推奨されていない」ため、大半の施設では開腹手術を行う。
— 外科医けいゆう (@keiyou30) 2019年5月22日
しかし、ごく一部、慣れたスタッフが揃っている施設では、臨床試験という形をとるなどして腹腔鏡手術を適用している。
浪速大学の外科はそういう「絶妙の設定」である。
ラパロPD、ラパロDP 認可はされましたが、出来る外科医は限られます。
— アネさん (@anesman_kansai) 2019年5月23日
開腹の方が早いため、低侵襲という定義は難しい。
鵜飼医学長が肝移植は儲からないという発言。その通りですが、大学としてやらないといけない医療もある。
ただ、常に適応は考えての上で。 https://t.co/sf3hJSQAsN
そうした経緯を踏まえると、2030年代くらいにリメイクする場合、財前の専門を何にするかがネックになります。2019年現在、医療分野にも活用が期待され、現在進行形で導入されている技術は、1. ゲノム編集・再生医療等の分子生物学/生命科学, 2. 人工知能(AI), 3. インターネット等を介した遠隔診療, 4. 手術用ロボット『ダビンチ』や脳動脈瘤の経カテーテル的塞栓術といった手術の低侵襲化, といったところでしょうか。
私の予想では、4.のようなロボットを用いた手術が新たに財前の専門になるのでは無いかな、と思っています。或いは、財前が医療機器製造企業と新しいデバイスを共同開発し、臨床試験→実用化/保険適応に認可される, というストーリーも有りえるかもしれません。
③財前が訴訟に至る理由
ネタバレは極力避けたいので、まだ見てない(読んでない)方はここの項目は飛ばすことをお勧めします。
このドラマで財前は、手術を担当した膵癌患者に関して「念の為、他臓器へ転移や浸潤が無いか手術前に検査しては」とする医局員の進言を頭から否定。検査を行わぬまま手術に踏み切りました。しかし、術後に転移巣による合併症が出現して状態が悪化, ついには患者が死亡してしまいます。それが医療訴訟へと繋がるプロットのようですが、果たして2030年代にそのような設定が当てはまるでしょうか?
#白い巨塔
— 外科医けいゆう (@keiyou30) 2019年5月24日
佐々木庸平の病気
原作小説:胃癌を造影検査で診断、念のため断層写真を、との進言を財前が却下
2019年版:膵癌をCTで診断、念の為PETを、との進言を財前が却下
一つ一つ丁寧に50年分現代に置き換えてあって原作へのリスペクトを感じる。
原作が書かれた頃はCT, MRIといった画像診断技術は未発達でした。他方で2019年現在、上のツイートにもあるように様々な検査手段が存在しており、以前ニュースになった「画像上の所見見逃し」・「放射線科医の画像所見レポート未確認」という過誤さえ犯さなければ病変は診断できます。しかも、これから先AIの導入が進んだら、病変見逃しのリスクが下がることすら有り得ます。
また、そもそも「教授が転移巣の存在を頭から否定し、医局員の助言を却下したまま手術に踏み切る」というプロット自体、実情にそぐわないと私は感じました。むしろ現在では、教授回診やカンファレンスの時などに、教授・指導医ら上級医が後輩に「この肝機能異常は何だ?手術予定の患者さんなのだからちゃんと原因を精査/鑑別診断しなさい」等の指導/助言を行うのが常ではないかと思います。
そうなると、訴訟になる原因が別のものとなりまねません。可能性があるものとしては、
1. 財前が企業と共同研究で開発した体内埋め込み型デバイスが、ようやく臨床試験, ないし保険適応に漕ぎ着けた。財前と企業はより良い治療成績を残したいので、本来は適応とならない患者にまでこのデバイスを移植した結果、患者が合併症で死亡。或いは、デバイスの欠陥を企業とグルで隠蔽し、医療事故発生→患者が死亡。患者遺族が訴訟を起こす。
2. 長時間労働, 医局内のパワハラ等が原因で、若手医局員ないし研修医が自殺。事実関係に納得のいかぬ遺族が、訴訟を起こす。
といった設定だと私は想像しています。
いかがだったでしょうか。今回は、私の妄想力をフル稼働し『白い巨塔』を魔改造して見ました。ツッコミや感想等ありましたら、遠慮なく教えて下さい。