仕事が忙しかったりと、続きを書く余裕が無かったので数日ブランクが空いてしまいました。今回は、テトラサイクリン系, グリコペプチド系, オキサゾリジノン系を取り上げます。
(8) テトラサイクリン系 ー テトラサイクリン, ドキシサイクリン, ミノサイクリン, チゲサイクリン
①薬物動態
消化管からの吸収は良好。但し制酸薬, ミルク, 鉄剤, カルシウム, マグネシウム, アルミニウムと一緒になると吸収が障害される。そのため、ドキシサイクリン, ミノサイクリンでは1〜2時間・他のテトラサイクリン系では数時間ずらす必要がある。
ドキシサイクリンは主に肝臓で代謝されるので、腎機能に関係なく投与出来る。他方、テトラサイクリンは腎臓から排泄されるので、腎機能障害時は避ける。
第一選択とされる疾患を以下に挙げる。
- 性病性リンパ肉芽腫: Chlamydia trachomatisによる。熱帯, 亜熱帯でよく見られる。
- ロッキー山紅斑熱, チフス, Q熱, ツツガムシ病, 日本紅斑熱(リケッチア病): ドキシサイクリンがfist choice。
- Lyme病: ドキシサイクリンがfirst choice。
- 回帰熱: Borrelia recurrentis
- エーリキア病: ドキシサイクリンがfirst choice。
- Vibrio感染症
- ブルセラ病: テトラサイクリン系にリファンピシンorゲンタマイシンを併用
- 鼻疽: テトラサイクリン系にストレプトマイシンを併用
※ 下線部は人畜共通感染症。このように、テトラサイクリン系は人畜共通感染症に使ってみる価値があるとされる。
③チゲサイクリンについて
以下の病原体に効果がある。
- グラム陽性球菌: ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP), MRSA, バンコマイシン耐性腸球菌(VRE), グリコペプチド中等度耐性黄色ブドウ球菌(glycopeptide intermediate Staphylococcus aureus: GISA)
- グラム陰性桿菌: 腸内細菌(ESBL産生株含む), Acinetobacter, Stenotrophomonas(但し緑膿菌には無効)
- 嫌気性菌
(9) グリコペプチド系
薬物動態: 経口投与しても、消化管からほとんど吸収されない。腹腔内, 胸腔内, 関節腔内等の他、ほとんどの体液中に移行する。一方、脳脊髄液中の移行は一定しない。排泄は大半が腎臓経由。
スペクトラム: ほとんど全てのグラム陽性菌に有効であるが、実際のところ臨床的に適応となるのは以下の2通り。
また、βラクタム感受性菌に対する活性は劣っており、グラム陰性桿菌には活性が無い。加えて、下に挙げるように、原因菌によっては他の薬剤と併用する場合もある。
- ペニシリン耐性腸球菌; アミノグリコシド系感受性なら、ゲンタマイシンorストレプトマイシンと併用。
- PRSPによる髄膜炎; セフトリアキソンorセフォタキシムと併用。さらにリファンピシン併用も追加する専門家もいる。
②テイコプラニン
薬物動態: 消化管から吸収が不良。静注だけでなく、筋注も可能。組織移行性は全般的に良好で、排泄はほとんど腎臓経由。
スペクトラム: バンコマイシンとほぼ同じ。腸球菌へはゲンタマイシンorストレプトマイシンを併用するのも同様。なお他にも、以下のような第1選択となりうる病原体がある。
- Bacillus cereus, Bacillus属
- Corynebacterium jeikeium
- Streptococcus pneumoniae; ペニシリンMIC>2.0μg/mL
基本的に、MRSA感染症だがバンコマイシンとその他薬剤がアレルギー・副作用で使えない場合に試すというポジション。
(10)オキサゾリジノン系 ー リネゾリド
①薬物動態
経口・静注共に可能で、脳脊髄液を含めた各組織への移行は良好。代謝は肝臓シトクロムP-450代謝経路に依らず、酸化で行われるので腎機能・肝機能障害による投与量調節は不要。なお透析で除去されてしまう。
非常に広範囲の耐性グラム陽性球菌(VREやMRSA, PRSPも含む)に有効だが、あくまでも他の標準的な薬剤がアレルギー等によって使用できない場合に限定して使用すべき(濫用は避けるべき)薬剤。
唯一第1選択となる状況は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のうちEnterococcus faeciumによる感染症。
我ながらとてつもなく長い記事ですが、まだまだ続きます。次回はストレプトグラミン系, リポペプチド系, リンコマイシン系を紹介します。