今日は、研修医や医学生レベルにとっても重要な話をしてみたいと思います。経口抗凝固薬の話です。この薬を大きく2つに分けると、次のようになります。
1. ワーファリン: 従来用いられてきた抗凝固薬。後述しますが、ビタミンKへの拮抗作用によって効果を発揮します。
2. DOACs(direct oral anticoagulations; 直接経口抗凝固薬): 以下の4種類の薬剤のこと。ワーファリンと作用機序が異なります。
- ダビガトラン(商品名: プラザキサ)
- リバーロキサバン(商品名: イグザレルト)
- アピキサバン(商品名: エリキュース)
- エドキサバン(商品名: リクシアナ)
(1)作用機序の違い
では、これらの薬剤の作用機序の違いは何なのでしょうか。下に挿入した画像を元に解説します。
まず、上記1.のワーファリンはビタミンKエポキサイド還元酵素を阻害することで、肝臓におけるII, VII, IX, X因子の合成を抑制します。これら抑制される凝固因子を覚える語呂合わせで私が聞いたことがあるのは、「肉納豆」, 「トニー泣く」の2通りです。
次に、2. のDOACsの作用機序ですが、凝固系カスケードへ作用する箇所がそれぞれ異なる薬があるので、注意が必要です。上の写真に①(赤い斜線がかかっている), ②(青い斜線がかかっている)と表示されている箇所がありますよね。これらがDOACsの作用するところです。
① X因子に作用: リバーロキサバン(イグザレルト), アピキサバン(エリキュース), エドキサバン(リクシアナ)
② II因子に作用: ダビガトラン(プラザキサ)
(2)実臨床での差異
ワーファリンとDOACsの差異はこれだけではありません。実臨床においてはそれぞれ、次のようなデメリットがあります。
ワーファリンの欠点:
1. 作用発現と消失に時間がかかる; 抗凝固作用発現開始は投与後3, 4日で、安定するのは5~7日後。半減期35時間。
2. 作用発現に個人差が大きいので、モニタリングが必要; PT-INRで投与量を調整。
3. 薬物相互作用が多い;
例1) 作用を増強してしまう薬剤: アスピリン, NSAIDs, アセトアミノフェン, アミオダロン, ベラパミル, 抗菌薬, H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬
例2) 作用を減弱してしまう薬剤: ジゾピラミド, 抗痙攣薬, リファンピシン, ビタミンK
DOACsの欠点:
1. 腎機能障害の程度によっては、減量が必要。使えない場合もある。
2. 拮抗薬が(一部の例外を除いて)存在しない。
3. 重症患者におけるデータがない。
(注)DOACsにも、当然薬物相互作用により副作用が懸念される薬剤があるので、注意が必要です。
ダビガトランの場合、P蛋白阻害薬と併用すると血中濃度が上昇してしまいます。従ってイトラコナゾールは併用禁忌ですし、ベラパミル, アミオダロン, 免疫抑制剤(タクロリムス, シクロスポリン), プロテアーゼ阻害剤(リトナビル等)を併用する場合は減量が必要です。
また、エドキサバンでもP蛋白阻害薬併用時に減量が勧められています。
ワーファリンとDOACsは、お互いの欠点をカバーし合う相補的な存在なのです。
(3)拮抗薬
ワーファリンの拮抗薬は、次の4つです。
1. ケイセントラ: 昨年日本で発売されたばかりの、ヒトプロトロンビン複合体を乾燥・濃縮させた血液製剤。
2. ビタミンK製剤
3. 新鮮凍結血漿
4. 活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤(activated prothrombin complex concentrates; aPCC): ファイバ(FEIBA)とも呼ぶ。
他方、DOACsの拮抗薬は次の4通りですが、薬剤によって違いがあるので要注意です。
1. イダルシズマブ(プリズバインド): 2016年に発売されたばかりの、ダビガトラン(プラザキサ)に特異的な抗体。
2. aPCC: 実験室レベルで効果があったとの報告がある。なお、DOACs内服+出血の患者への使用は保険適応外。
3. 活性炭投与: ダビガトランの内服2時間以内であれば。
4. 透析・血液浄化: 血液中のタンパク質への結合率が低く、また腎排泄の割合が高いダビガトランのみに有効。