Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

英国の元ロシア工作員殺害未遂事件、実行犯は軍医だった。

www.afpbb.com

 

 今年、英国に亡命した元ロシアの工作員とその娘がイングランド南部の町ソールズベリーで倒れ、原因が神経剤と判明した事件が起きました。その後、香水瓶に入れて捨ててあった神経剤に接触し、地元市民2名が入院するという事件も起きてしまいました。

www.afpbb.com

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 以前、本ブログで紹介しましたが、化学兵器攻撃を疑う条件は以下の3つです。

① 爆風等による被害よりも傷病者が多い

② 外傷の無い傷病者が多数いる

③ 同一症状で倒れた傷病者が多数いる

そして、神経剤への暴露を疑わせる症状は次のようなものです。

1. 筋攣縮

2. 脱力, 麻痺

3. 分泌物の増加

4. 縮瞳

被害に遭われた4名の詳細な状況は報道では窺い知れませんが、上記のような症状があったため消防・医療関係者らによって神経剤による攻撃を疑われたのでしょう。ちなみに治療法は、アトロピン, プラリドキシム投与に加えて全身管理(必要に応じて人工呼吸器管理, 昇圧薬持続点滴など)です。

voiceofer.hatenablog.com

 

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 本題に戻りますが、冒頭のAFPの記事によると英国当局やメディアは既に実行犯を絞り込んでいるそうです。今や町中あちらこちらに監視カメラがあり、インターネットが通信の監視・傍受や他国への破壊工作に使われる時代ですから、無理も無い事ではありますが。

 そして、その実行犯2名(当然、ロシア政府の工作員)のうち、片方はロシア軍参謀本部情報総局の軍医だったのです。まさか、医師が殺人に手を染めるとは。私も驚きを隠せません。表面的には民主主義でも、プーチンが独裁体制を固めたロシアという国家の軍部の諜報機関ですから、命令を拒否するなんて無理だったかもしれませんが。

 しかも、ロシア当局による毒殺事件は今回に限りません。過去にもダイオキシンで毒殺されかけたウクライナの政治家や、放射性物質を盛られ死亡した元ロシアの工作員もいました。

 今、米国のトランプ政権はロシア寄りの外交姿勢を示して国際社会に少なからぬ混迷(と人道危機)を招いています。日本も、北方領土返還交渉の一環で、同領土の共同開発という形でロシアに接近するかのような姿勢を取っています。しかし、その相手がおぞましい謀略を巡らす、冷酷な独裁者である事だけは決して忘れるべきでありません。