Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

朝鮮半島情勢について考えたこと。

  また韓国の文大統領と北朝鮮の金第1総書記が会談したというニュースが話題になっていますね。人により意見は様々だし、北朝鮮の国内情勢に課題が山積しており、日米韓ら諸外国の対応にも色々問題点が指摘されているのは皆様もご存知かと思われます。今回は私も、(知っている範囲内で)思うところなどを綴りたいと思います。

 

(1) 核開発について

  現在の国際社会の核兵器に対する政策について、賛否両論はあるし、私も地球上に核兵器が存在していること自体快く思っていません。それでもなお、国際社会には曲がりなりにも『核拡散防止条約』(Treaty on Non-Proliferation of Nuclear Weapons; 略称 NPT, 1963年に国連で採択, 1970年に発効)というコンセンサスが存在し、米国・ロシア・フランス・イギリス・中国以外の国々が核兵器を持つことを禁止しています。

  しかし現状はどうでしょうか?北朝鮮は2003年に脱退してしまい(1993年にも脱退を表明していたが踏みとどまった)ました。その後の国際社会の対応は、一部を除いて厳しいものだったことは言うまでも無いでしょう。

  他方、もともとNPTに加盟していなかったインドは1974年と1998年に核実験を実施し、うち後者は明らかに軍事目的であった為各国から経済制裁を課されました。また、インドと過去数回戦火を交え、国境紛争を抱えるパキスタンもNPTに加盟していませんでしたが、同じく1998年に核実験を実施した為に国際社会から経済制裁を受けています。しかしながら、2001年になると早くも状況は変わってしまいます。米同時多発テロ後、米国は主犯のオサマ・ビンラディンの拘束と彼を匿うタリバン政権の掃討の為、アフガニスタンに侵攻します。その際、地理的に近いインド・パキスタン両国ともに米国の対テロ戦争へ協力を表明しました。これを契機に、両国に対する国際社会の経済制裁はなし崩し的に緩和されてしまうのです。また、米国の同盟国のイスラエルもNPTに未加盟であり、核兵器保有していますが、特に制裁を課される事はなく、殆ど話題に上らないのが現状です。

  北朝鮮は中国やロシアにとってみれば、冷戦時代から旧西側諸国に対する緩衝地帯であり、米国とその同盟国を牽制(或いは撹乱・挑発)する為には欠かせない存在です。そのような背景も踏まえると、北朝鮮は上記のようなインド・パキスタンイスラエルと同様のポジション(バックに国連安保理常任理事国が付いている + 核開発に対し、『大人の事情』で黙認してもらう)を目指していても何ら不思議は無いように思います。

  北朝鮮の核開発に関する今後の動向に対しては、国際社会による厳しい批判や監視が必要なのは言うまでもないでしょうし、核兵器保有と開発の継続は到底容認出来ません。但し、『NPTの枠外に逸脱していた上に、いつのまにか国際社会に核兵器保有を黙認してもらっている』という悪しき前例が存在してしまったのは事実です。そういった『不都合な』背景も考慮に入れ、今後の北朝鮮へのアプローチを検討すべきではないでしょうか。

 

(2) 朝鮮戦争について

  以前本ブログで紹介した『主権なき平和国家』という本でも紹介されているのですが、朝鮮戦争は現在、あくまで『休戦状態』であり、例えば日独伊vs連合国のような終戦状態ではないのです。1950年に北朝鮮の先制奇襲攻撃で始まった戦争は、米国が国連決議に基づき編成した国連軍(多国籍軍)の参戦→北朝鮮軍の戦況悪化→それに呼応した中国の参戦→戦線膠着という経過を経て、1953年に板門店で締結された協定によって休戦を迎えました。なお、この休戦協定に参加したのは北朝鮮・中国と米国であり、韓国は参加していません。

  また、あくまで休戦状態のため『朝鮮国連軍』は解散していません。朝鮮戦争休戦後、朝鮮国連軍地位協定が日米英を含めた10ヶ国間で締結されていますが、この協定に基づき日本国内には朝鮮国連軍の後方司令部が設置されている(在日米軍基地内)のです。従って、万が一朝鮮半島で有事が発生した際には、日本も関与することになるのです。加えて、この国連軍は既述のごとく、国連が米軍に『国連軍』の名義を貸しているようなものであり、主軸である米国政府の意向次第では解散も出来るのです。

  こういった経緯を考えると、北朝鮮核兵器の行方も、平和条約を結ぶ等して朝鮮戦争を終わらせるのも、米国の出方次第となってしまうのです。但し、米国の現大統領は資質に疑問符が付きまとうドナルド・トランプです。正直、金正恩と側近らに足元を見透かされている可能性は否めません。

 

(3) 体制保障?

  これは言わずもがなとは思いますが、北朝鮮のいわゆる『金王朝』は、権力闘争の過程における大粛清はおろか、自国民の信仰・言論・結社の自由等の基本的人権を大幅に制限し、少しでも従わぬ者は劣悪な環境の強制収容所に拘禁する等、凄惨な人権侵害(と失政)を継続してきました。全ては、金日成金正日金正恩と続いてきた独裁体制の『正統性』を保つ為の行為であり、私個人としてはニュース等を見る度に「は?体制保障?(ありえねえ)」と思っています。

  国連主導の選挙監視委員会の監視下での総選挙等々、波風を極力立てぬ方法で金一族が権力の座を明け渡してくれるのが理想的なのですが、現実はそう甘くありません。一方で、内乱や外国軍の武力介入など、急激な手段での政権交代(体制崩壊)にもリスクが伴うのは事実です。その過程で、大量の難民が周辺国へ押し寄せるでしょう。北朝鮮軍が大量破壊兵器を使用してしまえば、被害は尚更甚大となりかねません。そういった事態に関して、我々は準備が出来ているのでしょうか?

 

  いずれにせよ、北朝鮮問題に関しても、一時の激情や短期的な利益などの目先の勘定のみで動くのは賢明でないことだけは明らかです。