Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

子育て中の外科residentが、職場環境に対し不満を持つ原因

 東京医大の女子受験生差別問題の影響で、女性医師の働き方についても注目が集まっていますが、今回たまたま関連する話題を扱っている論文を見つけたので、ちょっと紹介してみます。今年8月1日にオンラインで発表されたJAMAの論文'Factors Associated With Residency and Carer Dissatisfaction in Childbearing Surgical Residents' (Rangel EL., Lyu H., Haider AH. et al.)を元ネタにしています。有料の論文だったので、Abstractしか読んでいませんのでご了承ください。

 

 外科研修中の子持ちの女性医師が、研修と子育ての両立で困難に直面していることは過去の研究で明らかになっていましたが、どのような因子が問題になっているのかまでは分かっていませんでした。

 そこで、この論文の著者らは2017年1月の4週間だけ、Association of Program Directors in Surgery(外科プログラム監督者協会?), Association of Woman Surgeons(女性外科医協会), Twitter, Facebookを通じて、オンラインのアンケートを実施しました。対象は、米国の総合外科研修(US general surgery residency)の期間中に少なくとも1人の子供を産んだ女性外科医です。

 アンケートで「子育てを取り巻く課題のせいでresidencyを辞めようと考えた("considerd leaving")」と答えた場合はresidencyに対して"dissatisfied"(不満である)と分類されます。また、1. 「もし職業選択を見直す機会を与えられたら、子育てに優しい非外科系のキャリアを選択する("revisit career choice")」 ないし 2. 「子育てと職業の両立が難しいので、女子医学生には外科キャリアを取らないよう助言を行う("advise against surgery")」と回答した場合は、residencyに対して"unhappy"と感じていると分類されます。

 アンケートには347名の女性外科医が回答(合計452の妊娠が報告され、平均年齢は30.5歳)し、全体の51.6%(179名)がキャリアないしresidencyへの不満を少なくとも1回は述べていたのです。公的な産休/育休の欠落は、"considered leaving"に関連し(odds ratio[OR] 1.83, 95%信頼区間[95%CI] 1.07-3.10)ていました。また、妊娠中に周囲の偏見を感じることは、"revisit career choice"と関連(OR 1.79, 95%CI 1.01-3.19)していました。

 更に、「子育てと元のsubspecialtyの両立が難しいと感じた為に、fellowshipの計画を変更した」ことは、residencyとキャリアへの不満を示す3つの指標全てと関連していました"considered leaving" OR 2.68, 95%CI 1.30-5.56, "revisit career choice" OR 2.23, 95%CI 1.12-4.43, "advise against sugery" OR 2.44, 95%CI 1.23-4.84)。

 この結果を受けて筆者は、① subspeciality選択に当たっての指導と、生活及び仕事の統合, ② 職場のバイアスを減らす為の介入, ③ 育休/産休制度確立を阻む障壁を特定すること によって専門性の実現が高められる、と指摘しています。

 米国も、日本と似たような課題に直面していたのでしょうか。いずれにせよ、産休/育休を制度化するだけでなく、周囲が寛大に受け止める情緒的な土壌を形成すれば、女性が外科医として働きやすくなることがデータという形で提示されたのです。