前回に引き続き、化学兵器攻撃への対応を医療的観点からまとめていきたいと思います(下記リンクは前回のもの)。
(3)実際の対応の流れ
化学兵器攻撃の急性期においては、迅速な安全策を講じ, 尚且つ 時間に敏感な治療を早急かつ迅速に始めるために、原因物質ごとの症状に基づいた迅速なトリアージシステムが必要です。ではどうするのか?具体例を見ていきましょう。
前回も述べましたが、最も即効性で致死的な物質 ー 神経剤, オピオイド剤, 窒息剤 ー をまず特定する必要があります。そして該当するのであれば、拮抗薬等による迅速な治療が必要です。これらの原因物質を除外した後は、患者さんの除染を行ってから治療を開始(場合によっては除染と治療が同時進行)します。
↑これは、今回引用したNEJMの論文に載っていたフローチャートの写真です。順を追って解説します。
1. 化学兵器による攻撃と特定したら
まず医療スタッフらの安全を確保しましょう。詳細は前回の記事に書きましたが、防護服を装着し、ホットゾーン・ウォームゾーン・コールドゾーンを設定しましょう。
2. 最初に特定すべきもの ー 神経剤
筋肉の痙攣, 脱力, 麻痺や分泌液の増加という症状が見られたら、アトロピンとプラリドキシムを直ちに投与。
そして、緊急で全身管理と除染を実施します。
3. 2番目に特定すべきもの ー 窒息剤
神経剤を除外した後、無呼吸に呼吸促迫・突然倒れる・痙攣・チアノーゼを伴っていれば、ヒドロキシコバラミンorチオ硫酸ナトリウムに加えて硝酸ナトリウムを直ちに投与。
同様に、緊急で全身管理と除染を実施。
4. 3番目に特定すべきもの ー オピオイド剤
無呼吸で呼吸促迫・チアノーゼ等はないが、鎮静や縮瞳を伴っていれば直ちにナロキソンを投与。
緊急で全身管理と除染を実施。
5. 無呼吸・鎮静だが、縮瞳を伴わない場合 ー 麻酔剤
拮抗薬はない。
除染, 全身管理と全身モニタリングが治療の中心になる。
但し、オピオイドとの鑑別に迷う場合はナロキソンを投与。
フローチャートには続きがありますが、大体の流れはこんな感じです。
『化学兵器攻撃への対応』シリーズはこれで最終回です。足りない部分もあったかと思いますが、参考にして頂ければ幸いです。