Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

日本のNSA, 防衛省電波部

 今年の5/19に放映されたNHKスペシャルで、実に興味深い番組(下記リンク)をやっていました。日本政府が行っている諜報活動を『暴露』するという、結構珍しい話題を取り扱う社会派ドキュメンタリーでした。

NHKスペシャル | 日本の諜報スクープ 最高機密ファイル

今回は、この放送内容をまとめた英語の記事をネット上で発見(下リンク)したので、紹介します。なおこのサイトは'The Intercept'という独立メディアで、このNHKスペシャルの番組を作成するに当たって共同で取材や制作に当たったそうです。

theintercept.com

 防衛省の内部には、電波部という部署があります。これは米国の国家安全保障局(National Security Agency; NSA国防総省諜報機関)に相当する機関です。詳細は後述しますが、北朝鮮といった近隣諸国の通信や軍の動向を偵察・傍受する役割を担っています。電波部内には11の部署・1700名の人員がおり、日本全国に6つの監視施設を持っています。電波部の本部は防衛省内の'C1'という建物内にあり、ここに全国の監視施設から情報が集められ、情報の分析が行われるそうです。

 この記事(とNHKの番組)では電波部が行っている主な『任務』2つが例示されています。

 1つ目は、一般市民のメールやチャット, インターネットブラウザの履歴, SNS上のアクティビティをコピーして選別するシステムである'XKEYSCORE'を用いた、オンラインの情報収集です。この技術の利用は、日本国憲法で規定された「通信の秘密」に反する行為です。

 2つ目は、日本各地に設置された監視施設による、人工衛星通信の傍受です。この記事では福岡県筑前町にある「太刀洗通信所」で行われている監視プログラムが紹介されています。このプログラムは'MALLARD'と呼ばれ、およそ200個の人工衛星の通信を、通信所にあるパラボラアンテナ(ドームで覆われ、形状や向いている方角は分からないようになっている)を介して傍受しています。監視対象である約200個の衛星のうち、少なくとも30個は中国のものです。残り約170個にはロシア, 台湾, 韓国, 果ては米国や欧州諸国のものが含まれているそうです。また、サイバー攻撃に関する情報を集める目的で、2012年12月から2013年1月の間に行われた監視任務では1時間に50万件ものインターネット接続を収集(なんと1日で1200万件!)したのですが、約2ヶ月間にここまで膨大な情報を集めたにも関わらず、明らかにサイバー攻撃と関連していたのはたった1件のメールのみだったそうです。なお、衛星を介するワイヤレス通信に対する傍受は、日本の法律的にはグレーゾーンだそうです。日本の法律では、有線通信の傍受には裁判所の令状が必要と規定されていますが、ワイヤレス通信に関しては明確な規定が無いのです(しかし、日本国憲法には上記のように、通信の秘密が規定されています)。

 また電波部を含めた日本の諜報機関は、米国のそれ(CIA, NSAとか)と協力関係にあり、上記'XKEYSCORE'もNSAから供与された技術だそうです。そして、なぜここまでの情報が明らかになったのかというと、以前話題になった元NSA職員のエドワード・スノーデン氏が内部告発のために持ち出したファイルの中に、NSAと日本の諜報機関の協力関係に関する情報が入っていたという事も一因です。

 

 最後になりますが、少なくとも

①私たちのオンラインの通信は常に政府の監視を受けている。

②しかし日本国憲法で国民の通信の秘密は保障されている。

NHKはゴールデンタイムに(3面記事的でバラエティー要素の強い番組を多く流す民放と違って)、こんな硬派な話題のドキュメンタリーを放映していた。

という事は認識しておいた方がいいと思います。「国防のためしょうがないじゃないか」という方もいらっしゃるとは思います。しかし、「本来保障されるべき通信の秘密を破ってまで、国家に一挙一動(とまでは行かないかもしれないが)を監視される」というリスクを受け入れる覚悟があるのか、自問自答してみるべきでしょう。