Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

肺血栓塞栓症除外アルゴリズムに関する研究

 こんばんは。現役救急医です。今日はJAMAというジャーナルに12/7に発表された論文(Freund Y., Chauvin A. et al. JAMA. 2021;326(21):2141-2149)を紹介してみます。特に統計学的な話がややこしかったので、省略したり雑に訳していたりする部分もありますがご了承下さい。

 

(1) Introduction

 肺塞栓症(PE; pulmonary embolism)が疑われる患者への診断アルゴリズムは依然議論の対象である。従来のアルゴリズムでは、検査前確率, D-dimer値, 閾値を超えるD-dimer値の患者での肺血管造影CT(CTPA; computed tomography pulmonary angiography)ないし肺換気/血流scanning撮影 を用いている。CTPAは頻繁に用いられるが、報告された診断率は10%のみである。

 他にも様々な診断アルゴリズムが提案されている。

  • 検査前の確率が低い患者の場合、PERC(PE rule-out criteria)8項目(①年齢≧50歳, ②心拍数≧100/min., ③動脈血酸素飽和度<95%, ④片側の下肢の腫脹, ⑤血痰, ⑥直近の外傷or手術, ⑦PEや深部静脈血栓症の既往, ⑧エストロゲン製剤使用)に該当しないこと, もしくは、50歳以上の患者でD-dimerのcutoff値に「年齢 x 10 ng/mL」を使用すること, で安全にPEを除外できる
  • YEARS ruleYEARS criteria(①PEが最も可能性がある診断, ②深部静脈血栓症の臨床症状, ③血痰, の3項目)を満たさない患者にD-dimer cutoff値=1,000 ng/mLを併用することで、安全にPEを除外できる

なおYEARS ruleはランダム化試験で検証されていない。

 この研究は救急部(ED; emergency department)において、RERC ruleで除外されていないPE疑いの患者に対し、YEARS ruleと, 年齢調整したD-dimer cutoff値 を併用することによりPEが安全に除外されるかどうか検証することが目的である(Figure 1)

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Figure 1: Intervention群とcontrol群の診断基準

 

(2) Methods

① Study Design

 この研究はclusterランダム化を用い, crossoverを伴う非劣性試験である。この研究に参加したのは、スペインのED2ヶ所とフランスのED16ヶ所であった。

 各EDは、1) 4ヶ月間のcontrol strategy(詳細は後述) period→2ヶ月間のwashout period→4ヶ月間のintervention strategy(詳細は後述) period, ないし 2) 1)の逆の順序, のいずれかへ1:1の比でランダム化された。ランダム化では国とEDの規模による階層化も行われた。

② PICO

 1. Patients selection

 患者の登録は2019年10/1~2020年10/8の間に行われたが、COVID-19感染拡大の影響により患者登録は2020年3/15に一旦中止され, 4~6週間後に再開された。

 PEの診断は半構造化されていた。第1段階は救急医による臨床的な検査前確率の評価だった。主観的な臨床的可能性が採用された。

  • 急性発症の胸痛, 呼吸苦の増悪, and/or 失神といった臨床的にPEを疑わせる症状がある
  • PERC scoreの項目1個以上でPEである主観的な可能性が低い(<15%), もしくは PEである主観的な可能性が中等度(16~50%)である

の基準を満たす患者が参加登録した。他方、1) PEである主観的な可能性が高い患者(>50%), 及び 2) PERC scoreが0点でPEである可能性が低い患者, 並びに 以下のいずれかに該当する患者は除外された。

  • 重症:  呼吸不全あり, 低血圧, 末梢酸素飽和度<90%
  • 抗凝固療法中
  • 現在進行形で血栓塞栓症と診断されている
  • 妊娠中
  • 矯正施設収容中の人
  • PE以外の原因と明白に関連する症状がある

 2. Intervention strategy period

 PE除外にYEARS criteriaの評価とD-dimer検査値の両方を使用したPEは、1) YEARS criteriaに該当せず、D-dimer値<1,000 ng/mL, もしくは 2) YEARS criteriaに1個以上該当し、D-dimer値が年齢調整した閾値(50歳以上にて「年齢 x 10 ng/mL」)未満, のいずれかに該当した場合に除外された他の診断である可能性がPEの可能性よりも低い場合において、PEの可能性が最も高いと考えられた。D-dimer値が閾値を超える場合、胸部画像撮影を行なった(Figure 1)

 3. Control strategy period

 現行の推奨に則り診断を行なった: つまり全患者でD-dimer値を確認し, 閾値は年齢調整した値とした。年齢調整した閾値を上回るD-dimer値であった場合、胸部画像撮影を実施した(Figure 1)。 

 4. Outcome

 Outcomeは患者個人レベルで解析した。

1) Primary Outcome:  初回ED受診でPEを除外してから3ヶ月後における静脈血栓塞栓症(VTE; venous thromboembolism)(=診断失敗)。

 Primary outcomeの発生は、初回ED受診から3ヶ月後に患者本人へ電話インタビューすることで決定した。症状が悪化ないし再発した場合、全ての患者へ再度同じ病院を受診するように指導がされていた。ED再受診 or 入院が起きた事例については、臨床研究技術者が医療記録を見直した。

2) Secondary Outcome:  以下の6項目が解析された。

  • 救急医がオーダーした胸部画像検査(CTPA ないし 肺換気/血流scan)
  • ED滞在時間
  • ED受診後の入院
  • 抗凝固薬投与
  • あらゆる原因による死亡
  • 3ヶ月後における、あらゆる原因による入院

統計学的解析

 非劣勢の境界は1.35%と設定された。Intervention群における失敗率の1-sided 97.5%信頼区域(CI; confidence interval)の上限に基づいて、intervention starategyの安全性が評価された。Control群における失敗率を0.5%と予想し, 2-sided α riskは5%・βは20%と設定すると、857名の患者が必要となった。

 非劣性試験なので、非劣性仮説を有利とすることを避ける為に、primary end pointはper-protcol populationで評価したPer-protcol populationでは、1)参加登録基準, 及び 非参加登録基準に合わなかった患者, 2)各EDへ割り振られた診断基準を用いずに治療された患者, 3)primary end pointの数値が不明, ないし 4)その他の重大なprotcol逸脱があった患者 除外されたAs-randomised populationでは、primary end pointの数値がない患者はend pointを満たしていないと定義された。Primary outcomeのsensitivity analysisは、multiple imputationを用いて行なった(欠落したデータを補正する為)。

 Per-protocol populationに対するpost hoc analysisは、YEAR scoreが0点である患者のsubgroupにて行われた。このsubpopulationにおける胸部画像検査の割合も、両群に関して記述された。胸部画像の診断率は、PEと診断された件数を胸部画像撮影数で割ることにより求めた。

 未調整差異("unadjusted difference")と95%CIを、2変量に対してはexact methodを用いて, 連続変数に対してはBrookmyer法・Crowley法という方法を用いて計算した。

 3ヶ月後のVTEの頻度は、一般化線形回帰混合モデル・ベルヌーイ分布という方法で評価した。Secondary end pointは、優越性仮説に基づいて, as-randomized populationにおいて2群間で比較された。Secondary end pointのsensitivity analysisはper-protcol populationで行われた。Secondary end pointの不明な数値は置換されなかった。1)primary end pointの1-sided 97.5%の上限が、予め設定しておいた非劣勢解析の境界を下回る場合, 及び 2)secondary end pointの95%CIが"the null value"を含まない場合 に、統計学的優位であると考えられた。

 

(3) Result

 研究には、as-randomized populationとして1,414名が含まれたintervention strategy群には726名, control strategy群には688名が含まれた(Figure 2)。なお、37名(2.6%)の患者でprimary end pointが欠落していたので、as-randomized populationでは0に置換された。参加登録対象外の患者と重大なprotcol逸脱の患者を除外した結果、1,271名がper-protcol analysisの対象となったintervention群: 648名, control群: 623名)。

  • 平均年齢:  55歳
  • 女性:  58%
  • EDでPEと診断された患者:  100名(intervention群: 54名[7.4%], control群: 46名[6.7%]; 差異: -0.8%[95%CI: -2.0~3.5])

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Figure 2: 患者(やED)の割り付け

 Per-protcol populationにおいて、3ヶ月後にPEと診断されたのは6名だったintervention群: 1名, control群: 5名(Table 2)(診断)失敗率は、

  • Intervention群:  0.15%(95%CI 0.00~0.86)
  • Control群:  0.80%(95%CI 0.26~1.86)

であった。2群間の調整後の失敗率の差異は-0.64%(1-sided 97.5%CI: -∞~0.21)であり、非劣勢境界である1.35%を下回っている。As-randomized populationでも結果は同様だった

 As-randomized populationにおいて、EDで胸部画像を撮影されたのは496名(35.1%)だった:

  • Intervention群:  221名(30.4%)
  • Control群:  275名(40.4%)
  • 両群間の差異:  調整前: -9.6%, 調整後: -8.7%(95%CI -13.8~-3.5)

ED滞在期間中央値は、

  • Intervention群:  6.0時間
  • Control群:  6.0時間
  • 両群間の調整後の差異:  -1.6時間(95%CI -2.4~-0.9)

だった。Per-protcol populationでも同様の結果が得られた

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Table 2(primary end point)とTable 3(secondary end point)

 他のsecondary outcomeについて、両群間で統計学的な差異は認められなかった(Table 3)Per-protcol population, as-randomized population, or multiple imputationを用いたas-randomized populationにおいて、有意な時間的効果は証明されなかった。上記2個の診断基準を使用する順序は3ヶ月後のVTEリスクと関連しておらず, model内へ採用されなかった("was not kept in the model")。

 Per-protcol population中に、YEARS score 0点の患者は合計で956名が居たintervention群: 515名, control群: 441名)。これらの患者に限定したpost hoc analysisによると、intervention群でPE見逃しは無く(失敗率:  0.00%[95%CI 0.00~0.71], 非劣勢境界を下回る), control群でPE見逃しは3名だった(失敗率:  0.68%[95%CI 0.00~1.45])。この集団におけるpost hoc analysisでは、胸部画像を撮影したのは

  • Intervention群:  22.9%
  • Control群:  37.2%

であり、絶対的な減少幅は14.3%(95%CI 8.3~20.2)であった。

 

(4) Discussion

 PE疑いでPERC陽性であるED患者に対する多施設参加型・clusterランダム化・corssoverあり臨床試験にて、YEARS ruleと年齢調整したD-dimer cutoff値を併用する診断基準は、従来の診断基準と比較して、3ヶ月後のVTEの割合の非劣勢に繋がった。Interventionは胸部画像検査使用の統計学的に有意な減少と関連していた。

 YEARS ruleは将来的に(or前向きに)検討されているが、ランダム化試験で評価されていないし, また PERC ruleと年齢調整したD-dimer cutoff値との組み合わせも使用されていない。この研究では、胸部画像撮影のintervention群とcontrol群間の絶対的差異は10%であるこの減少幅は、過去の前向きコホート研究で見られた数値(絶対的減少幅=14%)より小さかった。この過去研究では、PEであることの臨床的な可能性が低く, PERC criteriaに該当しない患者(≒YEARS criteriaに該当しないと思われ、従って胸部画像撮影も行われなかったであろう患者)も参加登録されていたことが原因である。YEARS criteria使用が、PERC陽性だった患者集団における胸部画像撮影の有意な減少と関連していたという事実は、これら2基準の併用の価値を強調するものである。

 この研究におけるPE有病率は7%であり、過去の研究で報告された13%より低かった。これは、後者の研究(=過去の研究)では臨床的な可能性が高い患者が参加登録され, また YEARS score 0点の患者が50%のみであったことにより説明可能である。今回の研究では、参加登録した患者のうちYEARS scoreが0点だったのは80%超であり, PE有病率の合計も低かった。

【衝撃的事実】『日本版CDC』創設は2009年時点で構想が存在していた

 こんばんは。現役救急医です。私が去る11/21~23の間、第49回日本救急医学会総会に参加していたことは以前述べた通りですが、実はこの学会の講演, ないし セッションで非常に興味深い話がありました。

 学会最終日の11/23午前中に、川崎市健康安全研究所所長で政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員でもある岡部信彦先生による講演がありました。その講演で私は、感染症法は1999年に初版(?)が発効したことを初めて知りました。しかし最も印象的であったことは、2003年に発生し世界中へ拡大したSARSを受けて感染症対策への国の役割強化が図られたこと, そして2009〜10年にかけてパンデミックとなったH1N1インフルエンザを受けて、「『感染症危機管理体制を作り、人材を育成する』・『サーベイランスを強化する』・『各病院における院内感染防止を支援する』等の対策が必要である」という結論が既に導き出されていたことでした。なお岡部先生曰く、2009年の頃と比べると今日は政治と科学の間のgapは狭まっているそうです。

 それに加えて、先日の昼休みに私は『日本版CDCは必要か?』というトピックの特別企画のオンデマンド配信(本番は11/23午後にあった)を見ていました。その中で私は驚愕の(?)事実を知りました。2009年7月の時点で日本医学会は『Japan CDC創設に関する委員会』を設置しており、2012年12月に同会が『Japan CDC創設に向けての提案』を出し、その翌年には当時の安倍晋三首相へ提案を行っていたというのです(厚労省内部でも同調する動きがあったそうです)。そして2012年の提案の中では、国民の健康に関する情報の一元化や, 科学的評価を事前並びに事後に行う機構を揃えること, 及び 感染症生活習慣病放射線被曝への対応と予防を目的として、日本版のCDCを創設することを提唱していたというのです。CDCとは"Center for Disease Control and Prevention"の略称で、大雑把に言うと感染症対策を担っている米国の政府機関です。「それに相当する政府機関を日本にも創設すべき」という提言が今から10年くらい前に既になされていたのです。

 しかし実際はどうだったでしょうか?2021年12月初旬現在、ワクチン接種が拡大したことで日本の感染者数が落ち着いていることは事実です。また尾身茂先生や忽那賢志先生, 高山義浩先生, 西浦博先生, 岩田健太郎先生らその道のプロフェッショナルがCOVID-19に関して一般向けに発信を続け、特に尾身先生は政策立案・実行を巡って内閣を含む面々と幾度に渡り折衝を重ね,  尚且つ国会や記者会見の場での質疑応答もこなす等して粉骨砕身とも言うべき有様でした。ですが、とりわけ2021年8月の第5波において、日本中でCOVID-19患者・家族と医療従事者が悲惨な境遇に立たされたことも事実です。「もし政府(或いは内閣の面々)がパンデミック前に有識者の提言を真面目に受け入れていたら」・「もしメディアがパンデミック前に提言を取り上げて、社会全体の関心を励起していたら」・「もし野党がパンデミック前に国会で、提言を採用するよう政権へ迫っていたら」と思うと、やり場のない怒り・悲しみが込み上げてきます。

 

 このブログやYouTube動画で繰り返し紹介している『失敗の本質』では、ノモンハン事件ミッドウェー海戦ガダルカナル島の戦いインパール作戦等の事例を通して、アジア太平洋戦争における日本の敗因を分析していますが、その中でしばしば見られるパターンとして、「敵の動向に関して注意を要する情報をもたらしたり, 作戦計画の問題点を指摘した将校が居たのだが、彼らの意見は大抵無視された」・「敵情を甘く見て強気に出て、壊滅的打撃を被る」といった経緯があります。また、半藤一利氏が対米開戦に至った経緯を追った著作『なぜ必敗の戦争を始めたのか 陸軍エリート将校反省会議』を読むと、旧陸軍は日本の国力・物量を試算した結果、対米英長期戦が困難であると判明したことから、南下(≒北部仏印まで既に進駐していたので、それより南への進出)に対し一度消極的になった経緯が記されています。ですが、それでも結局日本は南部仏印まで進駐し(そして米国からは、それまでの鉄屑の禁輸措置に加えて石油全面禁輸を喰らう)、その後真珠湾攻撃マレー半島上陸により対英米蘭戦争を始めてしまっているのです。そこまで突き進んでしまった背景には様々なものがあるのですが、大まかに言うと、①海軍が、対ソ連戦争を意識している陸軍への対抗意識から南下を主張したこと, ②陸海軍双方や政府内で親独派の声が大きく、「ドイツが欧州であれだけ優勢ならば我々も」と考えていたフシがあったこと, 及び ③米英から各種禁輸措置を受けており、南方で資源を確保したかったこと, などが挙げられます。いずれにせよ、そうやって戦端を開いてみた結果が1945年の敗戦であり、敗戦までに餓死を含め多くの兵士の命が前線で失われ, アジア太平洋各地では現地住民が様々な形で巻き添えを喰らい, 日本本土・沖縄でも地上戦・空襲・原爆に巻き込まれ多くの民間人が亡くなってしまった訳です。

 

 

 こうした戦時中の事例と、冒頭の日本版CDCに関する経緯を比較してみると、一定の共通点があるように私は思います。すなわち、

① 集めた情報を基に論理的ないし精密な分析・予測・試算を出来る人が政府内に居るものの、結局その人たちの提言は無視される。

② そういった情報や分析等を蔑ろにしたまま危機的状況へ突入し、泥沼にはまり、多大な犠牲を生む。

の2点です

 私たちは幼い頃から、「先の大戦の惨禍は繰り返さない」・「平和を誓う」というフレーズをしばしば耳にしてきました。しかしながら、先の大戦において戦線拡大と犠牲の増大に繋がった『過程(プロセス)』への反省や検証は十分だったのでしょうか?そのような『過程』への反省が日本社会全体で共有されてこなかったからこそ、未だに日本で様々な問題が起きていると思うのは私だけでしょうか?このCOVID-19という大災害を機に、より多くの国民(とメディア, 議員, 中央省庁の皆様)が思索と議論を深めてくれることを願います。

第49回日本救急医学会総会に行ってきた。

 こんばんは。現役救急医です。TwitterYouTubeのフォロワーさんは既にご存知かと思いますが、11/21~23(今日)まで、東京で開催されていた第49回日本救急医学会総会・学術総会に行っていました。COVID-19パンデミックにより、2020年初頭以来、医療系の学術総会も軒並み影響を受けてオンライン開催が主体になっていました。私が最後に学会へ現地参加したのは2019年10~11月頃(10月の救急医学会は東京で開催, 11月の某外科系の学会は西日本での開催だった)ので、実に2年ぶりの県外への旅行, かつ 東京への出張だった訳です。

 そこで今回は、約2年ぶりに東京へ出た田舎住民の感想を挙げていきます。

 

① 徒歩圏内で道に迷う

 自動車の場合、ほぼ全ての自家用車にGPSが付いているのでまず道に迷うことはありません(時々、変なルートへ誘導しやがることはありますが)。そして田舎は公共交通機関が十分でないので、自家用車での移動が主になります。

 しかし東京への出張・旅行で赴いた時、多くの場合は電車and/orバス+徒歩での移動になると思います。今回の私も例外なくそうでした。学会会場は、Google Mapによると東京駅から徒歩圏内であり, ホテルも学会会場・東京駅双方から徒歩で到達可能な所に予約しました。

 

 で す が………

 

 

いざ東京駅構内から駅前の大通りに顔を出し, Google Mapを参照しつつ学会会場へ足を進めたものの………

 

 

あれ?

 

 

あれれ?????

 

 

 

Google Map上、スッゲー近いはずなのに、どの建物か分からない!!!!!

 

東京はどこもかしこも高いビルだらけ, 商店・飲食店・オフィスの看板や、窓やショーウィンドウに掲げられた広告やらで目に入る情報量が多すぎて、頭が混乱するのです🥺

 逆に田舎は(東京と比較して)低いビルばかりで、映画館やショッピングモール等の数もたかが知れています。言い方を変えると、群を抜いて高いビルやショッピングモール, 映画館, 駅がランドマークになってくれるのですまた前述のように、田舎の移動手段はほぼ自家用車です。自家用車を運転しながら目的地に行く(場合によりGPSの音声通りにハンドルを切る)のと、地図やスマホを見ながら歩いて目的地に行くのとでは視点が異なります。それに加えて、地方都市の規模なんてたかが知れているわけで、取り敢えず幹線道路(国道・県道・市道など)を走っていればなんとかなる訳です(但し、幹線道路を外れて田園地帯や山道に入った場合は別)。

 

② 地下道はもっと訳が分からない

 東京は山手線のようなJRに加え、東京メトロのような地下鉄が縦横無尽に走っています。それもあってか、東京は至る所に地下街・地下通路が発展しています。

 ですが、その地下街も私には大問題です。そもそも、広すぎるのです(そして、うねうねと曲がりくねりまくって迷路もいいところ)!それに加えて、地上と違って目印となるであろう建物が存在せず、あるのは柱と壁と広告くらい。構内図や, 地上との位置関係を示す地図は探せばありますが、如何せん細かすぎて、『現在地』を示すマークを探し出すのすら一苦労でした。

 

③人がとにかく多い

 言うまでもないですが、東京って人が多いです。通勤時間帯でもそうでなくても、老若男女が街頭・地下街・駅構内・電車内とうじゃうじゃいる訳です。鬼滅の刃』で人混みの中に鬼無辻ナントカが紛れ込んでいても、炭治郎以外気づかないというのが自然に感じるくらいです(笑)

 土産物を探したり、コンビニに買い物を行く際に東京駅周辺の繁華街や, 八重洲の地下街を夕刻〜夜や昼時に徘徊したことが何度かあったのですが、飲食店内では沢山の人がマスクを外して飲食しつつ談笑している光景を何度も目にしました(おそらく皆、友人・同僚・恋人同士あるいは家族連れでしょう)。現在はワクチン接種拡大のお陰もあってか、SARS-CoV-2感染者数は落ち着いてきてはいます。しかしワクチンを接種していても感染はしますし、感染者が増えれば当然重症化する人は一定数生じます。もし近いうちに第6波が到来すれば、悠長に飲食店で談笑や飲み会をやることは(本来であれば)もう叶わないでしょう。

 とはいえ、飲食店によって若干傾向に差があるように見えました夜の居酒屋や, 日中と夜間のレストラン(イタリアン・中華・東南アジア・和食等ジャンルは問わず)は、2~3名以上のグループが向かい合って談笑しながら飲食している所が多く、行列すら出来ていました。その反面、吉野家やラーメン店は1人(或いは2人)で入る人が圧倒的多数であり、従っ、喋りながら飲食をする人がほぼ居ませんでした。スターバックスのようなカフェは、1~2人の少人数と, 3名位以上の大人数集団が入り混じっており、レストランと吉野家・ラーメン店の中間に位置しているような印象でした。

 飲食店での外食に関して結論を出すのであれば、私のようなボッチ飯系非リア充非モテはラーメン店・吉野家くらいしか外食する店がないので、感染対策上有利なのかも知れません(笑)(注意: あくまで個人の感想です!)

 あと東京駅から帰る時、東京駅の改札をくぐって地方行きの新幹線へ乗り込む人の数や、私の乗った新幹線の自由席へ乗ってくる人の数が多いのには少々驚きました。駅構内で幼い子供を伴った家族連れも多数見かけたので、東京→地方への短期帰省, もしくは 地方→東京への1日旅行の帰途の人も相当数居たと思います。多人数と集合しての会話・飲食のみならず, 県境を跨ぐような移動も、場合によっては感染拡大の端緒となり得ます。日本国内の人間の多くでコロナワクチンによる免疫が高度に維持されている段階ならまだ良いのですが、半年以上が経過して(重症化予防効果は維持されるというものの)SARS-CoV-2感染に対する防御効果が低下してしまう, and/or 第6波が起き始めたら、悠長に旅行なぞしている場合ではありません(だからこそ3回目接種を行うのです)。

 

 最後に、学会と言えば出版社・書店の専門書コーナーがつきものですよね?今年も2年ぶりにそうゆうコーナーに行き, 私のようなポンコツ救急医や経験の浅い研修医・専攻医の皆様にとって大いに参考になりそうな図書を発見し、購入してから新幹線車内で読んでみたところ目から鱗だった(注意: まだ最初の方までしか読んでいません)ので紹介しておきます。

1. 『救急現場から専門医へ あの先生にコンサルトしよう!』(増井伸高 編著, 金芳堂

2. 『終末期ディスカッション 外来から急性期医療まで現場でともに考える』(平岡栄治, 則末泰博 著, メディカル・サイエンス・インターナショナル)

読んだ感想は後日改めてブログ等にuploadする予定ですが(そもそも忙しくて読む時間が確保できるか微妙ですが)、1.は(とりわけ)他科上級医へ患者のことで相談を行う準備になると思いますし、2.は患者の死と尊厳について考え, また患者家族との向き合い方を考えるに当たって大いに参考となりうる本だと私は感じました。

脳梗塞急患への画像検査の選択

 こんばんは。現役救急医です。今日は専門ジャーナル"JAMA Neurology"に今年11/8に発表された論文(doi: 10.1001/jamaneurol.2021.4082)を紹介してみます。所々意訳とか、割愛したりした部分があるのであらかじめご了承下さい。

 

(1) Introduction

 "DAWN", 及び "DEFUSE3"という臨床試験2件は、症状出現(最終健常目撃時間["time last seen well"; TLSW]と呼ぶ)から6~24時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者への治療を転換させ、こうした遅い時間枠("extended time window")における血管内治療の適応を示したMRI もしくは CT perfusion(CTP)といった臨床的or組織のmismatchを示す先進的な画像診断は、この2件の臨床試験ではトリアージの主流であり, また米国と欧州のガイドラインでは治療適応の判断に用いることを推奨している。

 急性期においてMRIやCTPは必ずしも使用可能ではなく、また全ての施設で実施可能とも限らない。単純CT(noncontrast CT; NCCT)で評価したAlberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)とCTPの間の関連性は複数の研究で実証されているしかしながらASPECTの解釈には、評価者により質のばらつきがあることが知られている。

 治療により利益を受ける患者を同定するためのトリアージと, 他の患者よりも良好な転帰になりうる患者を同定するためのトリアージを区別することが重要である。

 この研究の目的は、遅い時間枠で受診した脳血管前方循環系の中枢側の閉塞による脳梗塞患者において、NCCTとCT angographyで治療適否を判断した患者群と, CTPないしMRIで治療適否を判断した患者群の臨床的転帰を比較することである。この研究では、「この3つの患者群の間で有意差がない」という仮説を立てた。

 

 

(2) Method

① 参加者について

 "CT for Late Endovascular Reperfusion(CLEAR)" studyは、遅い時間枠(=TLSWから動脈穿刺[血管内治療開始]までが6~24時間)に機械的血栓回収術(MT; mechanical thrombectomy)を行う, 連続した前方循環系中枢側閉塞による脳梗塞患者に対する、多施設型コホート研究である。2014年1/1〜2020年12/31の間に、欧州と北米の5ヵ国・15施設で被験者を採用した。

 今回解析を行った研究コホートには、以下の基準を満たす連続した患者が含まれた:

  • BaselineのNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)≧6点
  • 内頸動脈 もしくは 中大脳動脈中枢側(M1, M2 segment)の閉塞
  • TLSWから治療まで6~24時間

 CLEAR studyのコホートは、血管内治療の適否判断に使用した画像検査に従って、NCCT・CT angiography群, CTP群, または MRIへ分類された。なお以下のいずれかに該当する患者は除外された(Figure 1)

  • TLSWから動脈穿刺まで0~<6時間
  • 発症前のbaselineのmodified Rankin Scale(mRS)が3~5点
  • 脳血管後方循環系の閉塞

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Figure 1

転帰の指標

 患者の転帰は以下の項目で評価した。

1) Primary end point・・・90日後のmRSスコアの分布

2) Secondary clinical outcome

  • 90日後における機能的自立(=mRSスコア0~2点)の比率
  • TLSW〜動脈穿刺までの時間, 来院〜動脈穿刺までの時間, 術後の再開通成功

3) Safery end point

  • 術後の症候性頭蓋内出血
  • 90日後の死亡率

統計学的解析

 90日後機能的自立という転帰に関しては、mRSスコアが0~2となる可能性(or 尤度 or 確率: "likelihood")を推計する為に、ロジスティック回帰モデルという方法が使用された。各パラメーターについて、粗odds ratio(OR)及び調整ORと, 95%CI(confidence interval; 信頼区間)を計算した。以下の項目が、事前に共変量として選択された:

  • 年齢
  • BaselineのNIHSSスコア
  • 性別
  • BaselineのmRSスコア
  • 高血圧
  • 心房細動
  • 糖尿病
  • 転院搬送
  • 血栓溶解薬静注
  • BaselineのASPECTS
  • 閉塞部位
  • TLSWから動脈穿刺までの時間

 90日後mRSスコアの分布に関しては、より順序の低い数値への1点のシフト(=より良好な転帰)を推計する為に、多項順序ロジスティック回帰という方法が使用された。

 

 

(3) Result

 CLEAR studyに採用され, 内頸動脈ないし中大脳動脈中枢側の閉塞がある患者は2,304名であった。このうち1,604名はbaselineのNIHSSが6点以上で, 主要な数値に関してデータが存在したので、primary analysisのコホートになった(Figure 1)。患者は以下の画像検査によりMTの適応となった(治療法としてMTを選択された):

  • NCCT(とangiography)群:  534名
  • CTP群:  753名
  • MRI群:  318名

 3種類の画像検査の間で年齢, 性別, baselineのmRSスコア, 糖尿病について有意差は見られなかった。

  • BaselineのNIHSSスコア中央値:  CTP(16点)MRI(16点)よりもNCCT(17点)でわずかに高かった。
  • 高血圧: NCCT(72.1%; 385名)で高率だった。(対するCTPは72.3%[544名], MRIは64.5%[205名]
  • 心房細動:  NCCT(35.8%; 191名)で高率だった。(CTPでは29.1%[219名], MRIでは36.8%[117名]
  • 転院搬送:  NCCT(67.8%; 362名)で高頻度だった。CTPでは56.1%[362名], MRIでは69.8%[222名]
  • 血栓溶解薬静注:  MRI(42.8%; 136名)で多かった。(NCCTでは23.6%[126名], CTPでは12.1%[91名]

3群においてASPECTSの中央値は9点(4分位範囲: 7~9)だった。血管閉塞部位は、

  • 内頸動脈閉塞:  CTP(21.5%[162名])よりもMRI(32.4%[161名])NCCT(30.2%[161名])多い
  • M2閉塞:  NCCT(13.7%[73名])MRI(12.3%[39名])よりCTP(21.3%[160名])で多い

という結果であった。

 

 TLSWから血管穿刺までの時間は、CTP(中央値で11.3時間)MRI(中央値で12.4時間)よりもNCCT(10.4時間)で短かった

 再開通成功はMRI(78.9%)よりもNCCT(88.9%)CTP(89.5%)多かった

 

 退院時NIHSSスコア中央値は、MRI(11点)よりもNCCT(7点)CTP(6点)低かったコホート全体で合計すると、症候性頭蓋内出血は6.3%(100名)で認め、3群間で等しかった。

  • NCCT:  8.1%(42名)
  • CTP:  5.8%(43名)
  • MRI:  4.7%(15名)

90日後死亡率も3群間で類似していた

  • NCCT:  23.4%(125名)
  • CTP:  21.1%(159名)
  • MRI:  19.5%(62名)

 

 90日後の機能的自立(mRSスコア0~2点)は、

  • NCCT:  41.2%(220名)
  • CTP:  44.3%(333名)
  • MRI:  38.7%(123名)

であった。画像検査種類別の機能的自立・baselineの特徴・baselineの数値のodds(粗と調整)をTable 2に示す。これらの因子を調整した多変量解析では、90日後の機能的自立のoddsは、CTPNCCTの間で類似していた(調整後OR[adjusted OR: aOR] 0.90; 95%CI 0.70~1.16; P=0.42)。一方、NCCTよりもMRIで機能的自立のoddsが低かったaOR 0.79[95%CI 0.63~0.98]; P=0.03)。その他の年齢, baselineのNIHSSスコア, baselineのmRSスコア, 糖尿病, 転院搬送の有無, baseline ASPECTSといった因子は90日後の機能的自立と関連していた(Table 2)

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Table 2

 

 上記因子を調整した多変量解析にて、90日後のordinal mRSのシフト(or 順序的なmRSのシフト?)は

  • NCCT vs CTP:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.77~1.17]; P=0.64)
  • NCCT vs MRI:  有意差なしaOR 0.95[95%CI 0.80~1.13; P=0.55)

であった(Table 3, Figure 2)。多変量解析では、順序の低い数値へ1点シフトするoddsの減少と関連していたのは以下の項目であり, 予後悪化を示唆していた。

  • 高齢:  OR 0.97(95%CI 0.96~0.99); P<0.001
  • Baseline NIHSSスコア高値:  OR 0.91(95%CI 0.89~0.92); P<0.001
  • Baseline mRSスコア高値:  1点: OR 0.68(95%CI 0.54~0.86); P=0.001, 2点: OR 0.48(95%CI 0.34~0.65); P<0.001
  • 糖尿病:  OR 0.77(95%CI 0.62~0.96); P=0.02
  • 内頸動脈閉塞:  OR 0.83(95%CI 0.69~1.0); P=0.049
  • 転院搬送された:  OR 0.79(95%CI 0.67~0.92); P=0.002

逆に、ASPECTSスコア増加は1点シフトのodds増加と関連しており(OR 1.18[95%CI 1.13~1.24; P<0.001)、予後改善を示唆した

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Table 3

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Figure 2

 

 転院搬送を行なわれなかった患者598名に限定したsensitivity analysisにて、90日後の機能的自立のoddsは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.71(95%CI 0.42~1.21); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.69(95%CI 0.36~1.33); P=0.27

であり, 両群間で類似していた。同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.74(95%CI 0.46~1.18); P=0.21
  • NCCT vs MRIaOR 0.78(95%CI 0.54~1.12); P=0.18

であり, 有意差は認めなかった

 

 2014年〜2020年までの連続的な数値としての時間との関連性に関するsensitivity analysis(データが存在する患者1,425名が対象)では、90日後の良好な転帰のoddsは、

  • NCCT vs CTP:  aOR 0.88(95%CI 0.67~1.15); P=0.35
  • NCCT vs MRIaOR 0.85(95%CI 0.64~1.14); P=0.29

差が見られなかった同様に、順序的なmRSのシフトは

  • NCCT vs CTP:  aR 0.92(95%CI 0.75~1.12); P=0.39
  • NCCT vs MRIaOR 1.01(95%CI 0.85~1.21); P=0.92

有意差がなかった

 

 また別個の解析にて、再開通を得られた患者は、そうでない患者と比較して良好な臨床転帰となるoddsが良かった(aOR 6.31[95%CI 4.45~8.95]; P<0.001)。3つの画像検査のうち、MRIaOR 8.9[95%CI 6.7~11.9]; P<0.001)で再開通による良好な転帰のoddsが最も高く, その次にNCCT(aOR 6.1[95%CI 2.2~16.5]; P<0.001), CTP(aOR 5.1[95%CI 2.9~9.2]; P<0.001)という順で高かった。

 

 

(4) Discussion

 TLSWより6~24時間以内に来院し, MTを行った内頸動脈閉塞, 中大脳動脈M1・2閉塞による脳梗塞患者では、CTPないしMRIで治療適否を判断した患者と, NCCTで治療適否を判断した患者の間で良好な機能的転帰は同等であった。NCCT群の患者の90日後機能的自立の比率は、DAWN trial, DEFUSE-3 trialの患者と同等であった。画像検査の種類によって症候性頭蓋内出血, または 死亡のリスクが増加することを示す証拠は無かったとりわけNCCT群では、CTP群・MRI群と比べて来院から血管穿刺までの時間が短かった。

 遅い時間枠で来院した脳梗塞患者に対してMTの適否を判断する上で、今回の知見はより実用的な基準(=NCCTの所見と, 前方循環系大血管中枢側の閉塞)の採用を支持している可能性がある。一方で、CLEAR studyのNCCT群における患者診療は、米国や欧州のガイドラインに一致しないことを認識することも重要である。

 CLEAR studyでは"clinical-core mismatch"(臨床症状と画像所見のミスマッチ?)に基づく臨床研究参加基準を予め設定していなかったものの、NCCTによる治療適否判断を行った患者群は、CTP・MRIを使用した患者群と同等な転帰を示したこの原因を説明可能なのは次の2因子である。1) 過去の研究では、NCCT上のASPECTSとCTP上のcore volumeの間に中程度の関連性が報告されている。2) ASPECTSが等しい患者の中で、clinical-core mismatchは時間経過とともに減少しない。

 CTP群と比較して、NCCT群における90日後機能的自立の比率は数字上低かったが、有意に低くはなかったこの明らかな差は多変量解析では認めず、CTP群よりもNCCT群でNIHSSスコアが高い・転院搬送が多い・内頸動脈閉塞が多いことで説明可能かもしれないMRIにより治療適否を判断した患者と比較して、NCCTを用いた患者では90日後の機能的自立の比率は高くMRIよりもNCCT群で再開通率が高いことで説明可能かもしれない。

 CLEAR studyでは患者の臨床試験参加基準に明確なASPECTSの閾値を示していなかったものの、大半の施設では、遅い時間枠で来院した脳梗塞患者の治療適否の選択にASPECT≧6点を用いていた。この研究でNCCT群のASPECTS中央値は8点であり、MTが選択された患者の大半でNCCT上のASPECTSが高値であることを反映している。この研究コホートのASPECTSの4分位範囲は7~9なので、遅い時間枠にて来院した脳梗塞患者でNCCTにより治療適否を判断する場合、ASPECTS≧7点で機械的血栓回収術を考慮することを示唆している。