Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

壊死性膵炎へのintervention時期に関する臨床試験

 こんにちは、現役救急医です。日本救急医学会は日本集中治療医学会と合同で敗血症診療ガイドラインを作成しているのですが、それに少しばかり、急性膵炎の合併症である感染性膵壊死に対する介入時期について言及があります。雑に言うと、「ドレナージ(膿などの排除)は早期に行わないことを推奨し、極力低侵襲にするように」といった感じのことが書いてあったと思います。

 今回は、それに関連する話題の論文を紹介してみます(Boxhoorn L., van Dijk S.M. et al. N Engl J Med. 385(15); 1372~81. 2021年10/7発表)。

 

(1) Introduction

 壊死性膵炎は急性膵炎患者の約20~30%に発症する。感染を合併した膵臓膵臓周囲の壊死は、必ずと言って良いほど侵襲的interventionを行われる。

 現在の感染性膵炎への標準的approachは、経カテーテルドレナージを第1選択とする, 低侵襲的な段階的アプローチである。国際的なガイドラインは、感染した膵臓・膵周囲壊死が被包化するまでドレナージを待機し, 抗菌薬を投与することを推奨している。この推奨を行う理由は合併症の予防であるものの、この理由は開腹壊死切除術を行っていた頃に考案されたものである。

 しかしながら、ドレナージの待機は議論の対象となっている。専門医への国際的なアンケートでは、「感染と診断したらすぐにドレナージを推奨する」と45%の専門医が回答した。それに加えて、米国のガイドラインは最近、仮に早期であっても、感染を懸念した時にはドレナージを強く推奨した。

 低侵襲的経皮的・内視鏡的経消化管的治療が行われる今日、理論上、被包化壊死("walled-off necrosis")は安全なドレナージの対象とならない可能性がある。しかし、早期の経カテーテル的ドレナージが患者転帰の改善に繋がるか否かは不明であるそこで今回、壊死性膵炎に感染を起こした患者において、早期ドレナージが遅いドレナージに勝るか否か調査する多施設ランダム化superiority臨床試験を行った。

 

(2) Method

① Trial Design

 POINTER(Postponed or Immediate Drainage of Infected Neccrotizing Pancreatitis) trialは、Dutch Pancreatitis Study Group(オランダ膵炎研究グループ)と協力し, 22ヶ所の施設で実施された研究者主導・多施設・ランダム化・コントロール superiority臨床試験である。

 患者は経カテーテル的ドレナージ即時施行と, 施行待機(遅延)へ1:1の比でランダムに割り振られた。ランダム化は、ランダム化時の臓器不全(1個以上)の有無, 罹患期間(20日以内 or 21~35日以内), 及び 病院のvolumeによって階層化した。

 ドレナージ治療の第一選択には、イメージガイド下経皮経カテーテル的ドレナージと, 内視鏡的経消化管ドレナージが許可されていた。ドレナージ実施後72時間以内に改善を認めない場合、太いドレーンへ交換された。経カテーテル的ドレナージが不成功だった場合、低侵襲的壊死切除術を実施した(ビデオ下経後腹膜的デブリドマン, 或いは 内視鏡的経消化管壊死切除術)。

 ランダム化から6ヶ月後に患者フォローアップを終了した。

感染性膵壊死(感染を起こした壊死性膵炎)の定義

  • 急性膵炎発症後14日間の時期:  感染性膵壊死は1) 穿刺吸引検体でGram染色陽性or培養陽性, もしくは 2) 造影CTで膵臓・膵周囲にガス像あり と定義した。なお、早期の全身性炎症反応を敗血症と誤診しないようにする為、感染性膵壊死の臨床症候の存在を唯一の診断基準とはしなかった
  • 急性膵炎発症後14日以後: 1) ICU入院患者で持続している臓器不全, もしくは 2) 一般病棟入院患者で炎症に関連した項目(体温>38.5℃ or CRP上昇 or 白血球上昇)2個が3日間連続して高値である場合 に感染性膵壊死と診断した。

③ PICO

1. Patients Selection

 急性膵炎発症35日以内に画像ガイド下経皮的, もしくは 内視鏡的経消化管的ドレナージを実施可能な感染性膵壊死患者がランダム化可能であった。35日より前に発症した急性膵炎と, 壊死性膵炎への治療歴がある人は除外された。

 急性膵炎患者は入院時からフォローされた。感染性膵壊死が診断ないし疑われた場合、Dutch Pancreatitis Study Groupの専門家委員会(全国から複数名が参加し、オンライン)によりランダム化の適否と, 治療適応を判断した。

2. Intervention:  早期経カテーテル的ドレナージ実施(以下、早期実施群と呼ぶ)

 抗菌薬投与を行いながら、ランダム化24時間以内にドレナージを実施した。

3. Comparison:  待機的ドレナージ実施(以下、待機的実施群と呼ぶ)

 抗菌薬投与を行い, また被包化するまでドレナージを待機する為の支持的療法を行った但し状態悪化が見られる場合、ドレナージを行うことも容認された。待機的実施群割り振り時点で患者に被包化した壊死を認めた場合、まず抗菌薬で治療され, その後改善が乏しい場合or臨床上悪化している場合にドレナージを行った。

4. Outcome

 Primary end pointは、ランダム化時から6ヶ月後までに発生した全合併症を評価したComprehensve Complication Index(以下、"CCI"と呼ぶ)のスコアとした。CCIは、重症度に従って重み付けされた全合併症を合計したもの(0点=合併症無し, 100点=死亡)である。

 Secondary end pointは以下の項目であった。

  • 死亡
  • CCIに含まれる重大合併症の一部: 新規発症臓器不全, 治療を要する出血, 治療を要する内臓穿孔, 消化管-皮膚瘻, 膵-皮膚瘻, 切開部ヘルニア, 創部感染, 内分泌・外分泌膵機能不全
  • 重症合併症を来した患者数
  • Clavien-Dindo分類(重症度分類。分類はI~Vまであり、高い点数ほど致死的な合併症を示す)点数別の患者数
  • 外科的・内視鏡的・放射線科的(=経カテーテル的ドレナージや壊死切除術)治療を行った数の合計
  • ICU滞在期間, 入院期間
  • 入院コスト

 

(3) Results

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Figure 1: Screeningとランダム化・フォローアップ

 2015年8月〜2019年10月の間に合計932名の患者が参加登録可能か評価され、104名がランダム化された(Fig. 1)

  • 早期実施群: 55名
  • 待機的実施群: 49名

早期実施群の93%(51名)で24時間以内にドレナージが行われたが、残り4名(7%)は、1名: 被包化壊死が自然に破裂, 3名: その他の理由で、ドレナージをランダム化後平均4日目に行った待機的実施群1名(2%)は、臨床的悪化の為ランダム化後24時間以内にドレナージを行った

 両群でbaselineの特徴は類似していた。発症〜ドレナージ実施までの時間は、

  • 早期実施群: 平均24日
  • 待機的実施群: 平均34日
  • 平均値差: -10日 (95%信頼区間[confidence interval; CI]: -19~-5)

だった。

 Primary end pointに関して、両群間で有意差は認めなかった(Table 2)

  • 早期実施群: CCI平均スコア 57
  • 待機的実施群: CCI平均スコア 58
  • 平均値差: -1 (95%CI: -12~10, P=0.90)

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Table 2: Primary end pointとsecondary end point

死亡率は

  • 早期実施群: 13%
  • 待機的実施群: 10%
  • 相対的危険度: 1.25 (95%CI 0.42~3.68)

であった。重大合併症の発生率に有意差は見られなかった。

  • 新規発症臓器不全:  早期実施群: 25%, 待機的実施群: 22%, 相対的危険度: 1.13 (95%CI 0.57~2.26)
  • 出血:  早期実施群: 15%, 待機的実施群: 20%, 相対的危険度: 0.71 (95%CI 0.31~1.66)
  • 内臓穿孔, 消化管-皮膚瘻, or 両者:  早期実施群: 9%, 待機的実施群: 8%, 相対的危険度: 1.11 (95%CI 0.32~3.91)
  • 膵-皮膚瘻:  早期実施群: 11%, 待機的実施群: 8%, 相対的危険度: 1.34 (95%CI 0.40~4.46)
  • 切開部ヘルニア:  両群で発生なし
  • 創部感染:  早期実施群: 0, 待機的実施群: 1%

 入院期間平均値は、

  • 早期実施群: 59日間
  • 待機的実施群: 51日間
  • 平均値差: 8日 (95%CI -9~23)

だった。ICU滞在期間に差は認めなかった(平均値差: 0; 95%CI -11~11(Table 3)

 外科的・内視鏡的・放射線科的治療回数の平均値は、待機的実施群よりも早期実施群で多かった(Table 3)

  • 早期実施群: 4.4
  • 待機的実施群: 2.6
  • 平均値差: 1.8 (95%CI 0.6~3.0)

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Table 3: 治療に関連するsecondary end point

待機的実施群では19名(39%)が抗菌薬のみで保存的加療を行われた; うち17名は生存していた。最終的に壊死切除術を必要としたのは、

  • 早期実施群: 28名(51%)
  • 待機的実施群: 11名(22%)

だった。

 6ヶ月後のフォローアップにて、内分泌・外分泌膵機能不全の発症(Table 2), 或いは 入院コスト(Table 3)に関して、両群間で差は無かった。

  • 入院コスト平均値差: 6,166ユーロ(2021年11/4のレートでは約812,000円)
  • 95%CI: -12,968~23,361(2021年11/4のレートでは-1,707,755~3,076,410円)

初回のドレナージで内視鏡的経消化管ドレナージを実施したのは、

  • 早期実施群: 31名(56%)
  • 待機的実施群: 保存的治療を行われなかった30名のうち20名(67%)

であった。

 

(4) Discussion

 感染性膵壊死患者において、合併症低減の観点で、待機的経カテーテル的ドレナージに対する早期経カテーテル的ドレナージの優位性を示せなかった。早期実施群にランダム化された患者で感染性膵壊死に対する治療の回数が多かったが、それに対し待機的実施群では患者の1/3超が治療を必要とした。

 「感染性膵壊死の診断直後に実施する経カテーテル的ドレナージが、待機的ドレナージより少ない合併症で患者転帰改善に繋がる」という仮説を、今回の結果は支持しない。壊死性膵炎患者193名を対象とした最近の後方視的研究では内視鏡的な段階的approachを用い、早期治療(急性膵炎発症後4週間未満)を行った患者(76名)の転帰を標準的治療(発症後4週間以上)の患者(117名)と比較し, その結果両群で合併症発生率が類似していることを示した。しかし早期治療群は標準的治療群よりも入院期間が長く, また早期治療群の患者で死亡の割合が高かった。同様にして、内視鏡的経消化管ドレナージを行った38名の患者(19名: 急性膵炎発症後4週間未満で治療 vs 19名: 発症後4週間以上にて治療)を比較し, 4週間以内に治療された患者群は、4週間以降に治療された患者群よりも入院期間が長いことが示されたものの、死亡率に差は認めなかった。しかしこの2研究は後方視的・非ランダム化試験であり、結果の解釈には注意を要する。

 今回の臨床試験では、両群間でCCIスコアと死亡率に有意差を認めなかった。にも関わらず、待機的ドレナージに関しては予期せぬ利益も幾つか認められた。

  • 待機的ドレナージ群患者では、感染性膵壊死へ必要とされた治療の回数が少なかった。
  • 待機的ドレナージ群患者の35%は、抗菌薬のみで保存的に治療が奏効した。

発症からドレナージまでの期間の両群間の平均値差は10日のみであったが、こうした待機期間は、抗菌薬治療のみで改善し得る患者を同定するのに十分であった抗菌薬治療が感染性膵壊死患者転帰改善に繋がるかどうかは、将来の研究において重要な課題である。

 一方、合併症・死亡率の観点で、早期のドレナージは転帰悪化に繋がらなかった従って、一般的に、急速な悪化を認める場合には、早期の経カテーテル的ドレナージは有効な治療選択肢であることも示された

デルタ株流行後にCOVID-19患者の重症度は変化したか? − 米国の知見 −

 こんばんは。現役救急医です。今日もCOVID-19に関係した論文を紹介してみます。今回の参考文献は、今年10/22に'Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)'(米国CDC[Centers for Disease Control and Prevention]が発行している専門誌)へ発表されたものです。

 

 

 2021年6月中旬に、米国ではデルタ株(B.1.671.2)が最も流行しているSARS-CoV-2変異型となった。同年7月までにデルタ株は、米国のSARS-CoV-2新規感染のほぼ全例に関与していた。デルタ株は過去の変異株よりも強い感染力を有していた; しかし、成人においてより重症化するかどうかは不明であった。そこで、COVID-19関連入院へのsurveillaneを行うシステムであるCOVID-NET(the CDC COVID-19-Associated Hospitalization Surveillance Network)のデータを使用し, COVID-19により入院した18歳以上の成人において、2021年1月〜6月(=デルタ株流行同年6月~8月(=デルタ株流行中の期間で重症化の傾向を検証した。

 

 COVID-NETは14州99郡で、COVID-19関連入院に関する人口ベースのsurveillanceを行っている。2021年1月〜8月の間に、18歳以上の全成人において、未調整・年齢特異的な月別人口入院率(単位: /100,000人)を、

[COVID-19入院患者総数]÷[各年齢集団内の推定人口(or人口推計)]

という公式で求めた。また2021年1月~8月の期間において、年齢や, 入院した施設 別に階層化した入院成人患者の代表的サンプル臨床的転帰に関するデータを収集した。妊婦は除外された。重症転帰は、ICU入室, 人工呼吸器使用, 入院中の死亡で評価した。そしてデルタ株流行前の期間とデルタ株流行中の期間で、重症転帰を比較した。コロナワクチンが臨床的転帰に影響を与える可能性があり, またワクチン接種率が研究対象期間中に変化したことから、これらの結果は参加者全体にて, 並びに ワクチン接種状況により階層化して解析した。

 2021年1/1~8/31の期間中の全成人におけるCOVID-19による入院87,879件のデータによると、デルタ株流行の時期にはCOVID-19関連入院の月別人口入院率は全年齢集団で減少した(Figure 1)。その後7~8月において月別人口入院率は増加し, 65歳以上の月別人口入院率は最高・18~49歳では最低であった。月別のICU入室率・人工呼吸器使用率・院内死亡率も同様のパターンを示した(65歳以上で最高・18~49歳で最低)

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Figure 1: デルタ株流行期における18歳以上成人の月別のCOVID-19関連入院率(単位: /100,000人)

 2021年1月~8月の期間における代表的サンプルであるCOVID-19入院7,615件内では、デルタ株流行期に入院した患者の71.8%がワクチン接種だった。ワクチン接種COVID-19入院患者において、18~49歳が占める平均月別割合は、

  • デルタ株流行:  26.9%
  • デルタ株流行期:  43.6%

と有意に増加していたワクチン完全接種済COVID-19入院患者において、この若年層の割合は

  • デルタ株流行:  10.6%
  • デルタ株流行期:  10.8%

であり、有意差はなかったCOVID-19入院患者サンプル内では、性別, 人種またはICU入室率・人工呼吸器使用率・入院中死亡率は、全体で推計, 及び 年齢やワクチン接種状況で階層化して推計した場合であっても、デルタ株流行デルタ株流行期の間で統計学的な有意差は見られなかった

 2021年1〜8月の期間では、デルタ株流行期中、50歳以上のCOVID-19入院患者においてICU入室者の割合, または 入院中に死亡した人の割合の上昇傾向が見られ(Figure 2), 65歳以上において入院中死亡者数の増加が最大であったものの、統計学的有意差は認められなかった。2021年1~8月の期間で、COVID-19入院患者内の月別の人工呼吸器使用の割合も有意差が見られなかった

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Figure 2: デルタ株流行期中の成人COVID-19入院患者内のICU入室者・院内死亡者の割合

 

 デルタ株流行開始後、COVID-19関連入院率は増加した。しかしこの期間において、18歳以上のCOVID-19入院患者におけるICU入室率, 人工呼吸器使用率, ないし 入院中死亡率に有意な変化は認めなかった。コロナワクチン接種入院患者, もしくは 完全接種済の入院患者において、デルタ株流行デルタ株流行期の間で重症度に有意差は見られなかった。しかし、デルタ株流行期において、18~49歳成人はデルタ株流行前よりも入院患者に占める割合が多かった。この年齢層にワクチン未接種入院患者が多かったことが原因である。

 2020年3~12月に同様の転帰を検証した研究では、ICU入室率, 人工呼吸器使用率, 入院中死亡率が成人入院率と同様の傾向となったことが示された。これらの知見は、過去の小児・思春期青少年に対する解析(デルタ株流行前と流行期の間で、重症転帰に有意差無しと示された)と類似している。デルタ株の感染率が増えるにつれて、他の研究もCOVID-19による入院のリスクが増加することを示し, カナダの大規模研究では、デルタ株に感染した集団においてICU入室と死亡のリスクが増加することが示された。しかし、これらの研究は既に入院した患者へ限定したものではなかった。50歳以上の成人における入院増加傾向(と, それによるICU入室または院内死亡率増加傾向)は統計学的有意でなかったものの、これらの転帰の傾向は継続的に検証されるであろう。

 コロナワクチン未接種入院患者内では、デルタ株流行期にて18~49歳成人の割合は増加し, それに反して65歳以上の割合は減少したが、全研究対象期間において、完全接種済入院患者における年齢分布はずっと安定していた。2021年8/31時点で、コロナワクチン完全接種済の人の割合は、18~64歳(58.6%)よりも65歳以上(81.7%)で遥かに高率だった。年齢集団間で異なるワクチン接種率が、デルタ株流行期における入院患者の年齢分布の割合の偏りに寄与した可能性がある。

院外心停止後の体温管理 − 31℃ vs 34℃の臨床試験 −

 こんばんは。現役救急医です。今日は私が大いに興味を惹かれた臨床試験の知見を紹介してみます。今回の参考文献は。カナダで行われた、院外心停止症例への体温維持療法の目標温度に関する臨床試験の結果をまとめた論文(JAMA. 2021;326(15):1494-1503)です。

(1) Introduction

 過去の院外心停止の昏睡生存患者に対する低体温療法の臨床試験2件は、臨床的転帰の改善を証明した(目標体温33℃と, 通常体温維持を比較した臨床試験と、目標体温32℃と34℃を比較した臨床試験)。これら臨床試験は、電気ショック適応となる心リズムの症例へ参加登録を限定していた。他にも、電気ショック適応外心リズム症例における臨床試験では、目標体温33℃と通常体温維持を比較し, 前者にて神経学的転帰が改善していることを示した。

 それに対し、33℃と36℃で比較した臨床試験では、33℃が死亡率or神経学的予後不良の割合を減少させなかったことが示された。これらの知見より、現行のガイドラインでは、心停止後の目標体温を32~36℃とするよう推奨している。

 動物実験やヒトの観察研究, 小規模臨床試験では、目標体温28~32℃が神経系保護作用を有し, 臨床的転帰を改善する可能性があることが示唆されている。しかし今日まで、32℃未満の目標体温を評価するランダム化臨床試験が行われたことはない。CAPITAL CHILL(The Moderate vs Mild Therapeutic Hypothermia in Comatose Survivors of Out-of-Hopital Cardiac Arrest) trialでは、目標体温31℃と34℃を比較し, 31℃が院外心停止昏睡生存患者の臨床的転帰を改善するかどうかを検証した。

 

(2) Method

① Trial design

 CAPITAL CHILLは単施設・二重盲検化・ランダム化臨床試験である。カナダのオンタリオ東部において、オタワ大学の関連施設へ搬送された院外心停止患者が救急外来で評価を受け, 心停止の原因が心原性の可能性があると考えられた場合は、同大学附属病院(Heart Institute)へ直ちに転院搬送された。

 参加登録基準を満たした患者は、冷却用カテーテルを血管内へ挿入した直後に目標体温31℃群と43℃群へ1:1へランダムに割り振られた。

 

② PICO

 1. Patients

 心停止後で, 来院時に昏睡状態(GCS≦8点)の18歳以上の患者を, 心停止時初期心リズムに関係なく参加登録した。以下に該当する患者は除外された。

  • 日常生活に支障があった
  • 頭蓋内出血による心停止
  • 大出血を伴う凝固障害
  • 心停止と関係ない原因により、平均余命が1年未満

 2. Intervention:  目標体温=31℃(以下、[目標体温]中等度群とする)

 3. Comparison:  目標体温=34℃(以下、[目標体温]軽度群とする)

 4. Outcome(転帰評価):  以下のprimary outcome, secondary outcome, 非特異的神経学的outcome, 重症有害事象により評価した。

1) Primary outcome:  ランダム化後180日における全死因による死亡 or 神経学的転帰不良の複合

 神経学的転帰はDRS(Disability Rating Scale)で評価した(最大値28, 障害なし=0点)。神経学的転帰不良は5点≦と定義した。加えて、Modified Rankin Scale(0=無症状, 6=死亡)によっても評価し, 4~6点を神経学的転帰不良と定義した。

2) Secondary outcome:  以下の項目を含む。

  • 入院期間中, 30日後, 180日後の死亡
  • 入院期間中, 180日後の脳卒中
  • ステント血栓
  • 痙攣
  • 代替療法
  • 肺炎
  • 心原性ショック
  • 不整脈薬治療(β遮断薬以外)
  • ランダム化後の心停止再燃
  • 大出血
  • 生存自宅退院の比率
  • 3日後, 3ヶ月後の左心室駆出率
  • 集中治療室滞在期間
  • 入院期間

3) 神経学的非特異的outcome

4) 重症有害事象:  以下の項目で評価した。

 

③ 体温管理の方法

 自己心拍再開後直ちに、アイスパックによる体温管理を開始した。附属病院搬送時より冷却用カテーテルによる冷却が開始された。このシステムは、体外機器からカテーテル付属バルーンに生理食塩水を循環させるポンプで構成され, 生理食塩水の温度は患者の鼻咽頭内に留置したチューブで体温を感知して, 或いは 膀胱カテーテルの温度センサーで体温を感知することで行った全患者に未分画ヘパリン静注療法を行った(抗凝固療法)附属病院へ到着時に全患者へすぐに冠動脈血管造影検査が行われ, その時に冷却用カテーテルを留置した。

 目標体温維持は24時間とし, その後37 ℃になるまで0.25℃/hrの速度で復温を行った。その後、復温にかけた時間と, 正常体温を維持している時間が合計48時間に達するまで37℃を維持した。

 体温療法により重症有害事象を来していると考えられた時、主治医により復温速度は3℃/hrにすることも可能だった。それでも重症有害事象が続いていると思われる場合、3℃/hrの速度に加えて, 37℃に達すればそのまま体温を維持することも可能であった。

 生命維持療法撤退の判断は、複数回の神経学的診察, 脳波検査,頭部CT・MRI等に基づいて行った。決定は集中治療担当医, 神経内科医, 緩和治療専門医らが患者家族と相談しながら、他職種チームで行った。

 

(3) Result

① 患者について

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Figure 1

 2013年8月〜2020年3月までに504名が参加登録基準に合致した(Figure 1)。このうち115名が除外基準に該当して除外された。389名の患者から、代理人による同意撤回や, 臨床的な理由から体温療法を行われなかった患者が抜けた結果、primary analysisに残ったのは31℃群で184名, 34℃群で183名だった。

 2群間で患者のbaselineの特徴は類似していた。

  • 平均年齢:  31℃群: 61.0歳, 34℃群: 61.7歳
  • 男性:  31℃群: 82.6%, 34℃群: 79.8%
  • 心停止の原因は心原性:  31℃群: 96.7%, 34℃群: 94.6%
  • 冠動脈造影を直ちに実施:  31℃群: 97.3%, 34℃群: 96.7%
  • 経皮的冠動脈治療を実施:  31℃群: 56.3%, 34℃群: 58.7%

② Primary Outcome

 180日後のフォローアップ情報は、367名中366名で入手可能だった。Primary outcomeの発生数・割合等は、

  • 31℃群:  89/184名(48.4%)
  • 34℃群:  83/183名(45.4%)
  • リスク差:  3.0% (95%CI -7.2~13.2)
  • 相対的リスク:  1.07 (95%CI 0.86~1.33)
  • P=0.56

であり, primary outcomeに有意差は見られなかった

③ Secondary Outcome

180日後の死亡率は、

  • 31℃群:  43.5%
  • 34℃群:  41.0%
  • リスク差:  2.5% (95%CI -7.6~12.6)
  • 相対的リスク:  1.06 (95%CI 0.83~1.35)
  • P=0.63

だった。全患者に関する180日後の生存可能性Kaplan-Meier曲線をFigure 3に示す(Hazard Ratio[HR]: 1.09 [95%CI 0.80~1.50]; P=0.58); ショック適応リズム患者に関する曲線(HR: 1.20 [95%CI 0.82~1.73]; P=0.34)と, ショック非適応リズム患者に関する曲線(HR: 0.78 [95%CI 0.34~1.43]; P=0.40)もFigure 3も示す。

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Figure 3

 集中治療室滞在期間中央値は、

  • 31℃群:  10日
  • 34℃群:  7日
  • P=0.40

であり31℃群で長期化していたそれ以外に関しては、secondary outcomeについて2群間で有意差は無かった

④ 非特異的outcome

 180日目で生存していた患者において、DRSスコア>5点(神経学的転帰不良)は

  • 31℃群:  8.7%
  • 34℃群:  7.4%
  • リスク差:  1.3% (95%CI -6.1~8.6)
  • 相対的リスク:  1.17 (95%CI 0.47~2.91)
  • P=0.74

であり、180日後のModified Rankin Scale4~6点(神経学的転帰不良)は

  • 31℃群:  45.9%
  • 34℃群:  43.7%
  • リスク差:  2.2% (95%CI -8.0~12.4)
  • 相対的リスク:  1.05 (95%CI 0.84~1.32)
  • P=0.76

だった。

⑤ 有害事象

 深部静脈血栓症は、

  • 31℃群:  21/184名(11.4%)
  • 34℃群:  20/183名(10.9%)
  • リスク差:  0.5% (95%CI -6.0~6.9)
  • 相対的リスク:  1.04 (95%CI 0.59~1.86)
  • P=0.88

だった。また下大静脈内血栓は、

  • 31℃群:  7/184名(3.8%)
  • 34℃群:  14/183名(7.7%)
  • リスク差:  -3.9% (95%CI -8.6~0.9)
  • 相対的リスク:  0.50 (95%CI 0.21~1.20)
  • P=0.11

であった。

 

(4) Discussion

 31℃を目標とする体温療法は、34℃を目標とするものと比較して、180日後のあらゆる原因による死亡の割合, もしくは 神経学的転帰不良の割合に有意差を示さなかった年齢, 初期の心リズム, ST上昇心筋梗塞, 冠動脈カテーテル及び経皮的冠動脈治療のタイミングによって分類したsubgroup別の解析でも同様の結果だった)。31℃群で集中治療室滞在期間が長いことを除けば、secondary outcomeの比率は両群で類似していた。

 今回の知見は、院外心停止昏睡生存患者の神経学的転帰改善に関して、目標体温を34℃にする体温療法を支持しないものである。それに加えて、34℃群と比較して、31℃群では集中治療室滞在期間が長く, コスト上昇につながると思われた。

 この研究は、目標体温を32℃とする体温療法の効果を評価した初のランダム化臨床試験である。全患者へ使用した血管内冷却デバイスは急速な冷却, 厳格な体温維持, 復温制御を可能とするものであった。今回の知見は、過去の同様の臨床試験の結果とともに解釈すべきである。

 考慮すべき点として、全心停止後患者にて、適正な目標体温は単一でない可能性があることが挙げられる。多くの専門家は心停止後の体温管理を、患者や原因となったイベントの特徴・リスクファクター・生物学的マーカー・早期治療への反応によって調整される, 各個人に特化したアプローチへ移行するよう推奨している。

 目標低温療法は、院外心停止昏睡生存患者の転帰を改善すると考えられる、初の神経保護的治療法である。至適目標体温に関する不確定性により20年間研究が行われ, 心停止後治療の改善に繋がったのである。

安定しているCOVID-19外来患者への抗血栓療法の臨床試験

 こんばんは。現役救急医です。今日は、COVID-19患者への投薬に関する論文の紹介なので、純粋に?医療関係者向けの内容だと思います。今回参照したのは、今年10/11にJAMAへ掲載された論文(DOI: 10.1001/jama.2021.17272)です。

 

(1) Introduction

 今日まで、COVID-19入院患者への抗凝固療法・抗血小板療法の有用性を評価するランダム化臨床試験が複数行われている。しかしながら、安定しているCOVID-19外来患者へ抗血栓薬を処方するかどうかについては議論が別れている。

 米国心臓・肺・血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute; NHLBI) ランダム化臨床試験ACTIVプラットフォームの一部であるACTIV-4B COVID-19 Outpatient Thrombosis Prevention Trialは、有症状・診断時は入院が不要なCOVID-19患者には抗血小板薬或いは抗凝固薬が有効かどうかを検証するものである。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究は適応型(adaptive)・ランダム化・二重盲検化・プラセボcontrol試験である。この試験に参加した米国の52施設でprotcolと統計学的解析方法が承認された。

 全参加施設で臨床試験の設定を統一する為に、ランダム化された参加者への連絡は"REDCap"(ビデオチャット?)へのリンクで毎週行うか, もしくは イリノイ大学(シカゴ)の研究連絡センターのコールセンター職員とシカゴ・ピッツバーグの研究薬剤師が電話することで行った。参加者自宅への薬剤配達や, 患者の転帰の判定, 24時間対応の緊急対応・非盲検化作業はボストンのBrigham and Women's Hospitalの研究者が行った。

 この臨床試験は、参加者の隔離を可能とし, 臨床試験のスタッフの曝露を最小限にする為に、対面接触を最小限にするよう設計された参加者のクレアチニンリアランスが30 mL/min/1.73m2<, 血小板数が100,000/mm2<の場合のみ薬剤投与開始と継続が許可された。

 参加者は1:1:1:1の比で、

のいずれかにランダム化され, 45日間薬剤を投与された。その後には、30日間の安全性評価フォローアップ期間も設けられた(Figure 1)

f:id:VoiceofER:20211019121221p:plain

Figure 1

 薬剤を自宅に配送した後の24~72時間以内に、薬剤受け取り・薬剤内服開始日を確認する為に、参加者へ電話, eメール, REDCapによる連絡が行われた。また、同じ通信手段にて、参加者には45日間の治療期間中, 及び その後の30日間の安全性フォローアップ期間中に毎週連絡が行われた。参加者が何らかのイベントを報告すると、研究薬剤師が電話で連絡を行ってイベントの内容・重症度・治療を行っている医師の連絡先(医療的介入が行われた場合)を確認した。Primary outcomeの一部と思われる, もしくは 安全性に関する懸念を生じさせるイベントは全例に関して、医療記録を収集した。

② 参加者について

 新規の症候性SARS-CoV-2感染症と診断され, 歩行可能な40~80歳の患者が参加登録可能であった(血小板数やクレアチニンリアランスも、上記の値を満たす必要あり)。他方、以下の項目いずれかに該当する患者は除外された。

  • COVID-19による入院歴あり
  • 急性白血病に罹患
  • 直近での大出血既往あり
  • 抗凝固療法禁忌ないし他の抗凝固療法の適応である
  • 抗血小板薬単剤または2剤併用が必要
  • 妊娠中または授乳中

③ Study End Point (Outcome)

 参加者の転帰は、次の2項目で評価した。

1) Primary outcome: 治療開始後45日間における、以下の項目の複合。

2) Principal safety outcome

  • 国際血栓症・止血学会(International Society on Thrombosis and Hemostasis; ISTH)の基準で定義される大出血
  • ISTHの基準で定義される、臨床的に関連性のある重症でない出血(clinically relevant nonmajor bleeding; CRNMB)
  • 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation; DIC)

これらsafety end pointへの解析は45日間の治療期間, 及び その後30日間の安全性フォローアップ期間の間に行われた

③ サンプルサイズ推計

 パンデミック早期の報告で、直近でCOVID-19に感染し症候性だったが, 緊急入院が不要だった人では、血栓塞栓症イベント発症率・循環呼吸器的原因による入院率が4~8%であることが示唆された。この数値をもとに、7,000名のサンプルサイズは、primary outcomeの各治療薬・プラセボ群における相対的riskの33~50%の減少を検出する為に80~90%のpowerを持つであろうことが推計された。

 

(3) Results

① 参加者について

 2020年9/1〜2021年6/17の間にscreeningを受けて同意した775名のうち、657名が参加登録可能基準に合致し, ランダム化された(Fig. 1)2021年6/18に、NHLBIは独立データ・安全性監視委員会から、臨床試験の早期中止を勧告された(イベント発生率が予想より低かったため)。この為、他の治療薬への評価は行われなかった。臨床試験中断時点で、657名中558名が治療を開始していた。診断からランダム化までの期間の中央値は7日, ランダム化から治療開始までの期間の中央値は3日だった。最終フォローアップが行われたのは2021年8/5だった。

 ランダム化された参加者の特徴は以下の通りだった。

  • 年齢中央値:  54歳
  • 女性:  59.1%
  • 人種:  黒人: 12.7%, ヒスパニック: 28.1%
  • 基礎疾患・生活背景:  BMI中央値: 30.1, 糖尿病: 18.3%, 喫煙歴あり: 19.9%, 高血圧: 35.3%

Primary Outcome

 ランダム化〜治療開始までの期間において、22名(3.3%)が急激に悪化し, 治療開始前に肺炎症状悪化が原因で入院した。このうち2名が45日間の観察期間(=本来ならば、治療薬投与期間)に死亡し, 他に1名が非致死性の深部静脈血栓症を発症した。また45日間の観察期間の後の30日間(=本来ならば、安全性フォローアップ期間)に1名が呼吸不全で死亡した。

 治療を開始された558名のうち、556名(99.6%)が治療開始後45日間, または 臨床試験中断までのフォローアップを完了させており, 544名(97.5%)が45日目までのフォローを受けていた。Primary end pointは5名で発生し, 治療期間中の死亡例は無かった (Table 2)

f:id:VoiceofER:20211019121253p:plain

Table 2

 全体で3件のprimary trial eventが認められた。Primary end pointの複合に関して、

  • アスピリン群:  risk: 0.0% (95%CI 0.0~2.6%), プラセボ群と比較したrisk差: 0.0% (95%CIは算出不可)
  • 予防投与量のアピキサバン群:  risk: 0.7% (95%CI 0.1~4.1%), プラセボ群と比較したrisk差: 0.7% (95%CI -2.1~4.1%)
  • 治療用量のアピキサバン群:  risk: 1.4% (95%CI 0.4~5.0%), プラセボ群と比較したrisk差: 1.4% (95%CI -1.5~5.0%)
  • プラセボ群:  risk: 0.0% (95%CI 0.0~2.8%)

という結果であった (Table 2)

 45日目におけるprimary end pointの複合の累積発症率推計は、

  • アスピリン群:  0.0% (95%CIは算出不可)
  • 予防投与用量のアピキサバン群:  0.7% (95%CI 0.0~2.2%)
  • 治療用量のアピキサバン群:  1.4% (95%CI 0.0~3.3%)
  • プラセボ群:  0.0%

であり、治療内容によって有意差は無かった(log-rank P=.31) (Figure 2A)

f:id:VoiceofER:20211019121322p:plain

Figure 2 A, B

 治療開始の有無に関係なくランダム化された全参加者を含めた解析にて、primary end pointのプラセボ群と比較したrisk差は、

  • アスピリン群:  1.2% (95%CI -6.1~3.5%)
  • 予防用量アピキサバン群:  -1.9% (95%CI -6.6~2.7%)
  • 治療用量アピキサバン群:  -1.8% (95%CI -6.6~2.7%)

だった。Primary outcomeの累積発生率は、治療群間で有意差が見られなかった(Figure 3A)

f:id:VoiceofER:20211019121351p:plain

Figure 3 A, B

③ Secondary Outcome

 Table 2に、治療を開始された参加者におけるprimary endo pointの個別の構成要素のデータを示す。先行する入院を伴う死亡例の報告は無かった。

④ Post Hoc解析

 あらゆる急性発症イベントを評価する為に、45日間のフォローアップ期間において、医療が関与した事例全てを含めることを企図した追加の解析が行われた。治療を開始された参加者においてプラセボと比較したrisk差は、

  • アスピリン群:  -1.0% (95%CI -6.6~4.3%)
  • 予防用量アピキサバン群:  0.8% (95%CI -5.1~6.7%)
  • 治療用量アピキサバン群:  4.0% (95%CI -2.4~10.4%)

だった。累積発症率に関して、治療内容別の有意差は認められなかった(log-rank P=.31) (Figure 2B)ランダム化を受けた参加者全員に関する結果も同様であった(Figure 3B)

⑤ 有害事象

 大出血イベントの報告は無かった治療を開始された参加者において、プラセボと比較したCRNMBの絶対的過剰は、

  • アスピリン群:  2名
  • 予防用量アピキサバン群:  4名
  • 治療用量アピキサバン群:  2名

だった(Table 2)。アピキサバンへランダム化され, 臨床試験中止前に1回以上内服した患者におけるCRNMBの合計発症率は2.2%(278名中6名)だった。臨床試験の治療薬を開始された参加者において、全出血イベントは

  • アスピリン群:  6名
  • 予防用量アピキサバン群:  9名
  • 治療用量アピキサバン群:  13名
  • プラセボ群:  3名

で発生し, プラセボ群と比較したrisk差は

  • アスピリン群:  2.0% (95%CI -2.7~6.8%)
  • 予防用量アピキサバン群:  4.5% (95%CI -0.7~10.2%)
  • 治療用量アピキサバン群:  6.9% (95%CI 1.4~12.9%)

であり, アピキサバンを投与された人全員(278名)で、全出血イベントは22名(7.9%)で発生した。

 ランダム化された全参加者において、プラセボと比較したCRNMBの絶対的過剰は、

  • アスピリン群:  4名
  • 予防用量アピキサバン群:  6名
  • 治療用量アピキサバン群:  4名

だった。

 DICの報告は無かった

 

(4) Discussion

 アスピリンまたはアピキサバンへのランダムな割り付けは、プラセボと比較すると、循環呼吸器系イベントによる入院の発生率を減少させなかったしかしながら、予想よりイベント発生率が低かったので、この臨床試験は中止されている。

 時間経過とともに起こった人口統計学上の2つの変化が、この臨床試験における予想を下回るイベント発生率に繋がった可能性がある。1つ目は、入院適応となる患者がもはや人工呼吸器を必要とする患者だだけに限定されないといった形で、入院適応の閾値パンデミック開始以降著しく低下したことである。2つ目は、パンデミック初期と異なり、最近SARS-CoV-2に感染する人は若年で, 併存疾患が少ない傾向がある。それに加えて、パンデミック早期にはCOVID-19検査が極めて限定されており、予想されたイベント発生率が過大に計算されていた可能性もある。

 今日に至るまで、COVID-19外来患者に使用可能な抗血栓療法を検証するランダム化試験のデータは存在しない。今回の臨床試験における低いイベント発生率によって、COVID-19外来患者に緊密な注意が必要ではないと解釈してはならない上記のように、ランダム化後に悪化して入院した参加者は3.3%であった。これらの入院した参加者は臨床試験の治療を開始されていなかったので、こうした知見は、予防的な抗血栓療法の早期開始がこれらの患者に効果的であったかどうかを明確には示さない。