Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

また感染者数が増えていますが

 こんばんは。現役救急医です。ワクチン接種拡大により落ち着いていたSARS-CoV-2感染者数が、最近また増え始めています。東京では300名以上で感染が確認され、沖縄に至っては早くも第6波が来たとすら言われています。

【速報】東京都で新たに390人感染 前日(151人)から倍以上、先週水曜日(76人)から約5倍増(TBS系(JNN)) - Yahoo!ニュース

年明け5日で1000人超え 沖縄新たに623人感染(沖縄テレビOTV) - Yahoo!ニュース

以前このブログで触れた通り、mRNAワクチン(やベクターワクチン)の2回目接種から6ヶ月以上経過すると、SARS-CoV-2感染に対する有効性が低下するということが分かっています(重症化に対する有効性は高く保たれるのですが)。それを踏まえて、3回目(或いはブースター)接種が先進国を中心に開始されており、イスラエルからのデータではSARS-CoV-2感染及び重症化へかなりの予防効果があることが示唆されています。

 また感染拡大を起こしているのは、ニュースを見る限り日本だけではなく、英国・フランス等欧米諸国も同様とのこと。さて、その状況下で日本では3回目接種はどこまで進んでいるのでしょうか?Yahooの特設ページに具体的な接種率が出ていましたので共有します。

news.yahoo.co.jp

曰く、1/3時点で2回目接種率は78.5%(9,942万人以上)ですが、3回目はなんとたったの0.5%(63万6,242人)ですまだ医療従事者をカバーしている真っ最中で、もしかしたら一部地域でようやく高齢者ら重症化リスクが特に高い集団への接種が始まったばかりなのかもしれません(かく言う私も、昨年末に3回目を接種しました)。

 この状況を嘆いているのは医療従事者だけでなく、(一部の)政治家も同様のようです。

東京五輪を控え, デルタ株の猛威に悩まされた2021年夏季と打って変わって、岸田政権はオミクロン株発見の報から間髪入れず(?)入国制限を発動しました。こうした『水際対策』はあくまで時間稼ぎであり、本来であれば、病原体が人口内へ相当数蔓延するまでの間に医療従事者の養成/訓練や病床確保, 法体系等の整備, ワクチン接種拡大, 軽症患者の重症化を阻止する薬剤の確保といった準備をしておくものです。しかし、現実が理想と乖離していることは、3回目接種の数字を見るだけでも明らかでしょう。

 そんな中で、昨年にワクチン担当大臣を務め, 自衛隊を動員し, 大規模接種会場を複数設営し, 1回目と2回目のコロナワクチン接種を進めた河野太郎氏の手腕を賞賛し、彼の復帰を望む意見も医療従事者の間で見られるようになりました(あくまでTwitterでの風潮ですが)。しかし、彼とて聖人君子ではないようです。昨年9月には、官僚に対し声を荒げて暴言を吐く等のパワハラがあったことが暴露されています。

news.yahoo.co.jp

(それなりの才覚はあるが)自らの信じる『正義』や『理想』の為に鼻息荒く突き進むタイプの参謀(?)が居ないと物事が前に進まない日本の行政/政治機構って、あまりにも不合理ではありませんか(政治に限った話ではありませんけど)。

 

 昨年末に読んだ本辻政信 失踪60年 − 伝説の作戦参謀の謎を追う』という書籍には、こんなエピソードが収載されています。日本陸軍参謀本部作戦課の兵站班長だった辻政信は、1941年7〜8月頃から南方作戦の計画立案に関与します。その過程で彼は、まずマレー半島を制圧し, 続いてシンガポールを早期に占領することが必要と主張しました(いずれも当時は英国の植民地だった)。

 またマレー半島への上陸に関しては、辻自身が偵察機に乗って上空から把握した情報も踏まえて、タイ領であるソンクラー(シンゴラとも)・パタニ(パッターニーとも)の2箇所に加えて, 当時英領だったコタバル(現在はマレーシア)への同時の奇襲上陸が必要だと彼は主張します(通常ならば制空権を奪取してから上陸する)。海軍は当初、コタバル付近に英軍の飛行場があることも考慮して、コタバルへの上陸に反対していましたが、最終的に折れて陸軍の案に同意しました。しかも、自軍の艦艇や地上部隊を空から掩護する為の飛行場を確保する為に、陸軍航空参謀が東京に出張している間に, 当時フランス領だったフーコック島(タイランド湾にある島)に, フランス側の了承も得ずに飛行場を建設したというのです。

※皆さんに分かり易いように、これらの場所をGoogle Map上へプロットしておきました(2022年1月6日追記)

 最終的に日本軍は1941年12月未明にソンクラー・パタニ・コタバルへ同時に上陸し, マレー半島を南下。英軍が難所と見做していたジットラ・ラインを十数時間で突破し、翌年1/11にクアラルンプールを占領し, 同年2/14にはシンガポール陥落を達成しました。

 上記経緯から辻政信を有能と考える人も居たようですが、上記書籍にも記載があるように、彼はノモンハン事件で『盛大にやらかした』という前科持ちですし, シンガポール陥落後の華僑粛清事件の際には、憲兵らを怒鳴りつけて殺害人数を増やすように迫った経緯もあります。河野太郎氏だって、確かにワクチン担当大臣としては有能だったかもしれませんが、その影では既述のように、パワハラの証拠が世に出てしまっている訳です。「悪い意味で一癖も二癖もある人物が、一見強硬なリーダーシップを発揮しないと物事が前に進まない」というデジャブを、令和になっても我々は見せられているようです。このような不条理を正すには、各職場内の人事評価や教育等はまだしも, 義務教育・高等教育課程での生徒への指導内容等も見直す必要があるのではないでしょうか。残念ながら、是正には時間がかかりそうです。

2021年、私のYouTubeチャンネルの総括

 こんばんは。現役救急医です。早いもので2021年もあと2日足らずです。今年もCOVID-19パンデミックに振り回され、その傍では呑気に五輪などやり、ようやくワクチン接種が拡大し落ち着いたと思った矢先に、新規の懸念すべき変異株オミクロンの出現です。ここまでCOVID-19に出しゃばられると、総理大臣の交代や, その他の事件も霞んで見えてしまうのは私の不見識なのでしょうか?

 そんな1年間でしたが、私個人としては救急専門医試験合格以外にこれといった目新しい, おめでたいニュースはありませんでした。ですがそんな中でも、自分の1年間を曲がりなりにも振り返りたいと思い、2021年初頭〜現在に至るまでの私のYouTubeチャンネルの総括をやろうと思い立ったのです。

youtu.be

全部動画で言及してしまっていますが、ブログにも載せておきます。ここ1年間の私のYouTubeチャンネルの傾向として、

  • 「医学部あるある」ネタ動画(昨年作成した動画)が依然人気
  • F岡氏の順天堂大学医学部裏口入学疑惑に関する動画を上げたら、その視聴回数が伸びまくった
  • だがTOKYO MERに関する動画はそれよりも伸びている
  • 今年はチャンネル登録者が132名増加し、12/30現在148名になっている
  • 視聴者層は25~34歳の年齢層のみに限定されており、性別は男: 75.4%, 女性: 24.6%と男性に大きく偏っている

といったものが見られました。つまり、①(収益化が可能となる)チャンネル登録者数3,000名にはまだ遠く, ②女性視聴者の人気獲得が必要であり, また③25歳未満の若年層と、35歳以上の年齢層へ到達せねばならない, といった課題が浮かび上がったのです。

 

 このブログも、これまで多くの皆様に読んで頂いた上に, 何個もスター(いいね)を頂いています。本当にありがとうございました。来年が皆様にとって良い年となりますよう、切に願っております。これからも何卒よろしくお願い申し上げます。

モルヌピラビルの臨床試験

 こんばんは。現役救急医です。去る12/24に、日本でもCOVID-19の新規内服薬『モルヌピラビル』(ラゲブリオ®︎)が承認されました。

「モルヌピラビル」 新型コロナの飲み薬として正式に承認 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

飲み薬「モルヌピラビル」を国内初投与…全国5000か所以上で使用登録 : 医療・健康 : ニュース : 読売新聞オンライン

今年12/16にNew England Journal of Medicineに、同薬剤の臨床試験の結果が掲載されていたようなので、今回はそれを紹介してみます(DOI: 10.1056/NEJMoa2116044)。重要そうな部分だけ抜粋し, 翻訳も自己流の意訳があったりしますがご了承下さい。

 

(1) Introduction

 数種類のコロナワクチンは、入院・死亡の発生率を減少させる効果が高いことが既に判明しているものの、ワクチン接種率は依然低いままである。COVID-19病勢進行のリスクを減らす抗ウイルス療法が必要である。

 モルヌピラビルは、N-hydroxycytidine(NHC)の小分子ribonucleosideプロドラッグである。

①同薬剤を経口投与後、NHCは全身へ循環し, 細胞内でリン酸化されてNHC三リン酸となる。

②NHC三リン酸はウイルスのRNAポリメラーゼによりウイルスのRNAに組み込まれると、

③ウイルスの自己複製の過程で、ウイルスのポリメラーゼはguanosineないしadenosineのいずれかを誤って組み込んでしまう。

④これによりウイルスのゲノムにエラーが蓄積され、最終的にウイルスは感染性を失い, 自己複製不能となる。

モルヌピラビルはSARS-CoV-2とその他RNAウイルスに対して活性を有し, ウイルスの耐性獲得が生じにくい。

 モルヌピラビルは第1相, 第2相臨床試験で評価された。第2相試験の解析結果より、800mgの用量が更なる検証を受けることになった。

 

(2) Method

① Trial Design

 MOVe-OUtとは、入院していないCOVID-19へのモルヌピラビルの安全性と有効性を評価する第2・3相, 二重盲検化, parallel-group, ランダム化プラセボコントロール臨床試験であり、第3相試験は2021年5/6に開始された。

 事前に計画された中間解析(目標とする「1,550名の参加者中50%が29日目[=2021年9/10]までフォローされた」時点で実施)の結果、独立データ監視委員会は、参加者の採用の早期中止を勧告した。最後の参加者の登録は2021年10/2に行われ, 29日目の訪問は同年11/4に完了した。

 参加者はモルヌピラビル投与群, ないし プラセボへ1:1の比で割り振られ、これら薬剤は1日2回5日間経口投与された。

 解熱鎮痛薬, 抗炎症薬, ステロイド または これらの組み合わせによる標準的治療を容認されたが、モノクローナル抗体・レムデシビルを含むCOVID-19の特異的治療は29日目まで禁止された。

 

② PICO

 1. Participants

 軽症ないし中等症のCOVID-19で, 入院していない成人が参加登録可能とされた。ランダム化時の主要な参加登録可能基準は、

  • 5日以内に検査で確認されたSARS-CoV-2感染症
  • 5日以内に発症した症状
  • COVID-19の症候が少なくとも1個ある
  • COVID-19重症化リスク因子が少なくとも1個ある

であった。

※ここで言うCOVID-19重症化リスク因子とは、以下の通り。

主要除外基準は、

  • 次の48時間以内でCOVID-19による入院が予想される
  • 透析使用中 または 糸球体濾過量<30mL/分/1.73m2
  • 妊娠中
  • 薬剤投与期間中と, 投与終了後4日間に避妊をする意図が無い
  • 絶対的好中球数<500/mL
  • 血小板数<100,000/μL
  • コロナワクチン接種済み

であった。

 

 2. Intervention介入群):  モルヌピラビル200 mgカプセル4個(合計800mg)を1日2回5日間経口投与

 3. Comparison対照群):  プラセボを1日2回5日間経口投与。

 

 4. Outcome

1) Primary efficacy end point

 Modified intention-to-treat population(少なくとも1回以上モルヌピラビルorプラセボを投与され, 1回目投与前に入院していない, ランダム化を受けた全参加者)における29日目までの入院発生数, もしくは 死亡。

2) Primary safery end point

 有害事象の発生数。Safety outcomeは、ランダム化を受け, 尚且つ モルヌピラビルorプラセボを少なくとも1回以上投与された参加者全員から構成されるsafety population評価された。

3) Secondary efficacy end point

 "WHO 11-point Clinical Progression Scale", 及び 患者が自己申告したCOVID-19の症候に基づいて、29日までの症状が評価された。

 

統計学的解析

 モルヌピラビルとプラセボを比較する仮説による評価は、primary end pointに合致する参加者の割合の差([モルヌピラビル群の割合] - [プラセボ群の割合])により評価した。

 事前に設定した中間解析は、1,550名の参加者の50%が29日目までフォローされた時点で行うことが計画された。この解析は、primary end pointに基づいて行われた中間解析の際には、早期の有効性を証明するのにone-sided P値<0.0092が必要だった。

 

 

(3) Result

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Fig. 1: ランダム化 及び 29日目までの参加者の流れ

 中間解析には775名が含まれた。最終的な全ランダム化解析("all-randomized analysis")サンプルには合計1,433名が含まれた(Fig. 1)。性別以外のbaselineの人口統計学的・臨床的特徴は、中間解析, 及び 全ランダム化解析において両群で概ね同等だった。女性は介入群により多くランダムに割り振られ, この不均衡は全ランダム化サンプルよりも中間解析サンプルで大きかった

  • COVID-19重症度:  44.5%が中等症
  • 最も多いCOVID-19重症化危険因子:  肥満: 73.7%, 60歳超: 17.2%, 糖尿病: 15.9%
  • BaselineでSARS-CoV-2 nucleocapsid抗体(=直近 or 昔の感染を示す):  19.8%で陽性

Baselineのウイルス配列情報が不明であった参加者は、中間解析サンプルで25.9%, 全ランダム化サンプルで44.7%だった。ランダム化を受けて, 尚且つ 配列情報が分かっている参加者において最も多いSARS-CoV-2変異株は、デルタ株: 58.1%, ミュー株: 20.5%, ガンマ株: 10.7%だった。参加者のほぼ全員がmodified intention-to-treat  populationに含まれた(Fig. 1)

 Modified intention-to-treat populationにおける29日目時点での入院or死亡した人の割合は、

  • 介入群:  7.3%(28名/385名)
  • 対照群:  14.1%(53名/377名)
  • 治療の差:  6.8 percentage point(95%信頼区間[CI; confidence interval] -11.3~-2.4; P=0.001)

であり、中間解析の時点で、事前に設定した優越性の基準を満たした全ランダム化・modified intention-to-treat populationにおける29日目までの入院or死亡のリスクは、

  • 介入群:  6.8%(48名/709名)
  • 対照群:  9.7%(68名/699名)
  • リスク差:  3.0 percentage point(95%CI -5.9~-0.1)

であり、介入群(=モルヌピラビル投与群)でリスクが低かった。性別により調整したpost hoc analysisでも、primary analysisに矛盾しない結果が出た。時間-イベント解析の結果もprimary analysisの結果に矛盾しなかった; 29日目までの入院or死亡率は、プラセボと比べてモルヌピラビルで約31%低かった(hazard ratio: 0.69; 95%CI 0.48~1.01) (Fig. 2)

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Fig. 2: Modified intention-to-treat populationにおける、入院or死亡率に関する時間-イベント解析

死亡例は、

  • 介入群:  1名(29日間の死亡率: 0.1%)
  • 対照群:  9名(29日間の死亡率:  1.3%)

であり、死亡リスクはプラセボよりもモルヌピラビルで89%(95%CI 14~99)低かった。大半のsubgroupにおいて入院or死亡した参加者の割合はプラセボよりもモルヌピラビルで低かったものの、関連する信頼区間は、こうした効果の程度に顕著な不確定性を示している(Fig. 3)29日目までの入院 or 死亡リスクの差に関する点推定がモルヌピラビルよりもプラセボを優位とするものは、

  • BaselineでSARS-CoV-2 nucleocapsid抗体陽性だった患者
  • Baselineで糖尿病ありの患者
  • Baselineのウイルス量が少量だった患者
  • アジア系, 黒人, Native Amarican, or 黒人・Native American・白人の混血の患者
  • アジア太平洋地域で参加登録した患者

だった; 特にこれらsubgroupのうちいくつかはサンプルサイズが小さいため、95%CIは全て0を含んでおり, 範囲が広いものも複数あった。

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Fig. 3: Subgroup(modified intention-to-treat population中のもの)別の入院 or 死亡の発生率

 WHO Clinical Progression Scaleを基にすると、5日目までに改善を示した参加者の割合は対照群よりも介入群で多かった

 

 有害事象が1個以上発症した参加者の割合は2群間で同等だった。

  • 介入群:  30.40%
  • 対照群:  33.0%

治療プラセボ或いはモルヌピラビル)内容に関連していると考えられた有害事象の割合も同等だった。

  • 介入群:  8.0%
  • 対照群:  8.4%

有害事象による死亡はいずれも、治療内容に関係しているとは考えられなかった有害事象による死亡は、対照群と比べて介入群で少なかった

 最も多く報告された有害事象は、

  • COVID-19肺炎介入群: 6.3%, 対照群: 9.6%
  • 下痢介入群: 2.3%, 対照群: 3.0%
  • 細菌性肺炎介入群: 2.0%, 対照群: 1.6%

であり、COVID-19悪化介入群の7.9%, 対照群の9.8%で報告された。治療内容に関連している有害事象で最も多く報告されたものは、

  • 下痢介入群: 1.7%, 対照群: 2.1%
  • 吐き気介入群: 1.4%, 対照群: 0.7%
  • めまい介入群: 1.0%, 対照群: 0.7%

だった。

 

 

(4) Discussion

 MOVe-OUTの第3相臨床試験由来のデータは、発症から5日以内に開始したモルヌピラビルが29日目までの入院 or 死亡リスクを減らすことを減らすことを示した同様の集団へのモノクローナル抗体両方を評価した臨床試験では、プラセボ群における入院or死亡の発生率は約3~7%と報告されている。それに対し、MOVe-OUT第3相試験での発生率は中間解析で14%, 全ランダム化解析で10%であり、MOVe-OUTの参加者は病勢進行のリスクが高かったことが示された29日目の入院 or 死亡率は、プラセボよりもモルヌピラビルで中間解析で6.8%, 全ランダム化解析で3.0%低く、こうした改善は改善, 医療システム, 公衆衛生にとって有意義である可能性があるモルヌピラビル療法の有効性は、デルタ株・ガンマ株・ミュー株感染者を含む多くのsubgroupで一致していたSARS-CoV-2既感染の証拠がある患者, baselineのウイルス量が少ない患者, 糖尿病患者を含む複数のsubgroupで、モルヌピラビルはプラセボよりも良好な転帰を示さなかった; 全例で推定リスク差の95%信頼区間は0を含んでいた。Secondary end pointも、モルヌピラビルの効果がプラセボを上回っていることを示した。モルヌピラビルに関する安全上の懸念は認められず, また検査で臨床的に意味のある以上のパターンの証拠も無かった

 中間解析と比べると、治療の差の点推定はランダム化された参加者全員を対象とした解析で低値だった。中間解析サンプルと比較して、全ランダム化サンプルではモルヌピラビル群の入院or死亡率は同等であるが, プラセボ群では低下していたこうした差の原因は不明だが、解析サンプル間の不均衡, COVID-19パンデミックの疫学の変化, 参加登録した参加者間の地域的多様性といった因子が寄与した可能性がある。

Novavax社製コロナワクチンの有効性と安全性について

 こんにちは。現役救急医です。今日は、2021年12/15にNew England Journalに掲載されたコロナワクチンに関する論文"Efficacy and Safety of NVX-CoV2373 in Adults in the United States and Mexico"(Dunckle L.M., Kotloff K.L. et al.; DOI: 10.1056/NEJMoa2116185)を紹介してみます。

 

(1) Introduction

 NVX-CoV2373(Novavax製)は、完全長・安定化・prefusionの組換えスパイクタンパク(Wuhan-Hu-1配列から作成)の三重体を, saponin-based adjuvant(Matrix-M)と共配合させたナノ粒子の組み合わせからなるコロナワクチンである。ワクチンは2~8℃の温度で安定している(≒保存可能である)。

 NVX-CoV2373以下"NVXワクチン")は、成人において安全かつ免疫原性があることが分かっており, また、南アフリカで行われた第2b相臨床試験ではベータ株による重症COVID-19に対して高い有効性を示し, 英国で行われた第3相臨床試験ではアルファ株によるCOVID-19に対して高い有効性を示した。PREVENT-19(Perfusion Protein Subunit Vaccine Efficacy Novavax Trial-COVID-19)とは、米国とメキシコで, 18歳以上の成人を対象にしたNVX-CoV2373の第3相臨床試験である。

 

 

(2) Method

① Trial Design

 第3相ランダム化・観察者盲検化・プラセボコントロール臨床試験を、米国113箇所とメキシコ6箇所で実施した。

 参加者は2020年12/27~2021年4/19の間に最初の注射を受け、2021年4/19までフォローされた。この期間中、米国・メキシコではSARS-CoV-2のアルファ・ベータ・ガンマ・イプシロン・イオタ変異株が優勢だった。

 参加者は参加登録前に同意書を提出し, 年齢に従って階層化され(18~64歳ないし65歳以上), NVXワクチンまたは生理食塩水(=プラセボ)接種のいずれかへ2:1の比でランダムに割り振られた

 

② PICO

1. Participant

 18歳以上で、1) 健康な成人, もしくは 2) 慢性疾患(慢性肺・腎・心疾患, 2型糖尿病 or コントロール良好なHIV感染症)の状態が安定している成人参加登録可能だった。主要な参加除外基準は、1) SARS-CoV-2感染既往あり, または 2) 既知の免疫不全あり, だった。

2. Intervention(NVXワクチン群:  NVXワクチン(組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク 5 μgとMatrix-M 50 μg)を21日間隔で2回接種

3. Comparison(プラセボ:  生理食塩水を21日間隔で2回接種

4. Outcome

  1) ワクチン有効性の評価

 Primary end pointは、初発の軽症, 中等症 or 重症COVID-19(2回目接種から少なくとも7日後に発症したもの)の予防に関するNVXワクチンの有効性を推定することだった。Primary end pointの評価は、i. ランダム化後、割り振られた通りに2回接種を受けた人, ii. baselineで抗SARS-CoV-2 nucleoprotein抗体陰性・SARS-CoV-2 RNA RT-PCR陰性だった人, 及び iii. 2回目接種7日後より前に除外されるようなeventが無かった人, が含まれるper-protcol efficacy analysis populationで行われた。

 主要なsecondary objectiveは、variant of concern(VOC: 懸念すべき変異株)・variant of interest(VOI: 注意を要する変異株)のいずれでもないSARS-CoV-2によるCOVID-19への予防効果を決定することである。

 またsecondary end pointとして、中等症・重症COVID-19に対するワクチン有効性を推定した。ここで中等症COVID-19とは、高熱と, 下気道感染症の客観的な証拠があることと定義される。重症COVID-19とは、

  • 臨床的に顕著な頻呼吸, 頻脈 or 低酸素血症があること
  • 呼吸補助を受けていること
  • 1個以上の臓器障害があること
  • ICU入室
  • 死亡

のいずれかを満たすことと定義される。

 2) ワクチン安全性の評価

 請求された("solicited")局所性, 及び 全身性の有害事象に関するデータは、1回目接種及び2回目接種後の7日間において、電子日記により収集した。任意の("unsolicited")有害事象に関するデータは、1回目接種時から2回目接種の28日後までの間に収集された。重症有害事象, 特に注意を要する有害事象, 医療を必要とした有害事象に関するデータは、1回目接種からdata cutoffまでの間に収集された。

 

統計学的解析

 ワクチン有効性の評価は、ランダム化後に少なくとも1回はワクチンないしプラセボの接種を受けた参加者全員を含むfull analysis populationと, per-protcol efficacy analysis populationで行われたFull analysis populationの観察期間は、1) 1回目接種から始まるものと, 2) 2回目接種7日後から始まるもの の2つが用いられた。Per-protcol efficacy populationの観察期間が始まるのは、2回目接種7日後からだった。

 ワクチンの有効性は「(1-RR)x100」で計算した。RRとは、プラセボ群におけるend point発生数と比較したNVXワクチン群のend point発生数に基づく、end pointのrerative risk(相対的危険度)である。Relative riskとtwo-sided 95% confidence interval(CI; 信頼区間)は、Poisson回帰という方法で求めた。Primary efficacy analysisにおける成功の基準は、1) ワクチン有効性の95%CIの下限が30%を超えること, 及び 2) ワクチン有効性の点推定が50%以上であること、と予め設定された。

 この臨床研究は、primary end pointに関する有意性を達成するのに必要と予想されるevent数に基づく有効性を評価する為に設計されており、元々primary end pointの定義に合うには144症例が必要だと推計された。しかし、臨床試験の実行可能性を維持する為, そして 緊急使用承認によって全国的にワクチンが入手可能となった状況下で、参加者を留めるために、"blinded crossover"(最初プラセボ群に割り振られた参加者がNVXワクチンを接種される, 及び その逆も然り)が実施された

 

 

(3) Result

 Screenを受けた31,588名のうち、29,949名が2020年12/27~2021年2/18の間にランダム化された(Fig. 1)Full analysis populationに含まれた29,582名NVXワクチンを少なくとも1回接種された: 19,714名, プラセボを少なくとも1回接種された: 9,868名のうち、per-protcol efficacy analysis populationに含まれたのは25,452名NVXワクチン被接種者: 17,312名, プラセボ被接種者: 8,140名だった

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Fig.1: Screeningとランダム化, フォローアップ

 Per-protcol efficacy analysis population内の参加者の人口統計学的特性は、両群間で均衡が取れていた;

  • 女性:  48.2%
  • 白人:  75.9%
  • 黒人 or アフリカ系アメリカ人:  11.0%
  • Native Amarican or アラスカ先住民:  6.2%
  • Hispanic or Latino:  21.5%

併存疾患を1個以上持っているのは、参加者の47.3%だった。

 観察期間を1回目接種後から開始とした場合、full analysis populationにおけるCOVID-19発生数は、

  • NVXワクチン群:  21.2/1,000人年(95%CI 16.2~27.7)
  • プラセボ群:  51.9/1,000人年(95%CI 40.9~66.0)

だった。累積発症曲線は、14日目から21日目の間に分離し始めた(Fig. 2A)

 2021年4/19までフォローされたper-protcol efficacy analysis populationに属する25,452名において、COVID-19は77例発生した:

  • NVXワクチン群:  14例(発生数: 3.3例/1,000人年[95%CI 1.6~6.9])
  • プラセボ群:  63例(発生数: 34.0例/1,000人年[95%CI 20.7~55.9])

これらの結果から、ワクチンの有効性は90.4%(95%CI 82.9~94.6; P<0.001)と算出した(Fig. 2B)。NVXワクチン被接種者における新規COVID-19症例の発生率は、他の時期よりも、フォローアップ期間の最初の42日間において高率だった。その結果、ワクチン被接種者内での新規症例発生数は減少し、プラセボ被接種者内の新規症例発生数は増加した(Fig. 2B)

 Full analysis populationにおいて、2回目接種後7日目に観察期間を開始した場合にも、同様の結果が得られた: COVID-19症例は全体で85例だった。

  • NVX被接種者: 16名; 発生率: 3.7例/1,000人年(95%CI 1.8~7.4)
  • プラセボ被接種者: 68名; 発生率: 34.6/1,000人年(95%CI 22.3~53.6)

これらの結果から、ワクチン有効性は89.3%(95%CI 81.6~93.8)であると算出された(Fig. 2C)

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Fig.2 A, B, C:  症候性COVID-19の累積発症数。(A): Full analysis population全参加者中を1回目接種後から観察, (B): Per-protcol efficacy analysis populationを2回目接種7日後から観察, (C): Full analysis populationを2回目接種7日後から観察

 COVID-19症例の重症度は、

  • NVXワクチン群:  全例が軽症
  • プラセボ群:  中等症: 10名, 重症: 4名

であり、中等症・重症COVID-19に対するワクチン有効性は100%(95%CI 87.0~100)となった。重症COVID-19のみに対するワクチン有効性は100%(95%CI 34.6~100)だった。COVID-19罹患or合併症riskが高い参加者において、primary end pointの定義に合うCOVID-19確定診断例に対するワクチン有効性は91.0%(95%CI 83.6~95.0)だった (Fig. 3)。事前に設定した複数の人口統計学的subgroupにおけるワクチン有効性も、多くの場合、同様に高値だった。

  • 黒人におけるワクチン有効性:  100%(95%CI 67.9~100) (Fig. 3)
  • Hispanic or Latinoにおけるワクチン有効性:  67.3%(95%CI 18.7~86.7)←唯一、他のsubgroupよりもワクチン有効性が低かった(Fig. 3)

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Fig. 3:  Per-protcol analysis population中の特定のsubgroupにおける有効性

RT-PCRでCOVID-19と診断された参加者77名のうち、61名(79%)は全ゲノム配列解析により配列が判明した。この61検体のうち、48個でVOC or VOIの配列が検出され, 13個は他の変異株が検出された他の変異株に対するワクチン有効性は100%(95%CI 85.8~100)だった(Fig. 2D)アルファ株は、VOCと特定された検体の大半(89%: 35検体中31個)を占めていた

  • アルファ株に対するワクチン有効性:  93.6%(95%CI 81.7~97.8)
  • あらゆるVOC or VOIに対する有効性:  92.6%(95%CI 83.6~96.7) (Fig. 2E)

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Fig. 2 D, E: 症候性COVID-19の累積発症数。(D): Per-prtcol efficacy analysis populationにおける、VOC or VOI以外によるCOVID-19, (E): Per-protcol efficacy analysis populationにおける、VOC or VOIによるCOVID-19

 請求された局所性, 及び 全身性有害事象は、大半が軽症〜中等症で, 一過性だった。これらの事象は、プラセボ被接種者よりもNVX被接種者においてより多かった

  • あらゆる局所性有害事象:  1回目接種後: NVXワクチン群 58.0%, プラセボ群 21.1% 2回目接種後: NVXワクチン群 78.9%, プラセボ群 21.7%
  • あらゆる全身性有害事象:  1回目接種後: NVXワクチン群 47.%, プラセボ群 40.0% 2回目接種後: NVXワクチン群 69.5%, プラセボ群: 35.9%

 1回目及び2回目接種後、最も多く報告された局所性有害事象は圧痛と注射部位疼痛だった。これらの症状の持続期間の中央値は2日以下だった。重度の局所性反応は全体として少なかったものの、特に2回目接種後にプラセボ被接種者よりもNVX被接種者で多かった。

  • 1回目接種後:  NVXワクチン群: 1.1%, プラセボ群: <1%
  • 2回目接種後:  NVXワクチン群: 6.7%, プラセボ群: <1%

 請求された全身性有害事象で最も多かったのは頭痛, 筋肉痛, 疲労, 倦怠感であり、NVX被接種者と2回目接種後に多かった症状持続期間中央値は1日以下だった。重症な全身性反応はNVX被接種者で多く, 特に2回目接種後に多かった。

  • 1回目接種後:  NVXワクチン群: 2.4%, プラセボ群: 2.1%
  • 2回目接種後:  NVXワクチン群: 12.1%, プラセボ群: 2.1%

 

 

(4) Discussion

 この臨床試験では、blinded crossover後の予防効果の持続期間と, 全体的な安全性profileの評価を継続した。この臨床試験には人口統計学的に多様な集団が含まれ、COVID-19の予防と, 中等症・重症COVID-19に対するNVXワクチンの短期的な有効性が高度であることを示す強いevidenceを示した。

 中央値で2ヶ月間のフォローアップの間において、NVXワクチンは安全であり, また反応性は軽症〜中等度で, 一過性だった。NVXワクチン群とプラセボ群の間で有害事象を報告した参加者の割合が同等であることが示すように、ワクチンに関連した安全性に関する懸念は認めなかった。長期的な安全性のmonitoringは、最初のワクチン接種から24ヶ月後まで継続する予定である。

 米国とメキシコでCOVID-19症例が増加した期間に流行していた変異株(大半がアルファ株だった)に対するNVXワクチンの有効性は90%を超えていた。英国で行われた早期の第3相でも、この変異株に対して同等の予防効果が示されていた(有効性: 86.3%)。更に、この2件の臨床試験におけるアルファ株に対する有効性は、VOC or VOIでなく, 祖先であるWuhan-Hu-1スパイク配列により近いと思われる変異株13種に対する有効性と同等だった; これはワクチンが広範囲の変異株に対して免疫を誘導する可能性を示唆している。

 この臨床試験長所は、人口統計学的に多様な集団を含んでいることである。米国のHispanic or Latinoでは、他の集団と比較してワクチン有効性が低かった; これは単なる偶然か, 或いは まだ判明していないウイルス側ないし宿主側の因子に関連している可能性がある。

 この臨床試験には幾つか欠点がある。

  • この臨床試験が始まった時期に、コロナワクチンが緊急使用承認によって入手可能となっていたため、高齢者の参加登録が減少した。
  • この臨床試験の初期段階で、参加者が出した非盲検化請求の数に不均衡があった。プラセボ被接種者は、NVXワクチン被接種者よりも頻繁に非盲検化を請求した(プラセボは副作用が出にくいので)。これによりper-protcol populationからプラセボ被接種者がより多数抜けることになった。
  • 有効性のフォローアップ期間が約3ヶ月と短かった。