その2: 'ECLS-SHOCK' trial(Thiele H, Zeymer U. et al., N Engl J Med 2023;389:1286-97)
(1) Method
ドイツ・スロベニア2ヶ国で実施された研究者主導・多施設参加のランダム化open-label臨床試験。血行再建治療を予定され, 心原性ショックを合併した急性心筋梗塞患者において、通常の内科的治療単独と比較し、早期の無差別な体外循環式生命維持(ECLS: extracorporeal life support)に有益性があるかどうか決定することが主な目的であった。
その1:'INCEPTION' trial (Siverein MM., Delnoij TSR. et al. N Engl J Med 2023;388:299-309)
(1) Method
オランダで実施された多施設参加型のランダム化対照試験。2017年5月から2021年2月の期間に10カ所の心臓血管外科センターで実施し, 12の救急医療サービス(EMS: emergency medical service。日本で言う救急隊のようなもの?)が参加。EMSは'advanced life suppert'(胸骨圧迫・換気・AED使用だけでなく、気管挿管や薬剤投与等も行う心肺停止蘇生プロトコル)を行う資格を有していた。またEMSと病院のスタッフが特定のプロトコルを採用することは無かったものの、臨床試験の目的やデザインは知らされていた。なお、参加施設はCOVID-19第1波の期間にこの臨床試験への参加を停止していた。
以前からこのブログでは脳卒中関連の論文を時折紹介してきました。実際に救急医療の現場でも脳出血・脳梗塞・くも膜下出血等の患者さんを診察し、脳外科医・脳神経内科医との共同作業を求められる機会も少なくありません。今回もそれに関連した文献(Fischer U, Koga M. et al. Early versus later anticoagulation for stroke with atrial fibrillation N Engl J Med 388;26:2411-21)を紹介してみます。
(1) Introduction
心房細動患者では、DOACs(Anticoagulation with Direct Oral Anticoagulants: 直接的抗凝固因子経口投与による抗凝固療法)が脳梗塞や全身性塞栓症のリスクを減少させることが分かっている。しかしながら、脳梗塞急性期において、DOAC開始時期が脳梗塞再発及び出血のリスクに影響するかどうかは不明である。
今回、筆者(注:この論文の著者ら)は"ELAN(Early versus Late Initiation of Direct Oral Anticoagulants in Post-ischemic Stroke Patients with Atrial Fibrillation)"ランダム化試験と呼ばれる、DOACs早期開始の安全性と有効性を推計するために, ガイドラインに従ったDOACs開始延期と比較する臨床試験を行った。
(2) Method
①被験者について
欧州, 中東, アジアの103施設で実施した。以下の全てに該当する患者が参加登録可能であった。
MRI or CTで急性期脳梗塞巣があると確認された, 或いは24時間以上持続する症状によって脳梗塞と臨床的に診断された上に, CT or MRIによって脳梗塞以外の原因が除外された
永続性, 持続性 or 発作性の非弁膜症性心房細動がある, 或いは脳梗塞による入院期間中に心房細動と診断された
被験者は1:1の比率でDOACs早期開始とDOACS開始延期へランダムに割り付けられた。年齢(70歳> or 70歳≦), 梗塞巣のサイズ, NIHSS(10点> or 10点≦), 施設といった背景因子による不均衡を最小化するような方法が用いられた。
介入群(DOACs早期開始)では、軽症 or 中等症脳梗塞患者で発症後48時間以内に, 重症脳梗塞患者で発症後6 or 7日後にDOACsを開始した。他方、対照群(DOACs開始延期)では、軽症脳梗塞患者で発症後3 or 4日後に, 中等症脳梗塞患者で6 or 7日後に, 重症脳梗塞患者では12, 13, or 14日後にDOACsを開始した。