Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医療関係者向け】低カリウム血症の評価について

 今回は医学生や研修医向けに、低カリウム血症の原因評価についてUpToDateを参考にしてまとめてみようと思います。

 

(1) 原因について

 成書にも色々記載があるので、ここではさらっと触れる程度にします。

カリウム摂取不足: 摂取量は40〜12 mEq/dayが目安

② 細胞内へのカリウム取り込み増加:  インスリン分泌増加or投与, βアドレナリン作用亢進, 細胞外pH上昇(アルカローシス), 周期性四肢麻痺 etc.

③ 消化管から喪失:  下痢, 嘔吐

④ 尿から喪失:  ミネラルコルチコイド作用亢進, 利尿薬, 尿細管障害(末梢側ネフロンで重炭酸塩等の再吸収できないカチオンが管腔へ蓄積→細胞膜電位を保つため、ナトリウム再吸収が亢進→それと交換でカリウム排泄が亢進)etc.

 

(2) 検査による鑑別診断

 有用性・信用性の順で言うと、24時間尿中カリウム > 尿中K/Creatinine ratio > Spot尿中カリウム濃度 なのだそうです。

① 24時間尿中カリウム

 健康で尿からのカリウム喪失がない人は、例え低カリウム血症が存在しても24時間尿中カリウム<25〜30 mEq/dayとなる。これを上回ると、腎臓からのカリウム喪失と判断。但し、低カリウム血症が重症である場合(ex. 不整脈等の心電図変化あり)は補充開始を急ぐので、この検査は使えません(K補充開始によって検査値が修飾されるから)。

② Spot尿中カリウム濃度

 上記のように24時間尿中カリウムが計測できない場合、Spot尿中カリウム濃度を計測します。

尿中ナトリウム濃度>30〜40 mEq/L

尿浸透圧>血漿浸透圧

の2条件を満たす場合は有用です。低カリウム血症であっても5〜15 mEq/Lあれば良い(=これを超えれば、腎臓からのカリウム喪失を示唆する)とされています。

 但し、上記尿中ナトリウム濃度及び浸透圧に関する条件を満たさない場合、値の解釈に注意が必要です。例えば尿中カリウム濃度<15 mEq/Lという値は、腎臓からのカリウム喪失が改善した後や、尿濃縮能が低下した状態での多尿症でもあり得る値です。また体液量が減少していた場合、腎尿細管においてナトリウム, 水の分泌が低下して(=尿中ナトリウム濃度<30 mEq/Lとなる)二次性のアルドステロン症になり、尿中カリウム濃度が比較的高値となります(尿量と絶対的なカリウム排泄量は低下する)。

③ 尿中K/Creatinine ratio

 細胞間でのカリウム移動, 消化管からのカリウム喪失, 利尿薬使用, 摂取不足といったものが無い場合、この値は<13 mEq/g Cre(1.5 mEq/mole Cre)が基準値とされています。この値を超えれば、腎臓からのカリウム喪失を示唆します。

 なお、消化管からのカリウム喪失や代謝性アルカローシスの場合でも、この尿中K/Cre ratioが13以上となる場合があります。そこで、尿中ナトリウム濃度と尿中塩素イオン濃度も併せて計測して判断する必要があります。

尿中ナトリウム濃度と尿中塩素イオン濃度が同等の場合:  腎臓からカリウム喪失

尿中ナトリウム濃度>尿中塩素イオン濃度(i.e. 5倍)の場合:  消化管からカリウム喪失

と判断します。

 これら尿検査所見に加え、血液ガスも重要です。

代謝アシドーシス+尿中カリウム排泄低下:  消化管からの喪失(下剤や浣腸)

代謝アシドーシス+尿中カリウム排泄亢進:  糖尿病性ケトアシドーシス, 1型&2型尿細管性アシドーシス

代謝アルカローシス+尿中カリウム排泄低下:  嘔吐(i.e. 摂食障害で見られる嘔吐), 利尿薬(中止した後で効果が切れている段階), 下剤

代謝アルカローシス+尿中カリウム排泄亢進:

    高血圧がない場合; 利尿薬, Gitelmann症候群, Bartter症候群, 嘔吐

 高血圧を合併していた場合; 腎血管性高血圧, 降圧薬として利尿薬を使用, 原発性のミネラルコルチコイド作用亢進

といった形で、症状や既往歴, 身体所見等の他の要素も含めて判断し、診断に繋げます。

医学部入学の際のDo & Don't

 とうとう3月に入りましたね。大学入試2次試験の前期日程も終わり、そろそろ後期日程が始まる時期でしょうか(COVID-19の影響がどこまで及ぶか、イマイチ不透明なところですが)。

 そこで、今回は昨年同様、これから医学生になる高校生に向けた助言を自分なりにまとめてみたいと思います。なお、昨年3月13日に書いた下記記事へ半ば補足するような形になるので、ご了承ください。

(1) 勉強について

 とりあえずここでは、1, 2年で履修する基礎教養科目について述べます。まず授業への出席数はちゃんと稼いでおきましょう。加えて、1年次に履修する(場合により2年次もやる)理科 ー 物理, 化学, 生物 ーと数学は高校時代のそれとレベルが格段に違います。特に数学・物理に関しては、中学・高校でやっていた正攻法 ー すなわち、地道に問題数をこなして解法のパターンを身に着ける ー では勝てません。試験の際には、過去問やヤマ集を暗記してマスターするしか無いでしょう。化学については、生物学のように暗記するしか無いとは思いますが、それでも高校化学と比べてレベルが違いすぎるので、最終的には過去問・ヤマ集に頼るしか無いでしょう。

(2) 部活(特に体育会系)について

 上記の過去記事でも指摘していますが、部活・サークル, 特に体育会系の部活に入るのはメリットばかりではないのです。

利点: 体育会系なら運動する機会が得られる。先輩・後輩ネットワークを築けて孤立しない。

欠点: 上下関係・同調圧力が半端ない。飲酒に関連して、下手すれば犯罪まがいのトラブルが生じる。プライベートの時間や学業にかける時間を削られる。金がかかる。

 マイペースな人, 自分の時間を沢山持ちたい人, 真面目に勉強したい人は入らない方がいいでしょう。

(3) 奨学金, 特に医師確保修学資金について

 特に低所得〜中所得世帯にとって、奨学金は喉から手が出るほど羨ましい話でしょう。しかし、タダで金を貸与してくれる訳ではないのです。特に地方自治体が創設した『医師確保修学資金』は(そして地域枠も)、「X年この地域で働いたら、貸与した金はチャラにしてあげるよ」という一種の契約なのです。

 但し、過去の上記記事でも指摘したように、あなたがこの奨学金の規定通りにその地域に勤務したとしても、上級医から適切なフィードバックを得られる保証はありません。ましてや好待遇なんて期待すべきではありません。酷な例えですが、『医師修学資金』や『地域枠』に加入したあなたと地方自治体・医学部/大学病院の首脳部の関係性は、アジア太平洋戦争時の特別攻撃隊と陸海軍首脳部のようなものです(詳細は下記を参照)。尽忠報国』や『七生報国』の精神を(たとえ極限状態においても)維持できる自信がないのであれば、『医師修学資金』を利用するのはやめておきましょう。

(4) 番外編 ー 臨床医学の勉強について

 過去の記事でも指摘したように(下記)、臨床医学の講義・実習の質もイマイチです。ちゃんと出席数を確保し、定期試験と国家試験で合格することは必須ですが、ちゃんと講義や実習に出て、試験に受かっても獲得できない知識があります。

 また、これは私の経験談になりますが、今の医学部カリキュラムでは① 患者の主訴・症候から鑑別診断を絞り込む, ② 患者が急変したときの蘇生処置(ACLS, JATECとか), ③ 抗菌薬の適切な使い方, ④ 人工呼吸器の設定方法・考え方, を学ぶことができません。初期研修医になって自力で学ぶしかないのです。

 卒後に臨床で使える知識を全て得られる訳ではない, 講義・実習内容もつまらなくてモチベーションが保てない…それでは困りますよね?そんな時は、初期研修医・医学生向けのセミナーに思い切って参加してみてはどうでしょうか下記の記事で紹介した『日本感染症教育研究会(IDATEN)』に登録したら、そのようなセミナー情報を手に入れることができます。

医学生・研修医を「アンプロ」と言う前に

 さて、最近私が学んだ概念で、医学生などの「アンプロ(アンプロフェッショナル)な行動」というものがあります。私が大学病院内の講習会などで学んだ事例を挙げると、

① 授業中/病院実習中にスマホでゲーム等をやる

② 遅刻常習犯, 無断欠席

SNSに患者の個人情報に関わる情報等をアップロード

④ カルテに虚偽の事実を書く, ただのコピペ

⑤ 患者や医療スタッフに乱暴な口を利く

etc.

要は、「礼儀・常識が欠落」, もしくは「人様の健康を預かる職業である/将来就くという意識がない」ことを示唆する言動の総称でしょう。

http://cme.med.kyoto-u.ac.jp/sd/unprofessional.pdf

http://jsme.umin.ac.jp/com/pro/2017symposium-report-unpro.pdf

 当然、このような言動は看過されるべきではないですし、そのような言動を行った人間を注意/処罰するだけでなく、カウンセリングもしくは個別指導を通して(時間をかけてでも)再教育するのが妥当だと思っています。しかしながら、「こうした一連の『アンプロ』の責めを学生だけに負わせるべきなのか?」という疑問を私は抱いています。以下、そう思う理由を列挙します。

 

1. 医学部に蔓延している『体育会系』のノリ

 現役の医学生, もしくは医師の皆さんは以下の事に心当たりがあるのではないでしょうか?

① 部活・サークルのイベントへの参加を求める同調圧力。講義・実習に関する課題と両立させるどころか、部活・サークルの仕事やイベントを優先するようにを先輩や同期から要求される場合も。学業と課外活動の優先順位の取り違え, 課外活動における同調圧力

② 市中病院, もしくは大学病院の部長・医局長クラスの医師ですら、学生時代に講義をサボって様々な『課外活動』(ex. 麻雀, デート, 部活の自主練)に励んだことを思い出話(もしくは『武勇伝』)として語っている。(指導医が若い頃『アンプロ』だったことを恥ずかしげもなく自慢

③ 「昔は学園祭で昼間から飲んでいたんだ」, 「部活の新歓で、飲食店側に目をつぶってもらう形で未成年でも飲んでいた」といった思い出話を教授クラスや部長クラスの上級医がしている。(法令遵守の精神よりも、自分らの『伝統』を優先する風潮

④ 「先輩の命令は絶対」という不文律が卒後もついてまわる。従って、どんなに理不尽であっても先輩/上級医の指示には逆らえない空気が醸成される。パワハラ, 超過勤務の黙認といった人権軽視の風潮

 まずは、医学生・研修医を指導する側が自分らの意識を変えないとどうしようもないと思います。そして、「各個人の私生活や学業よりも、部活・サークルへ貢献すべき」という風潮も改善すべきではないでしょうか。

 

2. 指導医のプロフェッショナリズム

 過去に本ブログで何度も言及していると思いますが、様々な理由を付けて他科から紹介された患者を「うちじゃない」と言って専門的な診療から撤退する医師が少なからず存在します。そんな上級医ばかりで、医学生・研修医に示しがつくのでしょうか?

 おまけに、上の1.でも述べたように、自分のストレスを周囲へぶちまけ不快にさせるような上級医が散見される訳です。医師は「人様の健康を預かる」職業ですから、本来ならば、人権への配慮が尚更肝要となるのです。しかしながら、周囲のスタッフに対してそれを実践できていない。しかも場合によっては、患者がよっぽど酷いクレーマーでもないのに悪し様に言う医師すらいます(ex.抗凝固薬の内服を自己中断して脳梗塞を再発させてしまった患者について、回診中に「自業自得」と大声で言ってのける指導医)。これでは医学生や研修医のロールモデルになり得ません。

 繰り返しますが、まずは指導医クラスのスタッフが自分たちの意識を変えないとどうしようもないでしょう。指導医が上記に該当するような様では、後輩へ示しがつきません。

【若手医師は特攻隊なのか】自民党議連が提案。「初期研修2年目は半年間、医師不足地域で研修を」

 昨晩から本日夕方まで、外勤先の市中病院で日当直だったんですが、Twitterを見ていたら気になるニュースを目にしました(下記リンク。有料記事なので私は内容を読めておりません)。

 記事の題名や上記ツイートより窺い知れる通り、卒後2年目の初期研修医を半年間、医師数が医療の需要に対し不十分な地域に送り込んでそこで研修(仕事)をさせる案を、自民党内の『医師養成の過程から医師偏在是正を求める議員連盟』が発起したそうです。

 以前から私は本ブログ, Twitterアカウントで強調しておりますが、若手に地方に残ってもらうには、

① 上級医の数が十分で、尚且つ指導能力がある。

② 若手が単に経験数を稼ぐだけでなく、上級医から適切なフィードバックがある

の2項目が本来ならば必要なのです。しかし、実情はどうでしょうか?全く満たしていない施設のなんと多いことか。

理想的な初期研修とは(2) - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

地域枠の義務を拒否する研修医たち - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本の医療の人材育成が抱える課題 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 更に、単に『医師不足』, 『医師の偏在』といっても、その背景には様々な因子があることは本ブログでも複数回指摘してきたことです。例えば、

① 体力的・精神的に負荷が多い診療科(e.g. 救急科, 循環器内科, 脳神経外科など)も、比較的負荷が低い科(e.g. 皮膚科, 放射線科, 耳鼻科など)も給与が同じ。

② 未だに『無給医』がいる。ましてや、手術・急患対応などで長時間残業しても残業代がロクに出ない施設もある。

③ 1つの病院ごとに在籍している特定の診療科の医師数が少ないので、一旦緊急手術などに入れば最後、救急車の収容要請に応需できなくなる。また少人数で多数の患者を診療しているので、時間的・体力的・精神的に余裕がない。

といった要因があるのです。

令和に持ち越したくない、医療界の欠陥 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

必要なのは『断らない救急』ではない - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 こうした諸課題の解決を先送りにし、政府や自治体, 医師会, 大学病院などは短期的な『帳尻合わせ』に過ぎない間に合わせの策しかやっていません。過去に本ブログで紹介した「地域枠」, 「医師修学資金」もそうですし、今回の自民党議連が発表した案もそうです。

 もしかしたら、大学病院や医師会, 自治体, 政府は、若手医師を神風特攻隊か何かと勘違いしているのかもしれませんね。特攻隊が日本軍において組織的に採用されたのは、1944年10月末のレイテ沖海戦からです。米軍はレイテ島上陸決行前からフィリピンと台湾, 沖縄に空襲を行い、フィリピン防衛に充てる日本側の航空戦力をかなり損耗させていました。しかし、大本営はフィリピン防衛計画の変更を指示せず、こうした不利な状況への対応は前線部隊により行われました。その結果、航空支援を担当していた第一航空艦隊は、レイテ湾に来攻する米艦隊を迎撃する為に特別攻撃を採用することになったのです。なお、第一航空艦隊司令長官本人ですら、特攻隊を「作戦の外道」と認めていたそうです。そして特攻隊はそれ以降も多用され、しかも搭乗員・航空機の犠牲の割には大した損害を米海軍に与えていなかったのは過去本ブログで紹介した通りです。

本の紹介(7); 『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 今の日本の医療も、似たような状況です。現状(はまだしも、先行きも厳しい)にも関わらず、『大本営』(政府や自治体, 大学病院, 医師会)は大本の計画・政策や制度といったものの改変を遅々として行いません。そして、しわ寄せを最も食らうのは『前線』の医療スタッフと患者です。特に医療スタッフ側は、先の大戦における日本軍の兵士の如き(語弊はありますが)自己犠牲を以って、極限の状態で地域医療を支えているのです。そして、こうしたニュースを通じ、私は日本人の思考が先の大戦から進化していないと感じます。