Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【COVID-19関連】EU報告「Disinformationの背後にロシアあり」

 感染が拡大し、世界中を不安に陥れているSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)。既に日本国内のSNS等でも話題にはなっていますが、偽情報(以下"disinformation"で統一)の流布も深刻ですね。

そんな中、海外(米英)の報道によると、そういったdisinformationの背後にクレムリン ー すなわちロシア当局 ー が居るというのです(上記"Guardian"[英国の新聞社]の記事より)。出典はEU外交部からリークされた報告書です。

 EU監視チームは今年3月16日までの2ヶ月間、ロシア由来のdisinformation 80件を収集。それらのdisinformationではSARS-CoV-2について「中国, 米国 または 英国によって散布された生物兵器だ」と主張。他にも「COVID-19アウトブレイクは移民が起こした」, 「アウトブレイク自体嘘だ」という主張もありました。報告書はロシア当局の意図について「政府の医療システムに対する大衆の信頼を失わせることで、西側諸国での公衆衛生上の危機を悪化させることだ」と指摘しています。

 では、具体的にどんなdisinformationが拡散されているのでしょうか。以下、Guardianの記事から引用します。

  • 「かつて大英帝国アヘン戦争で中国に市場を開放させ領土を得た。その時と同様に、英国と『名前のない国際機関』はCOVID-19を利用し、武力によって中国市場開放と領土割譲をまた要求するつもりだ」"Sputnik Radio"(ロシア政府系の放送局), 2月に放送
  • 「COVID-19は、製薬会社がウイルスを利用して金儲けするための『嘘のパニック』だ」"Ria Fan"(ウェブサイト)
  • SARS-CoV-2は米兵が中国国内で拡散した生物兵器の可能性がある」"Ren TV"のドキュメンタリー番組
  • 「国内に配備されている米兵が、COVID-19の診断で病院に入院した」リトアニアで流布したdisinformation
  • 「首相のPeter PellegriniはCOVID-19に罹患しており、2月にブリュッセルであったサミットで他のEU首脳を感染させた(なお同首相は、今年2月23日に入院したことをFacebook上で報告していた。診断は感染症だが、COVID-19ではない)」スロバキアで流布したdisinformation

ロシア当局はこれらのdisinformationを1から作り上げるよりも、中国やイラン, 米国の極右内で作られた陰謀論を誇張する形をとっており、こうすることで「自分たちは他者から聞いた情報を報道しただけだ」と主張し、「disinformationを作った」と他国から非難されることを避ける狙いがあるそうです。事実、取材に対してロシア政府の報道官は「確実な証拠があるならコメントはできるだろうが、これは根拠のない非難だ」と主張しています。

 EUによる報告書はこうしたdisinformationについて、「公衆衛生に対する、より緊急性のある課題だ」と結論しています。またWHOも今年2月、COVID-19アウトブレイク"infodemic" ー すなわち、正確な情報とそうでない情報両方が大量に出回っている状態 ー を伴っているとコメントしています。

 

 一国の政府がこのような有害なdisinformationを流すことは到底許されないことです。万が一日本政府がこんなことをしたら、国会で野党が揃って問責決議案や内閣不信任案を提出し、与党議員まで同調するでしょう(マスコミ・有権者も黙っていないでしょう)。そのような動きがロシア国内で見られないということは、プーチンの独裁体制がよっぽど『成功』していることの証しかもしれませんね。また、欧米でこのような策謀が発覚したということは、日本を含むアジアも例外でないことを示唆しているようにも思われます。日本政府は上記のようなdisinformationの由来について綿密な調査を行い、その結果を国民に開示すべきです。

【COVID-19関連】話題の上昌広氏についてちょっと調査してみた(手段: インターネットのみ)。

 最近、COVID-19の件でテレビ ー 特に民放 ー に引っ張りだこの『専門家』が複数名居ますね。但し、そういった人々は大抵、医療関係者の間で恐ろしく評判が悪いのです。以下、Twitterからの引用です(勝手に引用して申し訳ありません!)。

 そこで今回、頻回に登場する医師の一人 上昌広氏のプロファイルに関して、インターネットを使用してちょびっと調べてみました。

 

(1) まずはSNSから

 上昌広氏は、Facebook及びTwitterアカウントを持っています。

f:id:VoiceofER:20200315220004p:plain

COVID-19にまつわる一連の『騒動』以前の投稿を探ってみると、福島県南相馬市に頻繁に立ち寄ったり、首都圏の診療所『ナビタスクリニック』で診療に従事したり、『医療ガバナンス研究所』の業務で全国各地に出張しているようです。

※1 『ナビタスクリニック』ホームページ: https://www.navitasclinic.jp/

※2 『医療ガバナンス研究所』ホームページ: https://www.megri.or.jp/

 

(2) 『医療ガバナンス研究所』ホームページを当たってみると

 SNSだけでは分からないこともあろうかと思い、次に『医療ガバナンス研究所』のホームページを当たってみました。「スタッフ紹介」のページを見てみたところ、上氏は同研究所の理事長をやっていることが分かりました。

f:id:VoiceofER:20200315215052p:plain

「その他経歴」のところをクリックすると、以下のような経歴が表示されました。

f:id:VoiceofER:20200315215127p:plain

専門は「医療ガバナンス論, 血液・腫瘍内科学, 真菌感染症学」で、出身校は東京大学医学部・卒後は血液内科の診療に関わった後、東大の医科学研究所で勤務。その後『医療ガバナンス研究所』を立ち上げた模様です。確かに「真菌感染症」の記載はありますが、それ以外で「感染症/感染対策が専門」ということを示す記載はありません。

 

(3) "PubMed"で調べてみた

 続いて、医療関係者, 或いは生命科学の研究者の皆様にはお馴染みの検索エンジン"PubMed"のAdvanced Searchにて"Author"が"Kami Masahiro"であるという条件で検索を行い、上氏の実績(論文)を調べてみました。

まず最近の論文を当たってみると、福島県(南相馬市など)における震災後の疫学的調査や、同地域の病院における症例発表が多いことが分かりました。他に、首都圏における患者の受診パターンや, 都道府県間の医療スタッフの流出入の調査結果といった論文も散見されます。

f:id:VoiceofER:20200315221209p:plain

f:id:VoiceofER:20200315221231p:plain

f:id:VoiceofER:20200315221351p:plain

最も古い論文(2002年以降)もざっと確認してみましたが、白血病の治療中に合併した真菌感染症の報告や、白血病に対する化学療法, 骨髄・幹細胞移植に関する論文/報告が多く見られます。

f:id:VoiceofER:20200315222631p:plain

f:id:VoiceofER:20200315222711p:plain

f:id:VoiceofER:20200315222727p:plain

 私はPubMedの検索結果に表示された論文・症例報告の題名をざっと見ただけなのですが、感染症アウトブレイク, 院内感染対策等に関するものは見当たりませんでした。

 

(4) まとめ

 上記(1)~(3)の結果をまとめると、上昌広氏の元の専門は「血液内科(白血病の診断・治療とその合併症の治療)」であり、近年は主に疫学的な調査/研究に関与しているようですが、感染症に関するテーマには関与していませんダイアモンド・プリンセス』に関する騒動で一時SNS, YouTubeを賑わせた(?)岩田健太郎・高山義浩 両先生や、メディアにしばしば登場する忽那賢志先生(国立国際医療センター)らと比較すると、感染症診療・感染対策に関する経験や実績が欠落していると言わざるを得ないでしょう。そして、そのような人物を識者として番組に招聘してしまった各放送局の担当者も、事前の情報収集が非常に甘かったと言わざるを得ません。

ニューヨークにおける麻疹アウトブレイク(2018~2019)に関する論文を紹介します

 COVID-19の話題で持ちきりですが、今回はワクチンで防げる感染症, 麻疹について取り上げます。参考にしたのは、今年3月12日に発表された論文"Consequences of Undervaccination - Measles Outbreak, New York City, 2018-2019"(N Engl J Med 2020;382:1009-17)です。

 

(1) Background

 米国では、1963年に最初の麻疹ワクチンが承認される前まで500,000例の麻疹と500例の麻疹関連死が毎年報告されていた。しかし2000年に米国で麻疹根絶が宣言された。但し、海外から輸入し伝播するリスクは続いていた。

 ニューヨーク市では2000年以降、複数回の麻疹アウトブレイクが報告されている。最も最近の事例は、イスラエルから帰国したワクチン未接種の小児が、帰国後9日目の2018年9月30日に発疹で発症したことで始まった他にもイスラエルやヨーロッパの一部からの輸入症例があったことが、1992年以降の米国においては最大規模になる麻疹アウトブレイクのきっかけになった。この研究では、アウトブレイクの疫学的特徴を記述する。

 

(2) Method

① 麻疹症例の特定

 ニューヨーク市の5つの自治区で発生した麻疹疑い症例は全例、直ちにニューヨーク市の保健・精神衛生部に報告せねばならない。全ての症例について、患者や患者の保護者へのインタビュー, 医療記録, ワクチン接種記録と感染源の調査を行った。1957年以前に生まれた人は麻疹に免疫があると考えられた。また麻疹に感染した人と同時(もしくは2時間以内)に同じ場所に居た人は、麻疹に曝露した可能性があると定義された。

 ニューヨーク市の公衆衛生研究所が麻疹の診断的検査を行った。患者の血清に対し、麻疹特異的なIgMの定性enzyme-linked immunosorbant assay(ELISA)法, 及び 麻疹特異的なIgGの定性chemiluminescent immunoassayを行った。またreal-time RT-PCRで麻疹ウイルスRNAを検出した。

アウトブレイク症例は、1. 発疹があり, 尚且つ 2. 検査で感染の証拠がある or 検査で確定診断された症例と疫学的な繋がりがあり、発症が2018年9月30日以降の患者, と定義された。今回のアウトブレイクの一部と考えられた麻疹患者には、1. ニューヨーク市の住民と, 2. 正統派ユダヤ教コミュニティへの訪問者or居住者, もしくは コミュニティ内感染のあった地区に繋がりのある海外からの渡航客, が含まれている。なおニューヨーク市の訪問客は計上していない。臨床経過に関する情報が手に入らなかった場合でも、検査で陽性(RT-PCR もしくは IgM assayで)であり, 尚且つ 上記の基準に合致する時は症例に計上された。IgM assayでは偽陽性の可能性があるので、臨床経過に関する情報がなくIgM assayのみが陽性である患者については、ワクチン接種歴が無い場合のみ症例に含めた。

② Measles-mumps-rubella(MMR)ワクチン接種とmeasles-mumps-rubella-varicella(MMRV)ワクチン接種

 ニューヨーク市では、18歳以下へのワクチン接種量は全てCitywide Immunization Registryに報告する義務がある。

 人口レベルでの分析のため、Citywide Immunization Registryへ報告されたワクチン投与量を基に、ニューヨーク市在住の12~59ヶ月の小児のうち麻疹を含むワクチンを1回以上接種された子供の割合を計算した。またニューヨーク市内の各ZIP Code(郵便番号)についてもMMRワクチンを受けた小児の割合を計算した。また麻疹が確認されている地区におけるMMRワクチン接種を集計し、地区別の接種率(neighborhood-level coverage)を決定した。またそれとは別に、12~59ヶ月の小児に接種されたMMRワクチン投与量を追跡。このデータを週ごとに分析し、前年の同時期の投与量と比較した。

③ Resource mobilization

 保健・精神衛生部はアウトブレイクへの対応を拡大し、つい2019年3月27日には組織全体を巻き込む緊急時対応が発動された。

④ Cost evaluation

 保健・精神衛生部の直接的なコストの総計は、inputs(i.e. 用品, 物資, 装備, サービス)と人件費(i.e. 給与)の合計で計算された。

 

(3) Results

アウトブレイクの詳細

f:id:VoiceofER:20200314180110j:image

 アウトブレイク収束が宣言された2019年9月3日時点で、649名の麻疹症例が確認されており、皮疹の発症は2018年9月30日〜2019年7月15日の間だった(Figure 1)。患者年齢の中央値は3歳(range; 1ヶ月~70歳)で、60.1 %が男性だった。患者のうち81.2 %が18歳以下で、接種歴がわかっている患者の85.8 %はワクチン未接種だった(Table 1)。

f:id:VoiceofER:20200314180119j:image

 患者の大半(93.4 %)が正統派ユダヤ教コミュニティに属し、BrooklynのWilliamsburg地区(473名[72.9 %]) もしくは Borough Park地区(121名[18.6 %])に住んでいた。2019年4月にアウトブレイクはBorough Parkから隣接するSunset Park(同じBrooklyn)へ拡散し、そこで限定的な麻疹の感染(limited measles transmission)が発生した。限定的な感染はCrown Height(Brooklyn)でも発生(8名[1.2 %])し、その症例の半分は18歳以上だった。他の影響を受けた患者はニューヨーク市内の他の地区に住んでいたが、多くはWilliamsburg, Borough Park, もしくはニューヨーク市外の麻疹が存在する地域に繋がる曝露と関連性があった。正統派ユダヤ教コミュニティに所属していない43名(6.6 %)の大半(38名)はラテン系だった。

f:id:VoiceofER:20200314180140j:image

 649名における合併症は下痢(14.2 %), 中耳炎(9.7 %), 肺炎(5.7 %)だったが死者は報告されなかった(Table 2)。入院した49名(7.6 %)のうち20名(40.8 %)がICUへ入り、10名(20.4 %)が非侵襲的機械的換気を受け, 40名(81.6 %)が1つ以上の合併症を発症していた。入院した37名の小児のうち、35名(94.6 %)はワクチン未接種であった。残りの小児に関しては基礎疾患はなく、1名はMMRVワクチン接種を1回受けており、他の小児に関してはワクチン接種歴が不明だった。入院した成人患者12名全員のワクチン接種歴は不明だった。また妊婦3名(それぞれ14週, 33週, 34週)への感染が報告されたが、麻疹合併症はなく、生まれた小児は健康かつ麻疹は陰性だった。

 649名の麻疹患者のうち、564名(86.9 %)は検査で診断し(うち20名は臨床経過の情報なし), 85名(13.1 %)は検査で診断した症例との疫学的な繋がりに基づいて診断した。世界中で最もよく見られるgenotypeの1つであるgenotype D8の麻疹ウイルスが、アウトブレイクと関連した患者255名全員で検出された。10名はアウトブレイクの期間中に麻疹と診断されたが、正統派ユダヤ教コミュニティの一員でなく, コミュニティ内感染があった地区へつながらなかったためアウトブレイクの一部とは考慮されなかった。6名の患者は海外からの輸入症例, または輸入症例と繋がりがあった(うち1人はgenotype B3のウイルス)。1名の輸入症例でない患者はgenotype B3で, 1名はこの症例と疫学的な繋がりがあった。他の33名は麻疹の有無につて調査を受けたが、MMRワクチン接種歴があり, 麻疹ワクチンの系統(genotype A)が検出されたために、確定診断症例には計上されなかった。

f:id:VoiceofER:20200314180153j:image

 感染は多くの場合、家庭(家族・親族, 友人, 近隣住人との接触を介して), 学校, childcare programを含む環境で発生していた。11名の患者では麻疹をニューヨーク市外からの麻疹に罹患していた(イスラエル; 4名, 英国; 2名, ウクライナ; 1名, ニューヨーク市外のニューヨーク; 3名, ニュージャージー; 1名)。40.8 %の患者が、コミュニティ内感染で麻疹に罹患したと考えられる(Table 3)。

② Control measures

 20,000超の接触者が名前付きで特定され(More than 20,000 named contacts were identified)、そのうち1歳未満の間での曝露は1000, 妊婦での曝露は400, 免疫不全の可能性がある人での曝露は400と推定された。曝露があった場所(e.g. 学校, 医療機関)の職員, もしくは 保健・精神衛生部から接触者へ麻疹への曝露の通知が行われ、曝露後予防のためにMMRワクチン, 免疫グロブリン, もしくは自宅への隔離が適用された。またMMRワクチン接種勧奨が、麻疹感染の発生している地区に居住, ないし 定期的に滞在している人向けへと変更された。勧奨基準には 1. 6~11ヶ月の乳児への早期のMMRワクチン追加接種, 2. 1~4歳の小児への早期の2回目のMMRワクチン接種, 3.  1957年以降に生まれた成人のうち、麻疹を含むワクチン接種2回の履歴がない or ワクチン接種歴が不明 の人への早期のMMRワクチン2回の接種, も含まれる。

 2018年12月6日、WilliamsburgとBorough Parkの学校とchildcare programに、年齢に適したMMRワクチンを受けていない, もしくは 麻疹免疫の証明がない小児の利用を禁止する通達が出された。保健・精神保健部の部長命令により、指示に従わないprogramは罰金, 閉鎖, もしくはその両方へ従うことになった。その結果、3つの学校と9つのchildcare programが閉鎖された。2019年4月9日には、麻疹アウトブレイクの影響を受けたWilliamsburgの4つのZIP Code areaに居住, 勤務 or 通学している全ての人に対し、MMRワクチン接種, もしくは 麻疹への免疫を証明することが命じられた。そして命令に応じない人へ232通の召喚状が発行された。

③ ワクチン接種率

f:id:VoiceofER:20200314180208j:image

 2018年10月1日から2019年9月1日の間に、12~59ヶ月の小児へ合計188,635回(dose[s])のMMRワクチンが接種された。Williamsburgでは11,964回のワクチンが接種された。昨年の同時期と比較すると、ニューヨーク市全体では23,320回, Williamsburgでは4,216回多く接種された。2018年10月1日から2019年9月1日の間に、Willamsburgで少なくとも1回のMMRワクチンを受けた12~59ヶ月の小児の割合は79.5 %から91.1 %へ増加した(Figure 2)。

④ コストの計算

 2019年9月9日の時点で、保健・精神衛生部の計559名の職員が麻疹の対応に当たっていた(全職員の7 %)。2019年3月末に同部署の関与がピークに達していた時、合計261名が麻疹への対応で働いていた。2019年8月31日の時点で、840万ドルが対応のため支出されていた(うちinputsは150万ドル, 人件費は690万ドル)。

 

(4) Disucussion

 この麻疹アウトブレイクは1992年以降米国内で報告されたものの中で最大規模となった。このアウトブレイクの原因は、反ワクチングループの標的となっていたコミュニティに複数の麻疹輸入があったことが原因であり、その結果ワクチン未接種で感受性がある多くの小児(特に1~4歳)が影響を受けた。

 同じ集団において2009~2010年の間に流行性耳下腺炎ウトブレイクがあった後、保健・精神衛生部が焦点を集めている間に(During focus group conducted by the Department of Health and Mental Hygiene after a mumps outbreak in 2009-2010 in this same community)、母親たちはワクチンと自閉症の関連性, ワクチンの安全性, 子供たちが人生の早期に多くのワクチンを接種されることを心配していた。これらの懸念に取り組むため、保健・精神衛生部はBorough ParkとWilliamsburgの29,000世帯宛てにワクチンについて正確な情報を提供する2冊の冊子を送付し、影響を受けたコミュニティにおいてはワクチンに関する嘘と闘うキャンペーンを開始した。

 輸入症例によって悪化した多くの感染連鎖や, 保健・精神衛生部の指導に従わない学校・childcare center, 宗教的な理由でワクチン免除となった人が多い学校・childcare centerにおける感染 等が複雑に絡み合ったアウトブレイクだったため、麻疹の感染阻止は難航した。親が免疫のない子供をわざと"measles parties"(麻疹パーティ)へ参加させた事例もあった他、発症して数週間から数ヶ月後に子供を医療機関に連れて行って血清学的検査を受けさせ、麻疹の診断を受けてから学校への通学再開を果たした(the diagnosis of measles was made several weeks to month after illness had begun, when the children's parents brought them to a medical provider for serologic testig so they could return to school)事例もあった。このような麻疹覚知の遅延は、保健・精神衛生部がreal-timeで感染を封じ込める能力を妨害した。

 このアウトブレイク期間中に報告された合併症は、麻疹の深刻さを思い出させるための警告である。今回合併症を起こした患者の割合は、過去の事例とも一致する。1985年から1992年にかけて、下痢は麻疹患者の8 %, 中耳炎は 7%, 肺炎は6 %で見られ、死亡は1 %未満だった。これとは対照的に、麻疹ワクチン接種後の有害事象は、100万回投与中30.5回だと推定される(<0.001 %)。

 アウトブレイク封じ込めのため、保健・精神衛生部はいくつもの独特な政策決定を行った。ワクチン未接種小児を学校・childcare programから排除する措置は、こうした環境が感染において重要な役割を担うため正当化される。ある学校では、1人の感染した生徒が25名の生徒への感染に繋がり、これは更に学校外の多くの人への拡散にも繋がった。合計すると、学校とchildcare facilityで麻疹に罹患した9.7 %の患者に加え, 48名が学校 もしくは childcareの出席者から麻疹をもらった。保健・精神衛生部は特定のエリアにおけるワクチン接種を命じた。またニューヨーク市保健委員会はこの政策に賛同し、支援することを票決した。更に、Kings Countyの最高裁判所は保健・精神衛生部のワクチン接種を命じる権限を支持した。これらの政策が実行された後にMMRワクチン接種が増加し, 麻疹症例が減少したことは、この2政策が成功であった証拠である。

 麻疹アウトブレイクへの効果的な対応を実行するに当たって、既存のインフラの重要性を誇張しすぎることはない。Citywide Immunization Registryは1996年に設立され、10年にわたる投資は、高い医療従事者の参加率と質の高いデータを有するワクチン接種情報システムを構築した。2002年9月11日以後、保健・精神衛生部は連邦公衆衛生・ヘルスケアシステム準備基金(federal public health and health care system preparedmess fund)を投資することでスタッフに投資し, 対応プランを作成・演習し, 強力なincident command structureを開発。これによって迅速に資源を動かす機構を提供した。

 麻疹は最も感染性がある疾患の一つである。集団の免疫力を維持するのに必要な基準を下回るワクチン接種率の地域にウイルスが導入された場合、たった一人の麻疹患者すら大規模なアウトブレイクに繋がる可能性がある。臨床的に一致する症候で患者が受診した場合、麻疹の疑いは常に念頭に置いておくべきであり(an index of suspicion for meales should be mainteined when a person presents with a clinically compatible illness)、それによって迅速な感染封じ込めの実行と診断的検査が可能になる。麻疹の封じ込め, ないし撲滅のための国際的な努力は国際社会への麻疹による負担を減らす可能性があり、反ワクチン偽情報と闘うことは、地域, 国内, そして国際社会のレベルにおいて最優先事項であり続けているニューヨークにおける、正統派ユダヤ教コミュニティを跨いだアウトブレイクにおける限定的な感染は、高品質かつ国家レベルのMMRワクチン2回接種プログラムが、人口内での高い免疫を維持するのに効果的であることを強調している(In New York City, the limited transmission of this outbreak beyond the Orthodox Jewish community hightlights the effectiveness of a high-quality, national two-dose MMR vaccination program in maintaining high population-level immunity)。

 

 こうして見ても、反ワクチン運動は百害あって一利なしの陰謀論ですね。そして麻疹アウトブレイク封じ込めに対し、思い切った政策を断行したニューヨーク市当局のリーダーシップ(とそれを支援した司法や行政)には我ながら脱帽しました。

【医療関係者向け】機械的血栓回収術で再開通できなかった急性期脳梗塞へのウロキナーゼ動注は有効か?

 今回はCOVID-19から少し離れて、救急医療にも関係する別の論文を紹介します。2019年12月9日にオンライン公開された論文"Safety and Efficacy of Intra-arterial Urokinase After Dailed, Unsuccessful, or Incomplete Mechanical Thrombectomy in Anterior Circulation Large-Vessel Occlusion Stroke"(Kaesmacher J, Bellwalf S. et al., JAMA Neurol. 2020;77(3):318-326)です。

 

(1) Introduction

 主幹脳動脈閉塞による脳梗塞の急性期に機械的血栓回収術(mechanical thrombectomy; MT)で治療を受けた患者において、完全再開通(Thrombolysis in Cerebral Infarction grade 3[TICI 3])を達成することは、機能予後へ最も影響する要素である。しかしながら、およそ1/10の患者においてTICI 3の再開通が得られないことが明らかになっている。

 そうした症例に対応するため、線溶薬(t-PA, もしくは プロウロキナーゼ/ウロキナーゼ)を動注する治療法が試みられているが、第二世代MTに追加して行う本療法の安全性や効果に関するデータは乏しい。

 本研究においては、「選択した患者において、MT中, ないし 治療後に行うウロキナーゼ動注は安全であり、尚且つ再開通に失敗or不完全であった症例においてはTICIの改善を促進する」という仮説を立てた。

TICI grade:  閉塞した脳動脈の再開通の程度を示す数値。数字が上にいくほど再開通の程度が良好であり、TICI grade 2b, 3を有効な再開通とすることが多い。

 

(2) Method

① Patient Selection

 2010年1月1日~2017年8月4日の間に血管内治療を行われた全ての患者がBernese Stroke registryへ含まれた(n=1247)。そのうち、

  • 69名が研究への参加を拒否
  • ウロキナーゼ動注だけで治療した患者は除外
  • 後方循環主幹動脈閉塞, または 前方循環でも末梢の閉塞は除外

した結果、993名がMTで治療を受けた(Figure 1)。

f:id:VoiceofER:20200313220445j:image

 なお、脳梗塞が疑われた患者のうち445名で入院時にCTを, 548名で入院時にMRI撮影を行っている。血管内治療は第二世代デバイスのみ(大半はステントレトリーバー)で行われた。

② Intervention

 993名中、100名(10.1 %)で追加のウロキナーゼ動注が行われた。ウロキナーゼの投与は手動にて、1. 血栓の手前 or 隣, 及び 2. 血栓より抹消側へ行われ、投与量は50,000~1,000,000 IUであった。通常、ウロキナーゼ投与はおよそ45~60分かけて行ったが、投与中に撮影した診断的脳血管撮影で再開通が見られれば、投与を中止した。

③ Comparison

 MTのみで治療した患者893名。

④ Outcome

 以下の項目を評価した。

  • 発症90日後の時点における機能的予後(mRS)
  • MT施行後に再開通が失敗, もしくは 不完全であった症例に対して、ウロキナーゼ動注前後における脳血管撮影画像の改善があったかどうか
  • 全ての脳血管撮影画像に対し、ウロキナーゼ動注に関連した周術期合併症の有無を評価

  ウロキナーゼ動注群と動注群の単変量比較は、Mann-Whitney, もしくは Fischer exact testで行った。データは頻度, ないし 中央値・四分位範囲(interquartile range; IQR)として表示した。

  • Model A:  あらゆるbaselineの差異を調整するため、logstic regression( 2-sided P<.15, 単変量解析)を用いて1. 複数のoutcome parameterに関するadjusted odds ratios(aORs)と,  2. それに対応する追加されたウロキナーゼ動注の95%CI, を計算。
  • Model B:  機能予後と, ウロキナーゼ動注 間の潜在的な関連性を推定するために、技術的な症例選択(i.e. 来院から鼡径穿刺までの時間の延長, poorなTICI grade)を考慮した追加の調整を行った。

 

(3) Result

① Study Population (Table 1)

f:id:VoiceofER:20200313220433j:image

f:id:VoiceofER:20200313220503j:image

 患者は来院時、NIHSS中央値が15(IQR 10~20)と重症であり、419名(42.2 %)がt-PA静注を受けた。上記のように、993名の前方主幹動脈閉塞患者のうち100名(10.1 %)に、血管内治療中にウロキナーゼ動注が行われた。100名中98名において、発症後, もしくは 最後に目撃されてから中央値275分(IQR 229~313分)にウロキナーゼ動注が開始された。9名(9.0 %)は発症後6時間を超過した時点で治療を受けていた。発症 or 最終目撃からの経過時間と、ウロキナーゼ投与量の間に相関は見られなかった(P=.77)。

 ウロキナーゼ投与の理由は、

1. 複数回の操作を経ても血栓回収ができなかったので、それに対するrescue (100名中15名; 25.0 %)

2. 残っている閉塞病変が到達できないTICI 2a or 2b (53名/100名; 53.0 %)

3. 初回, 2回目, もしくは 3回目のステント留置の間, もしくはその前に、血栓回収を用意とするため (25名/100名; 25.0 %)

4. 新たな領域に生じた閉塞に対して (7名/100名; 7.0 %)

の4つだった。またウロキナーゼ動注を受けた患者は若く(年齢中央値; 71.1[IQR 58.6~78.1] vs 75.0[IQR 63.0~82.5], P=.007), 女性が少なく(42名/100名[42.0 %] vs 463名/893名[51.8 %], P=.07), 来院が早め(中央値; 83分[IQR 63~152] vs 145分[IQR 77~250], P<.001), 血小板数中央値がわずかに高め(215x10^3/μL[IQR 188x10^3~273x10^3] vs 215x10^3/μL[IQR 173x10^3~259x10^3], P=.07)だった。他に、動注群においては、

  • 末梢閉塞が数的に多い
  • 動注群のdiffusion wrightend imaging ASPECT scoreの中央値は7(IQR 5~8)であった一方、非動注群のscoreは8(IQR 6~9, P=.09)
  • 症例を選択したことによるものであるが(Inherent to the selection of cases)、鼡径穿刺~再開通の時間が長い(中央値72分[IQR 47~111] vs 中央値43分[IQR 28~69], P<.001)。
  • 最終TICI gradeが全体的に悪い(e.g. TICI3は16名/100名[16.0 %] vs 436名/892名[48.9 %], P<.001)

といった結果が得られた。

② Safety (Table2)

f:id:VoiceofER:20200313220857j:image

 ウロキナーゼ動注群と動注群の間で、全身の出血症状(systemic bleeding)の頻度は同等だった。症状を伴う頭蓋内出血(symptomatic intracranial hemorrhage; sICH)の頻度に有意差はなかった(5/97名[5.2 %] vs 60/875名[6.9 %], P=.67)。t-PA投与をせず直接MTを行った患者群においても、ウロキナーゼ動注後のsICHの比率は同等(4/55名[7.3 %] vs 33/507名[6.5 %]. P=.78)だったが、MT前にt-PA投与を受けていた患者群内では、ウロキナーゼ動注群でのsICHの比率は数的に少なかった(1/42名[2.4 %] vs 27/368名[7.3 %], P=.33)。両群(ウロキナーゼ動注群と動注群)における、ウロキナーゼ動注によるsICHのcommon ORは0.74と推定された(95%CI; 0.29~1.88)。他に、無症候性の出血はウロキナーゼ動注群で少なく(15/92名[16.3 %] vs 22/818名[27.2 %], P=.02), 90日後の死亡率は低い傾向が見られた(19/99名[19.2 %] vs 235/860名[27.3 %], P=.09)。他にも、

  • Baselineの差異を調整(model A)した後で、ウロキナーゼ動注は無症候性ICH(asymptomatic ICH; aICH)減少と関連し、sICH(aOR 0.81, 95%CI 0.31~2.13)ないし死亡率(aOR 0.78, 95%CI 0.43~1.40)の観点ではriskの差がかった(Table2 and Figure2)。
  • TICI scoreバイアスを含む技術的なcharacteristicsで展開したモデル(model B)では、ウロキナーゼ動注はsICH risk増加と関連性はなかった(aOR 0.46, 95%CI 0.15~1.42)ものの、aICHの率の低下(aOR 0.54, 95%CI 0.29~0.99)と死亡率の低下(aOR 0.48, 95%CI 0.25~0.92)に関連していた(Figure2)。

といった結果が得られた。

f:id:VoiceofER:20200313220913j:image

③ Efficacy

f:id:VoiceofER:20200313220942j:image

 複数回のステント展開でTICI grade 0ないし1だった症例15名のうち、ウロキナーゼ動注のみで再開通の状態が改善したのは8名(53.3 %)だった。その内訳は以下の通りである。

  • TICI 0が1へ; 2名
  • TICI 0 or 1が2aへ; 3名
  • TICI 1がTICI 2bへ; 3名

但し、再開通が成功したのは15名中3名のみであった(Figure3)。血栓回収施行後にTICI 2a~2bで到達可能な遺残閉塞病変がない症例(100名中53名)においては、ウロキナーゼ動注によって32名(60.4 %)で再開通の状態が改善した。さらに詳しい内訳を見ると、

  • 再開通の改善がTICI gradeと関連していたのは53名中18名(34.0 %)
  • TICI 2aから2bへ; 10名
  • TICI 2a or 2bから3へ; 8名
  • 改善のあった32名のうちの残り14名は、TICI gradeの変化が無いまま再開通の状態が改善した。

という状況であった。

 ウロキナーゼ動注群と動注群間では、機能的自立に関して有意差がなかった(45/99名[45.5 %] vs 329/860名[38.3 %], P=.19)。Baselineの差異を調整した場合に有意差は無かった(aOR 1.00, 95%CI 0.62~1.64)にも関わらず、技術的なend point(i.e. ウロキナーゼ動注群における、poor TICI gradeを支持するselection bias)を調整した場合においてはウロキナーゼ動注は機能的自立と関連していた(aOR 1.93, 95%CI 1.11~2.27) (Table 2, Figure 2)。

 

(4) Disucussion

 本研究の主な知見は次の通りである。

1. MT治療中, ないし 治療後のウロキナーゼ動注は、選択された患者において安全である(全身的な出血症状, sICH, aICHのriskを増やさない)。

2. 変化が常にTICI gradeと関連していた訳ではないものの、特にMTで完全な再開通を得られなかった患者において、ウロキナーゼ動注はしばしば患者の再開通の状態を改善することができた。

3. Baselineや技術的な因子に関する不均衡を調整した後、ウロキナーゼ動注と機能予後改善には関連性が見られた。

 これまで、MT中, ないし MT後の線溶薬動注の安全性・効果を評価した観察研究は2~3件程度しかない。最近発表されたNorth American Solitaire Stent-Retriever Acute Stroke registryのsecondary analysisにおいては、MT失敗後の線溶薬動注が再開通率改善を示した一方で、t-PA動注を受けた群でsICH率が数的に多かった(13.9 % vs 6.8 %, P=.29)。

 本研究を行った施設(スイスのベルン大学病院)では長らくウロキナーゼ動注が用いられてきた。同施設における過去の研究(PROACT-II)では、ウロキナーゼ動注は機能的自立における15 %の絶対的利益(a 15% absolute benefit)や, 優れた再開通率(66 % vs 18 %, P<.001)と関連していた。特により末梢の閉塞では、control群と比較して3倍の早期の再開通の増加と関連していた(53.6 % vs 16.7 %)。ウロキナーゼ動注の最も重症な合併症はsICHであり、PROACT-IIではウロキナーゼ動注群にて10 %の患者に発生した。それに対して本研究では、ウロキナーゼ動注群にてsICH, aICH, 全身的な出血のrisk増加は認めなかった。興味深いことに、ウロキナーゼ動注を受けた患者でaICH率は低く, sICH推定値はウロキナーゼ群における低リスクを示唆し, またウロキナーゼ動注を受けた患者の予後は良好な傾向があった。こうした転機の差は症例を選択したことで生じた可能性は除外できないものの、不均衡を調整した後、ウロキナーゼ動注の効果はより明らかなものとなった。

 不完全な再開通の大半はMTでアクセスできない血管閉塞で説明可能であることから、再開通の状態を改善するための線溶薬動注の追加はよりpolpularになるかもしれない。そしてそのような治療法には、MTやt-PA静注で前もって得られていた利益を危険に晒さないような安全性が求められる。

 MT後, ないし 治療中に線溶薬動注を追加する治療法が推奨できるようになるまでには、前向き他施設研究, ないしは ランダム化臨床研究で更なる評価が必要となるだろう。

 

(5) Limitation

 本研究では、ウロキナーゼ動注療法への患者の割り当てがランダム化されていないのが最大のlimitationである。MTで完全再開通を得られなかった患者をウロキナーゼ動注に割り当てたという強いselection biasがある一方で、ウロキナーゼ動注は神経内科医, 神経血管内治療医が安全とみなした場合のみ行われた。こうした差異のため、分析は過剰な調整や残余交絡の影響を受けやすい。つまり、ウロキナーゼ動注群において見られた低いaICH率, 良好な機能予後, 死亡率の低下は注意して解釈せねばならない。また本研究におけるウロキナーゼ動注を行う患者の選択は経験が豊富な神経内科医と神経血管内治療医により行われており、他の施設では本研究のような成績や安全な症例選択が出来ないと思われる。加えて、1,274名中69名が研究参加を拒み、尚且つフォローアップ期間中の最後のstudy polulationの損耗率は3.4 %であり、これらもバイアスとなった可能性がある。