Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【白い巨塔】血管内リンパ腫とは何ぞや?【医療関係者向け】

 昨日放送された『白い巨塔2019』第4話では、財前が手術を担当した患者が術後、発熱, 腹痛などを発症。財前らは「術後胆管炎だ」と考え、医局員にその治療をするよう指示します。しかしながら、治療によって症状は改善するどころか増悪し、最終的に死亡します。病理解剖を行なった結果、肝臓に血管内リンパ腫が認められ、医療訴訟に至るというストーリーでした。

 原作では(私は読んでいませんが)、医局員が「画像検査で転移巣を検索した方がいいのでは(胃噴門部癌なので肺転移が心配)」と財前に提案するも却下され、そのまま手術に踏み切ります。術後に発熱といった症状が見られ、財前の指示で『術後肺炎(今で言う誤嚥性肺炎?)』として治療しましたが、やはり状態は改善せず死亡。術後の病理解剖で肺転移が判明したというストーリーであったと聞いています。

 第3話では、術前に医局員が患者の肝酵素上昇と炎症所見を指摘しPET-CTを進言していますが、財前は「膵癌は極めて初期なので必要ない」と反論し却下しています。そうした経緯から私は当初、「膵癌の(肝臓やリンパ節等への)転移を見逃した事が医療訴訟の争点になる」と予想していましたが、大きく裏切られる結果となりました。TwitterのTL上では、医療関係者の間でこの設定へ様々な異議が唱えられていました。

要は、1. 術前にPET-CTを撮ったからといって血管内リンパ腫を診断できた訳ではない, 2. 血管内リンパ腫自体が稀な疾患であるから、(患者が死ぬ前に)診断できる医師は少ない, 3. 術前・術中に血管内リンパ腫と診断できたとしても、結局転機は変わらなかった, という事なのです。

 こうゆう話題が急に降って湧いたので、今回私は血管内リンパ腫について自分なりに勉強してみました。

 

(1) 血管内リンパ腫とは何ぞや?

 血管内リンパ腫は血管内大細胞リンパ腫(Intravascular Large Cell Lymphoma; 以下ILCLとも呼ばれ、その定義は「血管外の腫瘍塊, ないし末梢血中への腫瘍細胞の出現が見られず、小血管, 特に細動脈や細静脈(毛細血管)の内腔に増殖したリンパ腫」です。かなり稀なタイプのリンパ腫なので、正確な発生数は未だ不明です。他方、性差は無いもののILCLの診断を受ける年齢中央値は60~70歳代です。

 ILCLは非特異的な症状・画像所見を呈する一方で、急速に進行し致死的な経過をたどることが一般的です。そして興味深いことに、地域によって症状や経過が異なります。

① 欧米: 中枢神経症状(e.g. 認知症, 急速に進行する脳血管障害), 皮膚症状を呈するものが多い。皮膚に限局している病型のみに関して言えば、1. 年齢層が若い, 2. 女性に多い, 3. performance statusが良好, という特徴がある。

②アジア: 血球貪食症候群, 骨髄への浸潤, 肝脾腫, 血小板減少を呈するものが多い。

※共通する症状: ILCL以外のリンパ腫でも見られる発熱, 寝汗, 体重減少

 血液検査では約65%の患者で貧血, 80~90%超の患者でLDH・β2ミクログロブリンの増加を認めます。更に、ILCLはリンパ節腫大や腫瘍塊形成を伴わず、腫瘍細胞が末梢血中や脳脊髄液中に出てくることはまずありません

 『医中誌』で日本国内の最近の症例報告を検索してみたところ、別の疾患で緊急入院して緊急で治療実施→治療後数日経ってから急変→治療抵抗性のショック・他臓器不全で死亡→病理解剖でILCLと診断 という経過を辿った最近の症例報告を2件見つけたので、以下に提示しておきます。

症例①: 80歳代女性 既往歴; 高血圧, 糖尿病など

 2ヶ月前から食欲が減衰。また短時間の胸痛を繰り返し自覚しており、来院同日になって胸痛の持続時間が長くなったため救急要請し, 不安定狭心症疑いで入院。

 入院翌日の冠動脈造影検査で、高度狭窄を認めたため、同日冠動脈バイパス術を施行した。術後経過は当初良好だったが、術後5~6日にかけて腎機能低下・呼吸状態悪化・代謝性アシドーシスが出現し全身状態悪化。術後8日に消化管出血によってショックとなり死亡。死後の病理解剖で冠動脈のバイパス血管はか依存し、心筋は保たれていたが肺や消化管, 肝臓などにILCLの病理所見を認めた。

症例②: 80歳代女性 既往歴; 心筋梗塞, 糖尿病, 慢性腎不全など

 来院5日前から体調不良・労作時胸部症状が出現。入院前日に胸痛・起座呼吸が出現認め翌日救急搬送された。不安定狭心症疑いで入院。冠動脈造影で冠動脈の狭窄があったためPCIを施行。

 第6病日から血圧・尿量低下認め、昇圧薬を使用したが反応が乏しかった。アシドーシスの悪化も見られ第7病日から持続血液濾過透析開始。当初心原性ショックを疑っていたが、Swan-Ganzカテーテルで計測した結果からそれは否定的であった。血液検査で炎症反応や肝逸脱酵素増加を認めたことから胆道系感染症を疑い、抗菌薬投与を開始した。しかしその後も改善は認めず、血液培養の結果も陰性だったので第10病日に抗菌薬を中止した。

 ショックの原因として血液疾患や自己免疫疾患も疑い、ステロイドパルスを行なって一時的な改善は見られたが、持続的な改善は無し。血液内科・膠原病内科にも紹介し抗体測定等行なったが原因は特定できず。ショック・多臓器不全が改善することなく第18病日に死亡した。病理解剖の結果、全身の微小血管(心筋内含め)にILCLの所見を認めた。

 このように、1. 高齢患者が致死的となりうる別の疾患(心血管系の疾患など)で緊急入院・緊急的に手術を行われ, 2. 術後数日してから状態が悪化し、心原性ショックや敗血症性ショックといった典型的な原因を疑われ, 3. 多臓器不全・感染症に対する治療を行われるも、悪化から数日で死亡, 4. 病理解剖でILCLと判明 という共通点が見られます。

 

(2) どうやって診断するの?

 皮膚病変があれば、そこを生検します。但し、上記のように皮膚症状が前面に出ないケースもあるため、肉眼的に正常な皮膚をランダムに生検することが勧められています。なお、皮膚の生検で診断が着かない場合もあります。そうした場合、胃粘膜や肝臓, 肺といった他の臓器を生検します。

 そうして採取した組織で、異常リンパ球(腫瘍細胞)が毛細血管内に留まっている(刺さっている)所見を認めれば診断が成立します。

 このように、ILCLは1.かなり稀な疾患(他に思い当たる鑑別診断が無い場合に想起する)であり, 2.「これはILCLだ!」と疑って様々な組織・臓器を生検して見て から初めて、診断が成立する疾患なのです。

 

(3) で、PETは診断に役立つのか?

 ここで言うPETとは、放射性フッ素でラベルしたブドウ糖(Fluorodeoxyglucose; 以下FDG)を使用する画像検査のことです。FDGを患者に投与すると、ブドウ糖代謝が活発な部位(悪性腫瘍, それ以外の場合もある)へFDGが集積しますが、この物質を放射性物質でマークして可視化するのです。

 悪性リンパ腫の場合、診断, 病期決定, 治療効果判定, 再発の診断にPETの有用性が認められています。ILCLでは肺, 骨髄, 脾臓, 肝臓, 副腎などにFDGの異常集積が好発するとされていますが、その『集積』の判定が曲者です。例えば骨髄の場合、貧血や炎症でも集積してしまいますし、年齢によっては造血が(高齢者より)盛んなので病気でなくても集積してしまいます。脾臓・肝臓も同様に、リンパ腫以外の要因(臓器の機能亢進, 別の悪性腫瘍, 感染巣など)でFDG集積が亢進する場合があります。

 こうなると、PETは「ILCLに特異的な所見を探し、ILCLだと診断する手段」というよりも「FDGを盛んに取り込む(病変があるかもしれないが、リンパ腫とは限らない)部位を探す検査」であることが分かります。

 

(4) 治療などについて

 異常リンパ球が血管内にあることから、ILCLは播種性/病期的に進行した状態として扱われ、抗癌剤を数種類併用して治療します。

 特にアントラサイクリン系(e.g. ドキソルビシン)の抗癌剤は重要視され、この薬剤を併用しないと治療成績が悪化するとされています(これを含む多剤化学療法は、60%の反応率と30%超の3年生存率と関連)。ドキソルビシンにシクロホスファミド・ビンクリスチン・プレドニゾロンを併用した化学療法(CHOP療法)を行い、反応があったという報告がありますが、これらの症例報告の多くはフォローアップ期間が短く、治療スケジュールが終わった後に症状/病勢の進行が見られたという症例もありました。また、アントラサイクリンを基本とした化学療法を受けた患者のうち半分は再発(進行までの期間の中央値は7ヶ月)し、診断から18ヶ月以内に死亡したというデータもあります。

 なお最近では、上記CHOP療法へリツキシマブを併用した(R-CHOP療法)という症例報告や後方視的研究が出てきています。106名の患者を1. CHOPのみの群(57名)と2. R-CHOP群(49名)にグループ分けした研究では、18ヶ月時点のフォローアップにて①R-CHOP群の方が治療に反応があった(R-CHOP 82% vs CHOP 51%), ②R-CHOPの方が2年間の進行なし生存率が高かった(R-CHOP 56% vs CHOP 27%), ③R-CHOPの方が2年間の全生存率が高かった(R-CHOP 66% vs CHOP 46%)という成績でした。

 

(5) 結論

 私なりの結論は以下の通りです。

  • 血管内リンパ腫は極めて稀な疾患である。
  • しかし血圧低下・呼吸状態悪化・急性腎障害等を急激に発症する事も多く、他の原因(e.g. 心原性ショック, 敗血症)と間違われるのも無理はない。
  • しかも急速に死に至るので、生存中に診断出来ない事もある。
  • 確定診断は、皮膚(や他の組織・臓器)のランダム生検による。
  • FDG-PETで血管内リンパ腫の診断が出来るとは限らない
  • 化学療法レジメンに関するコンセンサスは存在するが、まだ治療法は開発途上であり予後も良いわけではない。

 

(6) 参考文献

  • UpToDate
  • 'Definitiion, Diagnosis and Management of Intravascular Lage B-Cell Lymphoma: Proposals and Perspectives From an International Consensus Meeting' J Clin Oncol 25(21):3168-3173, 2007
  • 『冠動脈バイパス術後に急変し,剖検で血管内大細胞型B細胞性リンパ腫と診断した一例』現代医学 65(2):93-97, 2017
  • 『血管内リンパ腫により治療抵抗性ショックと多臓器不全を呈した1例』倉敷中病年報 77:175-180, 2014
  • 『血管内リンパ腫のFDG-PETによる診断』PET Journal 32:33-35, 2015

大胆予想!『白い巨塔』2030年代くらいにリメイクしたらこーなる?

 『白い巨塔』がまたドラマとしてリメイクされテレビ朝日系列で放映中です。原作は1960年代に発表されていますが、これまで1966(映画), 1967, 1968, 1978, 1990, 2003(いずれもテレビドラマ), 2007(韓国でテレビドラマ化)そして今回と、何回もリメイクされています。

 私は原作を読んでいないし、過去放映されたドラマも見ていないので良く分からないのですが、時代の変化を反映し1.主人公 財前五郎の専門は、原作では胃噴門部癌の開腹手術→2019年版では膵癌の腹腔鏡下手術, 2.原作では教授陣が男性ばっかし→2019年版では、1名女性になっている, そうです。また、Twitterを見ていると「『2003年版は唐沢寿明でハマり役だった。今回はなんで岡田准一なんだ』と言っている人がいる。多分、今の世代も10年後くらいに『2019年版は岡田准一がハマり役だった。20XX年版はなんで寺田心なんだ』と言い出すだろう」という趣旨のツイートが流れてきました。

 そのような話題を受け、今回私は約10~20年後にまた『白い巨塔』がドラマ(或いは映画)でリメイクされる場合、どうなるのか大胆に予想してみたいと思います。一部アホで下らない妄想も含まれていると思いますが、何卒ご容赦ください。

① 主人公 財前が女性に?

 昨年、東京医大などで女性受験者の点数に意図的にハンデを付けて足切りしていた問題が発覚し、問題になりました。東京医大だけに関して言えば、その反動で女子受験者の合格率が上がったそうですが、他の大学に関して言えば、そこまでの変化は無かった様子です(下記リンク参照)。

 しかし、いずれ『医師の働き方改革』が進んで(あくまで希望的観測ですが)、女性が働きやすい環境が整えば、医療現場で女性医師がより前面に出てくる機会は増えるでしょう。それを反映し、これまで男だった主人公 財前が、女性医師になる可能性もあると考えました。

 学生時代からの友人、里見脩二に関して言えば、同性(女性)という設定になるかもしれません。もしくは、大学の同期で部活も同じだった男友達, 或いは元カレなんて設定も有り得るかもしれませんね。教授という地位によって豹変していく財前(女性)と、昔から抱いていた恋愛感情を捨てきれないまま、そんな財前を傍らで見守る里見(男性)の人間ドラマも意外と面白いかもしれません。

② 胃癌(開腹手術)→膵癌(腹腔鏡手術)→???

 冒頭でも触れましたが、財前の専門は、1960年代に書かれた原作では胃噴門部の開腹手術でした。しかし下に引用したツイートのように、現代では胃癌・大腸癌の腹腔鏡下手術(つまり、手術の低侵襲化)がかなり普及しており、原作の設定のように「◯◯の世界的権威」というキャラクターにする為に、まだ標準化に至っていない膵臓領域の腹腔鏡下手術(まだ開腹手術が主)を持ち出したようです。

 そうした経緯を踏まえると、2030年代くらいにリメイクする場合、財前の専門を何にするかがネックになります。2019年現在、医療分野にも活用が期待され、現在進行形で導入されている技術は、1. ゲノム編集・再生医療等の分子生物学/生命科学, 2. 人工知能(AI), 3. インターネット等を介した遠隔診療, 4. 手術用ロボット『ダビンチ』や脳動脈瘤の経カテーテル的塞栓術といった手術の低侵襲化, といったところでしょうか。

 私の予想では、4.のようなロボットを用いた手術が新たに財前の専門になるのでは無いかな、と思っています。或いは、財前が医療機器製造企業と新しいデバイスを共同開発し、臨床試験→実用化/保険適応に認可される, というストーリーも有りえるかもしれません。

③財前が訴訟に至る理由

 ネタバレは極力避けたいので、まだ見てない(読んでない)方はここの項目は飛ばすことをお勧めします。

 このドラマで財前は、手術を担当した膵癌患者に関して「念の為、他臓器へ転移や浸潤が無いか手術前に検査しては」とする医局員の進言を頭から否定。検査を行わぬまま手術に踏み切りました。しかし、術後に転移巣による合併症が出現して状態が悪化, ついには患者が死亡してしまいます。それが医療訴訟へと繋がるプロットのようですが、果たして2030年代にそのような設定が当てはまるでしょうか?

 原作が書かれた頃はCT, MRIといった画像診断技術は未発達でした。他方で2019年現在、上のツイートにもあるように様々な検査手段が存在しており、以前ニュースになった「画像上の所見見逃し」・「放射線科医の画像所見レポート未確認」という過誤さえ犯さなければ病変は診断できます。しかも、これから先AIの導入が進んだら、病変見逃しのリスクが下がることすら有り得ます。

 また、そもそも「教授が転移巣の存在を頭から否定し、医局員の助言を却下したまま手術に踏み切る」というプロット自体、実情にそぐわないと私は感じました。むしろ現在では、教授回診やカンファレンスの時などに、教授・指導医ら上級医が後輩に「この肝機能異常は何だ?手術予定の患者さんなのだからちゃんと原因を精査/鑑別診断しなさい」等の指導/助言を行うのが常ではないかと思います。

 そうなると、訴訟になる原因が別のものとなりまねません。可能性があるものとしては、

1. 財前が企業と共同研究で開発した体内埋め込み型デバイスが、ようやく臨床試験, ないし保険適応に漕ぎ着けた。財前と企業はより良い治療成績を残したいので、本来は適応とならない患者にまでこのデバイスを移植した結果、患者が合併症で死亡。或いは、デバイスの欠陥を企業とグルで隠蔽し、医療事故発生→患者が死亡。患者遺族が訴訟を起こす。

2. 長時間労働, 医局内のパワハラ等が原因で、若手医局員ないし研修医が自殺。事実関係に納得のいかぬ遺族が、訴訟を起こす。

といった設定だと私は想像しています。

 

 いかがだったでしょうか。今回は、私の妄想力をフル稼働し『白い巨塔』を魔改造して見ました。ツッコミや感想等ありましたら、遠慮なく教えて下さい。

【Jリーグ関連】ロールモデルとしての責任を問う

 昨年のサッカーワールドカップ以来、サッカーに興味をもった私は今年2月くらいからDAZNJリーグの試合や、欧州各国のリーグの試合のハイライト/見逃し配信を見るようになりました。

 Jリーグは昨年、外国人枠(1試合でエントリーできる外国人選手の人数)を、2019年度から5人に拡大(従来は3人だった)する方針を発表。そうした中で最も注目を集めたチームがヴィッセル神戸でした。2017年に元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキを獲得。昨年には元スペイン代表アンドレス・イニエスタ, 今年に入りダビド・ビジャを獲得し当初"VIP"と大きな期待が寄せられました。

 しかし最近は成績が低迷。これは私の主観が入っているかもしれませんが、リージョ監督が突然退任した後から、明らかに調子が狂っているように思えます。例えば、まだリージョ氏がまだ監督をしていた4/14のサンフレッチェ広島戦では、結局2-4で負けてはいますが、前半は2-1とリード出来ていました。また3/30のガンバ大阪戦では前半1-2とリードはされていましたが、激しいシュートの打ち合いを制し(逆転に成功し)3-4で勝利していました。その間の松本山雅戦は2-1で敗れていますが、私は「攻撃力は十分だ。守備を改善していけば、上位進出は確実だろうな」と素人目ながら考えていました。しかしその後、リージョ氏が辞任し吉田氏へ監督が交代。それ以降は失点が目立つはおろか、得意な筈の攻撃力・得点力すら鳴りを潜めたように見えます。

 資金力に物を言わせ、外国のトップリーグを経験した外国人選手や指導者を獲得する。これ自体私は悪いことだとは思いません。日本人選手と外国トップリーグ出身選手間で競争を生み出し、尚且つ外国人指導者を招聘して欧州・南米トップレベルの指揮や人材育成を導入することで、日本のサッカーのレベルが上がりワールドカップでの日本代表の成績向上に繋がると思うからです。

 ヴィッセル神戸は、Jリーグの各チーム内で特にそういったロールモデルになることを期待されていたと、(素人の勝手な見解ですが)私は考えています。しかしながら、(背景は不明とはいえ)せっかく招聘したリージョ監督は辞任し、それ以降の試合は"VIP"を起用しても勝つことができず。いくら才能を獲得しても、それを活かす戦略が乏しければ意味がありません。

 ヴィッセル神戸は、日本サッカー『成長戦略』のロールモデル, 或いはファンタジスタとしての責任を自覚し、早急に戦略やチーム運営方針等を見直して頂きたいと思っています。また、様々な憶測が飛び交うリージョ氏辞任の背景や、楽天会長の介入の有無等につき、情報公開を行いサポーターの不信感を払拭すべきでしょう。

救命センター・ドクターヘリ運営に関与して思ったこと

 今日は、大学病院で救命救急センター, 及びドクターヘリでの診療を通して感じた日本(或いは地域)の医療の問題点を綴ってみようかと思います。

(1) 3次救急病院ならば全診療科を揃えておくべきでは

 私の勤務する都道府県は、私の居る大学病院を含めると合計3箇所の3次救急病院があります(救命救急センターがあり、救急医が常駐)。目撃あり心停止や高エネルギー外傷, 薬物中毒といった他の病院では管理できない症例を診療するのが前提(のはず)ですが、時々大学病院以外の3次救急病院から大学病院へ、患者が転院搬送されてきます。私が見聞きした事例では、

1. 交通事故に巻き込まれた小児を初期治療で蘇生/安定させた(止血が完成している訳でない)が、小児外科が無いので手術目的に大学病院へ転院搬送。

2. 産科はあるが小児科が無いため、低出生体重児で何かしら緊急で治療が必要な場合、NICUが揃っている他院に転院搬送。

3. 交通事故の腹部外傷へ、救急科で初期治療を行い、外科で開腹手術を行って一旦安定させICUに入れるも、その後膵炎を発症(外傷の影響)。しかし同院の外科が手術的加療に及び腰であった為、救急科が大学病院へ紹介・転院させ、大学病院の外科が再手術を行った。

 これが、東京のように狭い範囲内に病院が複数ある場合は特に問題は生じないでしょうしかし私のいる県は、面積が広く、尚且つ山岳地帯が多いので移動に時間がかかります。一応ドクターヘリはありますが、天気が悪い日や夜間は飛べません。ドクターヘリが飛べない状況下では救急車で転院搬送するしかないのですが、1時間はまだしも2時間以上かかる事すらあります。救急車内に載せられる機材・薬剤は限られているので、転院搬送中に急変されたらたまりません。

 そういった事情を考えると、①面積が広い, ②島嶼部が多い, ③山岳地帯が多い といった要素がある都道府県では、ドクターヘリだけに依存せず、各地域で救急医療を完結できるように人員やインフラ(施設・設備)を整えることは必要と感じます。

(2) 2次救急病院の人員不足も問題

 私のいる県では、一部の地域で脳卒中の急性期の治療が十分に行えません。そもそも神経内科医がおらず、常勤の脳神経外科医がたった1名であったり, 常勤の脳神経外科医が2~3名居るものの脳梗塞急性期の治療をしない人たちだったりと、2次救急病院に十分治療を行うだけの人員やスキルが欠乏しているのです。その地域で脳卒中が疑われる急患が出た場合は、即ドクターヘリが呼ばれ、患者を回収。他の地域の病院の脳神経外科へ搬送するのです。言い方を変えれば、ドクターヘリが無いと脳卒中急性期の診療が満足に行えないのです。

【医療関係者向け】脳梗塞急性期の治療について - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 またこれまで数回本ブログで言及していますが、消化管出血時に内視鏡で緊急治療を行う体制が不十分な地域があります。出血で血圧が維持できない場合、確かに生理食塩水点滴や輸血で血圧を保つことはできますが、止血を達成しないと根本的な治療とはなりません。

大学病院・医局は監督者として適格なのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

大学病院・医局制度は地域に貢献しているのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 脳卒中や消化管出血, 心筋梗塞といった、迅速な加療で救命, ないし良好な機能予後が期待できる疾患へ、各地域で十分に対応出来るように人員を揃えることも必要ではないでしょうか。

(3) 『集約化』とはいえ中途半端過ぎる

 上記(1), (2)に矛盾するようですが、「医師の過重労働を軽減するため、急性期病院の集約化が必要だ」という意見が医療関係者の間でよく見られます(下記リンク参照)し、私も十分同意しています。例えば、ECMO(extracorporeal membrane oxgeneration; 遠心ポンプと膜型人工肺からなる人工心肺)を使うような心臓外科手術, ないしECMOを使用しないと循環が維持できない心筋梗塞の管理は、専門的な知識をもつ医師, 看護師, 臨床工学技士が必要となってしまいます。そのような症例に対応できる施設を、1つの都道府県内にやたらめったら作るよりは、1~2箇所で集中管理した方が効率的です。

 しかし、そのような集約化が中途半端な場合があります。以前、大学病院の救急外来へ手指切断の患者が搬送されてきました。(場合によりますが)機能の回復を図るため再接着手術を行うことも多く、施設/大学によって整形外科がやる場合と形成外科がやる場合があります。私の大学病院は整形外科がやるので、早速整形外科に相談したところ「再接着手術専門の医師が、今日は外勤(医局バイト)で居ないので、今日はうちではその手術ができない」と返答がありました。再接着の'golden hour'は切断後6時間と言われており、急ぐ必要がありました。県内の他の病院で再接着の出来る施設があったため、急遽そこへドクターヘリで搬送しました。

 また別の日には、手指切断再接着の出来る病院へドクターヘリで手指切断の患者を搬送しようとしたところ、2本切断されており「切断指が複数にまたがる場合、うちでは難しい」と言われて大学病院に搬送したという事例もあったのです。

 手指の再接着手術は特殊な技術/知識が必要なので、上記のECMOの事例のように、集約化して対応した方が効率がいいはずです。しかし現状ではこのように融通が利かない態勢となっています。

 

 今回、医局制度の是非についてとやかく言うつもりはありません。しかし、地域医療の手綱を事実上握っているのであれば、このような問題点を迅速かつ効果的にどう是正するのか、せめてビジョンくらいは示して頂きたいものです。